「より良い医療を追求する人にも、希望を失いかけている人にも、常に新しい治療の選択肢を示したい」。そんな想いを胸に、代替医療のフロントランナーとして走り続けている渡井健男院長。ヨーロッパでは広く用いられている代替医療だが、日本では保険診療信仰が根強く、普及へのハードルは未だ高いのが現状だ。その中で、「確かな根拠ある代替医療」を誰もがひとつの選択肢として選べる世界を目指し、奮闘を続ける。


代替医療が拓く、老いと病の不安から解き放たれる世界。


●ドイツで受けた衝撃
年間20000人の健康診断を手がけ、40社の産業医を務めるなど、東京都大田区で地域医療を担う東海渡井クリニック。多忙な日々の中で、渡井氏は飽くなき情熱で代替医療の可能性を追求し続けている。
渡井氏と代替医療との出合いは、大学院在学時に取り組んでいた研究がきっかけだった。血栓により急に動脈が詰まる「急性動脈閉塞症」という疾患がある。発症した場合はなるべく迅速に血栓を取り除く治療を行うが、血栓除去後に大量に発生する活性酸素を消すために、ビタミンCを大量投与するという治療の研究を行っていたのだ。今でこそ、ビタミンCと活性酸素の関わりは一般にも知られるようになったが、当時は画期的な研究として学会でも注目を集めた。
そして、活性酸素除去を行う代替医療である「オゾン療法」を知る。自身の血液の一部を採取してオゾンで活性化し、体内に戻すというものだ。渡井氏は本場ドイツへ飛び、オゾン療法の権威に学んだ。ドイツにはオゾン療法専門の病院があり、大きな治療成果を挙げていた。入院しているがん患者たちは、皆で運動などにも取り組みながら和気あいあいと治療に臨む。渡井氏は、日本とは大きく異なる病院の姿に衝撃を受けた。「これだけの人が良くなっているのに、なぜ日本では全然広まっていないのか」。そして、代替医療を日本で広めていく決意を固めたのだ。
●新しい治療の可能性を拓く
その後も、アメリカやマレーシアなど、数多くの代替医療の先駆者たちを訪れて学び続けた。渡井氏が日本に初めて導入した療法のひとつが、紫外線を血液に当てる「酸化療法」だ。氏はこの療法の導入を契機に「日本酸化療法医学会」を設立、現在は約270名の医師が在籍し、代替医療の普及と実践に取り組んでいる。
「私は本場で学ぶことを大切にしていますが、人種や生活環境の違いもあり、日本ではそのまま実践できない療法もあります。それを日本人に合うように工夫し、日本で安心して広めていけるような形にするのがひとつの私の役目ではないかと考えています。試行錯誤の結果、目に見える成果が出せると本当に嬉しい。『今まで何をしても治らなかったものが治った』という事実を、何例も目の前で見てきました」
「これぞ」という療法があれば、とにかく伝手を辿り、伝手がなければ何度でもメールや手紙を送って熱意を伝え、その道の権威に世界中どこへでも会いに行く。そして、日本人に合う形にして広めていく――。代替医療普及に情熱を燃やす渡井氏だが、日本では数々の壁が立ちはだかるのもまた事実だ。




●「時を巻き戻す医療」を目指す
日本では、「保険診療以外は認めない」という空気は根強い。マスコミに目をつけられ、代替医療が叩かれるという現象も何度となく起きている。それには、アメリカがルーツとなっている日本の医療と、代替医療が広く受け入れられているドイツ等ヨーロッパの医療との違いも大きいと渡井氏は話す。
「アメリカや日本の医療は、わかりやすく言えば、例え副作用が強くても10人中9人に効果があれば、治療として認められます。しかしドイツでは、副作用が無ければ、10人中2.3人にしか効果がない治療でもチャレンジするのは正しいのではないかという考え方です。アメリカや日本の標準医療と、ドイツを筆頭に、ヨーロッパの自然療法の医療は対極にあるのです」
100%の治療成績を目指せば、どんどん強い薬が必要になる。しかし効果が大きければ大きいほど、副作用も大きくなっていく。がんの標準治療はその最たる例だろう。手術をして、副作用の強い化学療法と放射線治療を行って、成果が出なければホスピスへ。そうではない、新しい治療の可能性をできるだけ多く提示するのが自身の役割だと渡井氏は確信している。
日本では予防医療や美容医療として認知されていることが多い代替療法だが、ヨーロッパをはじめとして世界の多くの国々では、幅広い疾患の治療として取り入れられている。代替医療の可能性をより知ってもらうために、渡井氏は「なぜ効くのか」という作用機序をはっきり伝えていくことを大切にしている。「怪しい民間療法」と混同されがちな代替療法を、確かな結果を出せる医療として日本に根づかせていくためだ。
「私の熱意の源泉は、家族や友人など私の周りの親しい人たちの不安をなくしたいという想いです。その不安を取り除き、喜んでもらいたい。そんな小さな想いの輪が、気づけばどんどん広がり、今の取り組みになっているのです」
今、渡井氏が見据えているのは「リバースエイジング」だ。医療界では「老化は病気であり、治療可能である」という視点が示され、新たな取り組みが数多く生まれている。若返りも、病気を治し元の健康な体を取り戻すことも、どちらも「時を巻き戻す医療」と言えるだろう。リバースエイジングには、代替医療が大きな役目を果たすことができると渡井氏は見る。誰もが老いの不安から解き放たれる世界を目指し、氏の挑戦は続く。