[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

経営面を考えたうえで、患者に丁寧に向き合えるクリニックを

大宮ペインクリニック
院長
吉田史彦
YOSHIDA_FUMIHIKO

特定の疾患ではなく、痛みにフォーカスして治療を行うペインクリニック。痛みの種類や程度に幅があるなか、整形外科で行われる電気治療等では軽快せず、かといってまだ手術の必要性はない患者を診ているのが、吉田氏が院長を務める大宮ペインクリニックだ。再診以降も院長が診察し、神経ブロックと呼ばれる注射治療を行っているという吉田氏のモットーは「当たり前を当たり前に」。その思いが表れた診察への姿勢と、今後の展望について話を聞いた。

ペインクリニックは「ニッチな世界」

診断名が付かないものの、痛みが引かない。診断名が付き病院に通っているものの、痛くて仕方がない。そうした痛みの治療を行うのがペインクリニックだ。軽い肩こりレベルのものから、脊髄疾患など重いレベルのものまで、扱う痛みはさまざま。そのなかで、大宮ペインクリニックでは、整形外科で治療効果を得られなかった重い痛みを抱えている人の治療を行っている。

ペインクリニックでよく行われる治療が、神経ブロック注射だ。神経ブロックとは、神経やその近辺に薬を注入することで痛みの伝達を遮断する治療法で、痛みの緩和を図ることが目的だ。

自身の専門領域について、吉田氏は「ニッチな世界」だと表現する。「私の出身大学である日本大学でペインクリニックが盛んだったこともあり、触れる機会があったことがきっかけの1つです。麻酔科出身で、注射による治療が好きということから、神経ブロックのおもしろさに興味を抱きました。ただ、ペインクリニックを開業したときには、『なぜ整形外科で独立しなかったのか』と聞かれることが多かったですね。経営的に、整形外科のほうが格段に開業ハードルが低く、ペインクリニックで開業するのは茨の道だと思っています」。

治療対象を絞り予約制にしたことで、患者にも喜ばれる医療の提供が可能に

ペインクリニックの厳しさの背景には、医療業界自体が抱える課題がある。「社会保障給付費の増大により、保険診療にしわ寄せがきていますが、診療報酬は変わらない。経営維持のために多くの患者を受け入れ、薄利多売状態になっているクリニックは多いです。その結果、長時間患者を待たせておいて、診療は3分で終わるといった事態が起こる。これは医療の質の低下です」。

そこで吉田氏は、診療報酬が比較的高い神経ブロック注射で結果が出やすい疾患を対象とした。さらに予約制とし、医師がきちんと診察に当たれるオペレーションを確立している。

「当院では初診に30分以上の時間を取ります。また、再診以降も基本的に診察室に入っていただき、前回の治療後の変化をお聞きするようにしています。『全然効かなかった』とおっしゃられる患者さんも、聞いてみると1、2日は楽になっていたことがわかる。『それは効果があったということなんですよ』とお伝えし、治療への理解を深めていただくことが大事なんです。わからないままだと不安になるものですから」

日頃から説明を重視しているため、手術しか解決の道がなくなった患者も、納得の上で手術先の大病院へと向かえるのだという。

適切に病院を選べるようになることが、現場の負担や医療費の軽減につながる

「患者さんを自分の病院から離脱させないことは、病院の経営においても、医療費の増大問題にとっても重要」と吉田氏は指摘する。そのためには、治療精度を高めることも重要だ。そこで、画像装置を導入し、的確な場所に注射できる体制を整えている。

「的確な場所に打った上で、効き目について患者さんにお聞きすることが大事。実は、正しい場所に打っていなかったことが原因で効果を感じられなかったという患者さんは少なくない。治療の効果がない上に説明もされないとなれば、患者さんは別のクリニックに行ってしまうでしょう。ドクターショッピングは医療費増大の原因の1つですし、患者さんにとっても負担しかありません。病院のコンビニ化を防ぐためにも、説明と適切な治療が大事なんです。待ち時間を減らす工夫をするなど、通院しやすい環境作りも重視しています」

「ただ何となく整形外科に行って、電気治療を繰り返している」という人に、ペインクリニックを知ってほしいと語る吉田氏。「自分の状態に合わせて病院を選ぶことが、患者・病院にとって大切。今後も地元の病院では治療が難しく、大病院での手術にはまだ早い患者さんを診療してまいります」と語ってくれた。

吉田氏のモットーである「当たり前を当たり前に」について、吉田氏は元上司から言われた言葉が印象に残っているという。「予約制で患者を受け入れ、丁寧に説明を行って治療をしていることを話したとき、『すごいね。でも、それって当たり前のことだよね』と言われたんです」

患者の話を聞き、理解してもらえるよう説明するのは当たり前。精度の高い治療を行うのも当たり前。しかし今の医療では、患者数の増加と経営上の理由により、その当たり前を実行するのが難しいという現実がある。

「ペインクリニックの医師が増えないのも経営的な事情が原因」だという。大病院は手術により利益を生み出すため、麻酔科医が手術の麻酔に徹してくれていたほうが病院としては助かるという事情がある。「ただ、それでは指導者になったときにペインクリニックのことを教えられなくなってしまい、技術が絶えてしまう」と吉田氏は語る。

「私は今、休診日に大学で後輩に教えています。今後は、ペインクリニックの普及、後進の育成にもより力を入れていきたい。私は、満足度の高い治療を行えるようになったことで、患者さんから感謝してもらえるようになった。その感謝がモチベーションになるんです」

吉田史彦

RECORD

大宮ペインクリニック
院長吉田史彦
日本大学医学部卒業後、日本大学医学部附属板橋病院で研修し、麻酔科に入局。麻酔業務やペインクリニックの外来診療に従事し、助手、外来医長を務める。その後、茨城県土浦市のペインクリニック施設、きし整形外科内科に就職。整形外科領域の診療に携わり、神経ブロック技術を研さん。2019年、大宮ペインクリニックを開業。日本麻酔科学会指導医。