「終身雇用は崩壊した」といわれる昨今、一つの会社にとどまらないという働き方は、エグゼクティブにもいえることだろう。2001年4月に施行された高年齢者雇用安定法の改正により、定年が70歳まで引き上げられたことも要因となり、キャリアを見直すエグゼクティブも多い。そんな彼らを支えるのが、米本敦昇代表取締役が率いる米本株式会社だ。若い企業でありながら、老舗・大手人材紹介会社に引けを取らない理由を探る。
世界規模で優秀な人材の流動化を図る
●エグゼクティブとの直接的なつながりが武器に
「国内での外資、日系企業が優秀な人材を獲得する際に、我々の顔が第一に思い浮かぶ企業を目指す」をミッションに掲げている米本株式会社。2023年5月に創業した若い企業で、エグゼクティブとITプロフェッショナルの人材紹介を事業としている。
米本氏は、外資系大手人材紹介会社でリサーチャー、プレーヤー、マネジメントを経験。充足感はあったが、社内での役割が細分化され、求職者のニーズを満たしづらいという課題を抱いていた。その課題を解決するために起業。部署間の壁を取り払い、シームレスに対応できるという柔軟性が、他社にはない同社の強みになっている。
さらに、人材紹介の手法のウェイトが大きく異なっていることも、他社との差別化につながっている。他社では、人材を求める企業の人事部を経由して出された求人票と、求職者をマッチングさせるという方法が中心だ。一方で、同社では、他社のような手法も取るが、求人票にはない人材を獲得すること、つまりヘッドハンティングを強みにしている。しかも、他部署を介入しないことで、より直接的にニーズを汲み取ることができ、スムーズかつエンゲージメントの高いマッチングを実現している。
●顧客の企業に一歩踏み込んだ提案が可能
これを可能にしているのは、米本氏のプロフェッショナルな姿勢だ。レスポンスの速さ、言葉遣い、身だしなみに気を配るのはもちろんのこと、エグゼクティブと同じ視座で物事を見ることができるように、歌舞伎などの伝統芸能の鑑賞、茶道、美術館を体験。食事は赤提灯の居酒屋から一流のレストランまで足を運んでいる。こういったことのすべては、自身を飾るためではなく、相手から信頼を得るためだ。
顧客から信頼を得ることができれば、一歩踏み込んだ提案もできる。例えば、一人のエグゼクティブが自身の部署と、マネージャー不在の部署を兼任しているというケースがある。そういった場合、同氏であればそのエグゼクティブに直接アプローチをし、マネージャー不在の部署に合った人材を紹介することができるという。「人事コンサルタントに近い」と自身を表する通り、企業の上層にいるエグゼクティブとつながっていることによって、その企業全体を見渡し、人事や財政状況を把握したうえで、最適解を提案することまで可能にしている。「人材紹介は企業の運命や求職者の人生に大きく関わる仕事ですから、責任感はあります。それと同時にやりがいもありますね」と自信をのぞかせた。
●量よりも質で他社と差をつける
米本氏が仕事をする上で大切にしていることが二つある。一つは量よりも質にこだわることだ。大手であれば求職者を十人紹介してやっと成約に至るところ、同氏であれば、一人紹介するだけで決まることが多いという。この結果は企業からすると、自社への理解度の高さと誠実さの表れであり、これによって同氏はさらなる信頼を獲得している。「一人だけ紹介してそこで終わるのではなく、人事を支えるパートナーとして5年、10年と続く関係を築き上げていきたいですね」と目を輝かせる。
もう一つが社員の育成だ。同氏の手法は人脈に大きく依存することもあり、やや属人的ともいえる。そこで同氏は、社員が人脈を形成できるよう、エグゼクティブとの交流の場を設置している。「社員の成長は、私の刺激にもなります。やりがいをもって働いてもらえるように、私の経験とノウハウを共有しています」と明言。さらに「社員が成長して当社から独立をすることは、むしろ私の願いとも言えます」と語るのは、起業家マインドを持つ人材を増やし、将来的に彼らとビジネスを盛り上げていきたいという信念があるからだ。
米本株式会社は近い将来、グローバル展開をすることを公言。アジアを中心とした現地に海外オフィスを作り、世界的な規模で優秀な人材の流動化を図る。これは、創立時に掲げた目標でもある。ホームページには日本語と英語以外に、中国語表示も採用。米本氏がバイリンガルなのはもちろんなこと、中国語会話も可能な社員を採用し、土台を固めている。国の壁を取り払った上での人材の流動化もまた、他社には真似しづらい強みとなりえる。同社がグローバル展開することによって、企業は国にとらわれず優秀な人材を確保でき、求職者からすれば、働き方の選択肢を増やすというメリットを享受できるだろう。
新型コロナウイルス禍がもたらした唯一の功績ともいえるのが、働き方の見直しだろう。リモートワークやワーケーションという働き方が広く受け入れられるようになったことを、米本氏は歓迎している。「働く場所よりもパフォーマンス重視というのは、あるべき正しい姿だと思います。当社の事業を通じて、働き方の自由度を加速させ、世界の創造性を向上させたいですね」と意欲を燃やした。