DXやAIが話題になり、「取り入れなければ、取り残される」と焦りを感じさせられる言説が溢れている。しかし、企業にとって先端技術を取り入れることが本当に必要なのだろうか?「必ずしも最新技術を取り入れる必要はありません。自社に適したものを使いこなすことの方が大切です」と語るのは、最適なシステムの提案から恒常的な運用の仕組みづくりまでをサポートする、株式会社イルミナードの代表取締役津島靖彦氏だ。津島氏にDXの考え方やイルミナードの事業について話を聞いた。
クライアントに本当に必要なDX推進をトータルでサポート
●ルールベースのシステムで生産性を向上
同社が手掛けているのは、DX推進を行う上でのコンサルティングおよびAIやデータ分析を用いたシステム導入支援。また、導入後の運用体制の構築支援や関連する教育も得意としている。技術面で中心に据えているのは「ビジネスルール管理システム(BRMS)」と「デシジョンマネージメント」だ。
「ビジネスルール管理システムとは、プラットフォームにルールを登録していくと、そのルールに基づいた判断をしてくれるものです。1980年代に、専門家の判断ルールを登録して故障原因などを診断するエキスパートシステムというものがありましたが、それの延長のようなシステムです」と津島氏は話す。
エキスパートシステムがルールをプログラムで記述していたのに対し、ビジネスルール管理システムは、ルールもわかりやすく登録できる。そのため、プログラマーではなく、業務担当者がルールを登録、メンテナンスすることが可能。どのルールを使って、どう判断したかもトレースできる。ビジネスルール管理システムの「ビジネスルール管理」を一歩進めたのが「デシジョンマネージメント」である。ビジネスルールによる「意思決定」を自動化、さらに最適化していく取り組みだ。
●ユーザと同じ目線で一緒に走っていく
ビジネスルール管理システムのプラットフォームはIBMをはじめ、多数の会社が提供している。イルミナードは、その中からクライアント企業に最適なものを選んで提案する。業務分析からシステム構築・稼働、定常的な運用の支援まで、クライアントのニーズに応じて対応可能だ。
津島氏が手掛けた「ビジネスルール管理システム」の代表的な事例は、大手生命保険会社の新規契約者申込審査システムである。保険によってさまざまな審査項目があり、その内容で加入の可否と保険料が決まる。審査の基準が比較的頻繁に改定されるため、ユーザ自身が審査基準のロジックを改定できる仕組みが求められていた。
「当時としては野心的なシステムだったんですよ」と津島氏は微笑む。システムの設計・構築だけでなく、運用方法や体制作りなども含めてトータルで提供した。
世の中には、システムを導入しても利用されないケースが多々ある。活用され続ける状態を作るためには、初期の段階から現場に参加してもらうことが大切だと津島氏は語る。
「開発や導入の段階から触ってもらいます。頭だけではなく手を動かしてもらうのが一番ですね。同じ目線で一緒に走っていくことを心掛けています」
●人を思い、助け合って仕事を成し遂げる
津島氏は、東京工業大学大学院修士課程で、修士論文のテーマにフィリピンの人口移動を選んだ。「スラムの研究をしたかったのですが、『危ないから止めてくれ』と教授に止められました」と笑う。卒業後、製造業企業で基幹システムの開発に従事。AIを用いた生産計画システムにも携わり、2004年に独立。2022年に株式会社イルミナードを設立した。
学生時代の願いを胸に、青年海外協力隊に参加したり、NGOの代表を務めたりした時期もあった。「途上国の開発支援をやりたいと思って。その思いは今もあります。テクノロジーが生かせるところも多々あるので、培ってきた技術や経験を生かし、舞台裏で支えることも考えています」
思い出に残る経験を尋ねると、製造業時代に携わった、海外で新会社を立ち上げるプロジェクトを挙げた。生産工場の全体システムの構築と稼働がミッションだったが、現地でシステムを担当する日本人は津島氏一人だったという。
「最後は自分がなんとかしないといけないというプレッシャーを非常に感じました。現地の開発会社や、現地スタッフの方々および日本からのシステム開発の支援など、優秀なスタッフの助けを借りて無事立ち上げられました」
デシジョンマネージメントは、ルールを使って判断するところで終わらず、判断結果をデータ分析し、フィードバックしてルールをブラッシュアップする。わかりやすい例は、クレジットカードの不正請求の検知だ。不正ではないと判断した結果を分析し、実際には不正請求だったものを発見して、それをルールに追加するといったサイクルを回す。
「日本語で意思決定というと、投資や新工場立ち上げなど、かなり大きなことをイメージすると思います。デシジョンには、そういうものだけでなく、日常的に人間が行っている小さな判断も含むのです」
津島氏が目指しているのは、機械的な判断ができるデシジョンは機械に任せ、人間は機械が判断できるような仕組み作りや、人間でしか判断できないデシジョンに専念できる、人と機械が高いレベルで協働/共生する世界だ。
「常に顧客の視点に立つ。単に技術を使って物をつくり導入するのではなく、顧客にとって今、何が本当に必要なのかを考え、先端的な技術導入にこだわらずに、その顧客に最も適したDX推進を大切にしていきます。今後は、ユーザが自ら主導していくDXの推進、そのための啓蒙活動や伴走支援にも力を入れていきたいですね」