[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

医療と福祉の両軸で、
地域の健康寿命を向上させたい

ソラーレクリニック太子
院長
八十川直哉
YASOKAWA_NAOYA

兵庫県の南西部に位置し、姫路市に隣接する揖保郡(いぼぐん)太子町。この街を拠点に、地域医療を支え、健康寿命の向上に尽力しているのが、22年10月に「ソラーレクリニック太子」を開院した、八十川直哉院長だ。同クリニックは、数多くの地方都市と同じく、この街でも顕在化する病院や医師不足の課題に応えるため、専門の呼吸器内科とアレルギーの治療に加え、予防医学や福祉の充実にも力を注ぐ。新たな可能性に挑戦し続けている八十川院長にその思いについて話を聞いた。

患者とその家族が安心して治療に向き合える在宅ケアを

八十川院長は、感染症やがん、アレルギーなど、幅広い診療に携わりたいという思いから呼吸器内科を専門に定めた。そしてもう一つ、医師になってから経験した出来事により、自身のクリニックを開業後、訪問診療や在宅医療にも積極的に取り組もうと決意した。

「医師になってから、病院に来ることが難しかったり、状態が悪化したりしたとき、在宅医療に移行される患者様に何度も接してきました。在宅に切り替わると担当が変わってしまうため、最後まで診療できない悔しさを感じていましたので、開業後は在宅ケアにも力を注ごうと決めました」と、当時を振り返る。

その思いの中で在宅ケアをスタートさせた八十川院長は、この取り組みを広げることで、地方都市が抱える課題を突破し、患者とその家族が安心して治療に向き合える環境を築けると確信した。「このエリアでは病院が不足しているため、いざ入院する場合、状態によっては遠方の施設で対応することになります。患者様はもちろんですが、ご家族にとってもそれは大きな負担となります。在宅医療ではその課題を解消できると考えています」と、より一層、在宅医療の取り組みを強化させたい思いを語る。

多方面からアプローチし、地域の健康を守る

さらに、ソラーレクリニック太子は、呼吸器内科やアレルギーを専門としながらも、治療ではなく「予防」の観点に立った取り組みとして、腸活アドバイザーによる指導なども取り入れている。栄養士と腸活アドバイザーの有資格者であるスタッフが、患者の状態を観察しながら最適な食事メニューを考案し、生活面での指導も積極的に行うという。

こうした取り組みは、地域の健康を守り、社会が抱える課題を突破したいという八十川院長の思いがきっかけだった。「超高齢化社会の今、治療を提供することと同時に、『病気にならない身体づくり』にも力を注ぐことが大切だと思います。健康的な身体を保つと、仮に病気に罹患したとしても回復する力が高まり、早く普段の生活に戻ることも可能です。治療だけに主眼を置くのではなく、より広い視点からアプローチし、地域全体の健康を守りたい。それが、地域に根ざしたクリニックの責務であり、より良い社会を築くためための足がかりになっていくと考えています」と、次世代のクリニックの役割について語ってくれた。

医療と福祉の両面から、地域医療の底上げを目指す

今後、さらなる需要が見込まれる在宅ケアを充実させるため、同クリニックは地域との連携を強める取り組みも実践している。地元で開催されるイベントやコミュニティなどに参加し、地域や福祉関係で働く人たちとの交流を深め、「ソラーレクリニック太子」が思い描く在宅ケアに対する思いを共有している。また、交流の中で知識を深め、より優れた医療体制を築こうと考えているのだ。「そうした取り組みによって知見を広め、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所を立ち上げるなど、福祉面にも軸足を置いた展開を考えています」と、八十川院長は教えてくれた。

さらに、在宅ケアに加え、地域医療の底上げを図る活動も視野に入れているという。その思いに至ったのは、圧倒的に専門医が不足していると感じたからだった。「例えばこの地域には、耳鼻科や皮膚科などの医院が不足しています。数が減ってしまうと医院の活性化が弱まり、医療知識の更新も乏しくなる。そうした事態を防ぐためにも、さまざまな専門医を招集し、この地域で総合的な医療を提供できる環境づくりを目指しています」と、力を込めた。

八十川院長は、クリニックを経営する上で、近江商人の哲学として知られる「三方良し」の精神についてこのように説明してくれた。「当院の患者様とそのご家族、取引をしている業者様、そして、地域の人々。こうした方々の協力により、当院は成り立っていると考えています。これらの方々に対し、どのような思いで接するのが最善なのか。その基準を大切に、さまざまな取り組みを展開していますね」という。

そして最後に、「三方良し」の精神に加え、「もう一つ大切な要素があります」と教えてくれた。「医療を提供するのは、決して一人ではできません。当院といっしょに歩むスタッフとそのご家族のご協力があってこそ、次の一歩を踏み出せます。これからもその視点を忘れず、一歩ずつ着実に進んでいきたいと思っています」と、微笑む八十川院長。その優しい眼差しが、幅広い人々と向き合う、「ソラーレクリニック太子」らしい地域包括医療を実現したいという思いにつながっているのだろう。

八十川直哉

RECORD

ソラーレクリニック太子
院長八十川直哉
2011年に川崎医科大学を卒業。同付属病院にて初期研修医を終了後、呼吸器内科に入局。2021年9月から在宅医療の勉強のため、グリーン在宅クリニックに就職。2022年には、川崎医科大学にて呼吸器内科学講師を務める。同年10月、ソラーレクリニック太子を開業。呼吸器内科とアレルギーを専門としながら、在宅ケアなどを通して地域貢献にも力を注いでいる。