[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

幅広い課題に不動産鑑定士が役立てる社会を目指して

株式会社グローバルマスタリー不動産鑑定
代表取締役
柳澤泰章
YANAGISAWA_YASUNORI

「不動産鑑定士の仕事を広く知ってもらい、もっと活用してほしい」そう語るのは、株式会社グローバルマスタリー不動産鑑定(以下「グローバルマスタリー不動産鑑定」という)代表取締役の柳澤泰章氏だ。同氏は、不動産鑑定士として、30年間にわたり、難易度の高い物件の評価を専門に行ってきた。また、専門書を著し、セミナー講師の経験も豊富。以前は、不動産鑑定業界のリーダー企業の代表取締役を務めていた。その後、「より幅広い方々の役に立ちたい」という思いを実現するために独立し、2023年1月にグローバルマスタリー不動産鑑定を設立。2期目を迎えた同氏に、不動産鑑定士の仕事とその役割が持つ可能性、今後の展望を聞いた。

不動産の価値を上げ、裁判にも携わる不動産鑑定士

不動産鑑定士の仕事は、不動産の鑑定評価額を決定することだけだと思われがちだが、「それだけではありません」と柳澤氏は力を込める。「不動産の価値を上げる方法を見つけることも重要な役割です。その不動産の価値を適正に評価することができれば、価値を上げるための道筋も自然と見えてきますから」。

不動産には、一つとして同じものはない。権利関係についても、複雑に絡み合い、個別性が強く、難解なものが多い。そのため、不動産の適正な価格・賃料を求めるには、評価に熟達したプロの仕事が求められる。不動産会社や建築会社は自社の利益につながるようなアドバイスを行う傾向があるため、利害関係なくフラットなアドバイスができる専門家は不動産鑑定士だけだという。

「難しい案件ほどやりがいを感じられる」という柳澤氏は、解決が困難な案件を積極的に手掛けてきた。時には裁判の意見書を書くこともあり、「裁判に勝ったり、税務署に税務上の評価とは異なる鑑定結果を提出して認められたりするとうれしいですね」と笑顔をこぼす。独立した現在も、他の不動産鑑定事業者では敬遠されがちな難解な案件の依頼が続き、多忙な日々を送っている。

不動産を裁く専門家、不動産鑑定士が天職

慶応義塾大学の経済学部を卒業した同氏は、広告の仕事をしたいと思い、家電メーカーに入社。希望通り宣伝部に配属され、願いはかなったが「ずっと雇われの身でいるつもりはなかった」と語る。32歳のある日、友人の話を通じて不動産鑑定士の存在を知った。そのとき、「自分の天職ではないか」と思ったという。

「人を裁くのは弁護士、企業を裁くのは公認会計士、不動産を裁くのは不動産鑑定士だと聞き、不動産を裁くという重要な役割に魅力を感じました。また、弁護士、公認会計士は身近にいましたが、不動産鑑定士はいませんでした。不動産鑑定士はそもそも人数が少ないと知り、その点にも惹かれました」

不動産鑑定士試験は難関で、合格するには数千時間以上勉強する必要があるといわれている。柳澤氏は、会社を退職して試験準備に専念。背水の陣を敷き、「朝から晩まで勉強していた」と振り返る。その甲斐あって、無事に合格する。不動産鑑定士として登録するには、試験合格後に実務修習を修了することが求められる。そのため、業界の中堅企業である株式会社東京アプレイザルに入社。実務に携わりながら、1996年に不動産鑑定士補、2000年に不動産鑑定士に登録した。

不動産鑑定士の役割拡大を目指し、独立・起業

実務についてからは、難しい案件を適切に着地させることにやりがいを感じ、積極的に取り組んできた。裁判の鑑定評価書も多数手掛ける。そのなかには、住民がディベロッパーを訴えた事例もあった。

「法律上は問題ないものの、『並木よりも高いものは建てない』という地域の同意に反するマンション建設計画について、住民側代理人の弁護士から意見書の依頼を受けました。並木より低い建物でも同じ容積のマンションが建設できるとする意見書を書いて、1審で勝訴しました」

順調に成果を積み重ね、不動産鑑定に関する専門書籍を著し、セミナー講師も多数務めるように。2018年には東京アプレイザルの代表取締役に就任。業界内での存在感を高めるが、5年後の2023年1月に退職。同月、グローバルマスタリー不動産鑑定を設立する。独立起業した理由は「新しいことをやりたかったから」だという。「鑑定の周辺の仕事をもっと広げたいという思いが強くなってきて。今までの殻の中でそれをやるよりも、新しい枠組みを作ったほうがいいと判断したのです」「新しい酒は新しい革袋に盛れ」を実践し、社名の「マスタリー」に不動産鑑定評価の達人の意を込めて、新たな一歩を踏み出した。

起業理由の「新しいこと」とは、「不動産の総合プロデューサー」だ。「不動産鑑定士は、不動産価格を上げるにはどうしたらいいのかがわかります。その方法に適した他の専門家をコーディネートすることも得意です。」例えば、収益性の低い賃貸物件の場合、賃料の上げ方を提案し、適切な建築会社やリノベーション会社などをコーディネートする。「その上で、実際に価値を上げるところまで伴走できるのは自分たちだけ」と自負を語る。複雑な相続案件の経験も豊富で、税理士や弁護士のネットワークもある。「不動産を相続することになったがどうしていいかわからない」といったケースにも力になれる。

「不動産鑑定士の使い方を知らない人がたくさんいると思います。そういう人たちに貢献できるように、隠れたニーズを掘り起こしたいと思っています」今後は、海外の顧客や不動産案件にも対応していきたいと語る柳澤氏。「儲かるから買いなさい」という仕事ではなく、所有することがステイタスになるような物件を扱っていきたいという。「海外の不動産は古くなるほど価値が上がります。日本でも、古くても価値のある不動産は相応の価格がつくようにしていきたいですね」

柳澤泰章

RECORD

株式会社グローバルマスタリー不動産鑑定
代表取締役柳澤泰章
1960年東京都葛飾区に生まれる。慶應義塾大学経済学部を卒業し、日本電気ホームエレクトロニクス株式会社に入社。1993年不動産鑑定士二次試験に合格し、翌年株式会社東京アプレイザルに入社。2000年に不動産鑑定士登録。2018年、株式会社東京アプレイザル代表取締役に就任。2023年1月に退任し、株式会社グローバルマスタリー不動産鑑定を設立、代表取締役に就任。