[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

SDM実践のための患者と医師をつなぐアプリも本格始動へ

医療法人東信会世田谷リウマチ膠原病クリニック 祖師谷・新宿本院
統括院長
吉田智彦
YOSHIDA_TOMOHIKO

2006年6月、それまで日本になかった膠原病診療を専門とする、医療法人東信会世田谷リウマチ膠原病クリニックが開業した。そのときの思いについて、現在、東信会の理事長・統括院長を務める吉田智彦医師は、「大学病院での限られた診療時間のなかでは、仕事や生活も含めた難病であるリウマチ膠原病の患者さんの背景をお聞きし、正確に病態を評価して適切な医療を提供するには難しい面があり、もっと患者さんに寄り添った医療をしたいという思いから、リウマチ膠原病に特化したクリニックの開業を決意しました」と振り返る。

リウマチに特化したクリニックに

ちょうど2003年当時、リウマチ領域で生物学的製剤治療という効果的な治療が日本に導入されたことも、開業に向け吉田医師の背中を押した。「この治療を入院を必要とせずに患者さんに最適なタイミングで行うにはクリニックがより適していると判断しました」という。

こうして開業したクリニックで診療をしつつ学会、論文発表をしているなかで、すぐに多くの患者が来院するようになり、さらにリウマチ膠原病に特化したクリニックで自分を高めたいという医師からのオファーが相次ぎ、「常勤、非常勤を含め、東信会には20人以上のリウマチ専門医が在籍するようになりましたが、そのほとんどが自ら応募してきた医師です。先生方は常に自身のスキルアップに努めながら、東信会の治療指針を理解し、世田谷リウマチ膠原病クリニック、新宿南リウマチ膠原病クリニック、長野県の東信よしだ内科・リウマチ科、さらにこの9月に開院した世田谷リウマチ膠原病クリニック祖師谷で診療にあたっています」と紹介する。

そんな吉田医師が課題として取り組んでいるのが、リウマチ膠原病の分野では専門医と非専門医の間でスキルや知識に差があり、また、大都市圏と地方で専門医の数にも大きな地域差があることだ。このため、地方の非専門医と世田谷リウマチ膠原病クリニックをオンラインで結んで遠隔指導する計画を進めている。

アプリ活用で診療の有効性と安全性を高める

さらに、吉田医師が今開発に注力し、来年から本格的に導入しようとしているのが、リウマチ患者と医師をつないで最適な治療に貢献するアプリケーションである。これまでも、リウマチ患者が利用するアプリはいくつか開発されているが、いずれも製薬会社が制作したものでそれぞれの会社の薬に紐づいているものだった。それに対し、このアプリは医師が発案して開発に関わっていることが大きな違いだ。「この5年ほど、患者さんと医療者の治療方針を共有化するSDM(Shared Decision Making 協働意思決定)の取り組みを進めるなかで、患者さんのウェアラブルウォッチやスマートフォンなどで関節の痛みなど日々の症状の変化や生活の様子を記録し、それを来院時に電子カルテ上で医師が共有して、診療に活かそうというのがこのアプリの目的になります」と解説する。

医師が電子カルテに打ち込む作業がなくなることで、患者の表情や患部の様子をしっかり診る時間が生まれることも大きく、「アプリの活用がリウマチ診療の有効性と安全性を高め、効率化にもつながると考えています」と話す。

またこのアプリは、現在クリニックで受診している患者以外で、リウマチを心配する人にも使ってもらい、「手のこわばりが気になる人や、関節の痛みを感じている人に対し、リウマチの危険度が表示できる簡易診断機能を付けています。そして、受診したほうがよいと思われる人には、位置情報を活用して最寄りの専門医を紹介できるようにしたいと思っています」と話す。

 その上で吉田医師は、リウマチは患者にとって症状がいつ良くなりいつ悪くなるのかわかりづらい病気だと指摘し、「特にリウマチは女性が患者の8割を占めており、生理前に関節痛が悪化したり、気圧の変化で症状が悪化したりするほか、個人差もかなりあります。そこで、このアプリには生理のサイクルを取り込む機能も設け、AIにより症状が悪化するタイミングを学習させることで、出かける予定を立てるのに活かすこともできるようになります。さらに、赤ちゃんがほしい患者さんの妊活にも活かしていただけることも目指したいです」と今後を見据える。

医師の治療目標と患者の治療希望の一致を

リウマチは80万人から100万人の患者がいると推定される難病でありながら、正確な人数やどのような治療をしているかについて、国としてのまとまったデータがないという。このため、症状や治療法も含め、患者と医療施設が情報を共有できるこのアプリによってデータが蓄積できれば、将来的により適切な治療につながることも期待できるという。

「自分たち専門医には患者さんの症状をよくするための『治療の目標』があり、患者さんにも学校や会社で担っている役割や子育てとの両立など、それぞれに『治療の希望』があります。東信会は一番大切なことに医師の治療目標と患者さんの治療希望を一致させることを掲げており、このアプリも活躍するはず」と吉田医師は思いを込める。

温泉などの効能で目にする機会も多いリウマチだが、患者がその病態を医師に伝えるのが非常に難しく、解決すべき課題が多いという。今この瞬間にも症状に苦しんでいる多くの患者のため、より良い治療に向けたこうした取り組みのさらなる進展に期待したい。

リウマチ膠原病の専門医として、責任を持って患者の治療にあたるのが自分たちの使命だと話す吉田医師。そのなかで経験として感じているのが、国内の地域格差とともに、欧米と日本のリウマチ膠原病診療のレベルの差だという。その差は年々縮まっているが、そのボトムアップによってもっと日本のリウマチ膠原病治療に貢献していきたいと話す。そうすることで、患者の症状を改善するだけでなく、不安や悩みにも寄り添い、日常生活におけるQOLの向上に役立ちたい。世田谷リウマチ膠原病クリニックは患者さんを寛解に導くことができる施設であり続けなくてはならないと吉田医師は熱く語る。

吉田智彦

RECORD

医療法人東信会世田谷リウマチ膠原病クリニック 祖師谷・新宿本院
統括院長吉田智彦
1993年聖マリアンナ医科大学卒業。同大学病院リウマチ膠原病アレルギー内科に入局。2006年膠原病診療を専門とする世田谷リウマチ膠原病クリニック開業。18年長野県の東信よしだ内科・リウマチ科を承継。20年新宿南リウマチ膠原病クリニック開院。22年9月に世田谷リウマチ膠原病クリニック祖師谷を開院。23年には、新宿南リウマチ膠原病クリニックを世田谷リウマチ膠原病クリニック新宿本院へ呼称変更。