従来、建設・土木業界の現場は男性がほとんどで、厳しい縦社会が存在するものだった。しかしそのような現場は過去のものへと変わりつつある。例えば渡辺ブルドーザ工事株式会社が手掛ける現場では、複数の女性が重機を動かし、若手も役職を担って働く。「性別や年齢、キャリアよりも論理性・合理性を重視して目的を目指します」という、同社の渡辺敏弘代表取締役社長の方針が、今の若者が活躍できる建設・土木の現場をつくっている。


若手が働きやすい建設・土木の現場を


●富士山の護岸工事から災害復旧まで。
究極の「縁の下の力持ち」
富士山の西斜面にある、巨大な崩壊地「大沢崩れ」。大雨の際には土石流が発生し、下流の田畑や町に流れ混む危険のある地帯である。富士山のお膝元にある渡辺ブルドーザ工事の原点は、この富士山「大沢崩れ」から流域の人々の暮らしを守る砂防工事だった。
「毎年山肌から大きな石や、大量の土砂が崩れ落ちているため、土石流が麓まで流れてしまわないよう、谷の途中で受け止められる砂防堰堤を作る工事を弊社では1958年の創業以来行ってきました。今もメイン事業とするこの公共事業から、重機で行う土地造成工事や土地区画整理工事等、それに付随する運送業や解体工事業、解体時に出るコンクリートの破片や塊を処理する処理プラントを運営しています」と渡辺氏。
建設・土木関連事業を通して静岡県の人々の生活の土台をつくる同社の手腕は、被災後の復旧活動の際にも発揮された。東日本大震災の際には、被災した宮城県石巻市にある日本製紙の石巻工場に人員を派遣。さらに能登半島地震のときも、現地で2週間程、自社の重機を活用して災害復旧活動を行い、その功績により国土交通省から表彰を受けた。
渡辺氏は、「『困ったときはお互いさま。まずは自分がやる』。これが私たちが大事にしている“ワタブル”マインドです」と、社会貢献活動を率先して行う同社の信念を明かす。
●厳しい経営状況を立て直し、若手が希望を持てる会社へ変貌
元請会社で働いていた渡辺氏が、家族からの要請に応じて家業の渡辺ブルドーザ工事に入社したのは1995年のことだった。入社した当時の会社内は、年配の社員が重用され、若手が委縮しているように見えたという。
「若い従業員だって、本当は言いたいことはたくさんあるでしょうし、年齢や社歴も関係なくお互いの意見をちゃんと言って、話し合いができる組織にしたいと思いました。やるべき仕事は同じだとしても、仕事に携わる従業員の活かし方を変えていきたいと思ったのです」。
そんな思いを胸に抱きながら一社員として仕事を続け、2019年、会社の経営が非常に厳しい中で先代から「お前が社長をやれ」と使命を受けて就任。難しい舵取りを迫られたが、「祖父、父と頑張って繋いできたこの会社をつぶすわけにはいかない」と、今まで取引のなかった会社を回り毎日営業をかけ、現場にも出て仕事に励んだ。同時に、組織改革にも取り組んだ。「特に重視したのは、若い人が働きやすい環境作りです。年齢関係なく能力がある人が上に行けるように組織体制から変え、若手の人間を部長に引き上げ、従業員の給料も上げました。この業界の10年後20年後先は、今の若い人たちにかかっていますから、大切に育てていける体制にしたいと思ったのです」。
就任から必死の思いで走り続け、2年程経った頃には依頼も増え、会社の業績も上向きになっていたという。




●日々改善される建設・土木業界の職場環境
3K(きつい・汚い・危険)のイメージがつきまとってきた建設・土木業界も、テクノロジー化が進み、従来の職場環境が変わっていく中で若手、そして性別関係なく活躍できる仕事へと変わりつつある。
「建設土木、と仕事をひとくくりにするのではなく、その中で担う役割はたくさんあります。その一つ『重機オペレーター』は、操縦に力は不要で、男女共にこの先年齢を重ねても長く続けられる仕事です。埃の入らない空間の中で、エアコン完備、音楽も聴きながら作業ができることはあまり知られていないことだと思います」と、渡辺氏は明かす。
渡辺ブルドーザ工事は若者が安心して意欲的に働ける業界にしたいと日々施策を実行。同社では3Dを活用し、工事基準の位置目印となる「丁張り」なしで効率よく掘削できるICT建機を導入するなど、最新機器を積極的に導入し、効率化を進めて労働時間の削減にも取り組んでいる。
渡辺代表の目標の一つは、全国各地で開催されている重機オペレーターの腕を競う競技会を静岡でも開催することだ。「地元静岡の方が出場したら、その方の家族や仲間が見にきますから。そこで子どもたちが重機について知るきっかけとなって興味を持っていただけたらうれしいと思います。親世代に対しても、昔と違って今は建設・土木の業界が変化し、クリーンになってきていることを伝えたいですね」。
渡辺ブルドーザ工事は、人々の生活の安全を守り、危険も未然に予防するという、注目が当たりにくい、縁の下の力持ちと言うべき仕事を続けてきた。誰かがこの仕事をやらなければ、生活の安全が脅かされる。「うちがやらなきゃ、誰がやる。」この言葉を合言葉に、66年、暮らしを守る安全のバトンを繋いできた。
そんな渡辺ブルドーザ工事は現在地元企業と連携し、地域で新たな事業の創出にも積極的に取り組んでいる。「この地域は製紙会社が多く、製紙工場から出る廃棄物をリサイクルして肥料にして販売できるように皆で取り組んでいます。弊社は運搬もできますし道具も全て揃えていますから、来年には実現できるでしょう」。
渡辺氏は今も現場に出て作業を行う。「私は現場が好きで本当はずっと現場に出ていたいです。上の人間が言うだけで動かなかったら、部下もついてきてくれません。『まずは俺がやる』と私が最初に出ていけば、社員も安心して後に続いてくれると思います。そこは変わらずに大切にしていきたいですね」と微笑む。
若手が活躍する建設・土木業界をつくり続ける渡辺ブルドーザ工事のこれからに注目したい。