[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

働く側の利便性を追求する人材派遣業で社会にも貢献

株式会社エントリー
代表取締役
寺本
TERAMOTO_JUN

人材派遣会社の代表取締役まで上り詰めたものの、新たに短期特化の人材派遣会社を創業した寺本氏。常に働く側に立ち、あったら便利だと思う画期的なサービスをいくつも実現してきた。また社員にとって働きやすい環境の創出だけでなく、シェアリングエコノミーを活用した新しい働き方も提案。さらにその先では、引きこもりの人達や子育て中の女性をはじめ、家から出られない人達と社会を繋ぐ、新しい仕事のあり方にも取り組む予定だ。

人材派遣業界の常識を覆す

1~2日の短期で倉庫での仕分けや梱包といった軽作業に特化した人材派遣会社のエントリー。代表取締役の寺本氏は、業界の常識を打ち破る画期的な取り組みを次々と成功させていった。代表的なのが申請から2時間以内に給料の全額を振り込む「24時間365日即日全額振込」だろう。寺本氏が10年以上前から構想を練り、銀行への粘り強い交渉によって業界初のサービスとして2017年に実現させた。「働く側にとって、短期で働くことのメリットは給料がすぐに支払われること。この利便性をさらに上げることが重要」と振り返る。

それ以前から導入していたのがフィールドディレクター制である。これはフィールドディレクターと呼ばれるエントリーの社員が、派遣スタッフのサポート役として現場で一緒に働くというもの。派遣スタッフの不安を取り除くことで安心して働いてもらい、継続してエントリーを利用してもらうことを狙った。人材派遣会社に発注する企業にとっても、フィールドディレクターを介すことで現場の管理がしやすくなるメリットがある。

「この利点が最大現に生かされているのが、外国人留学生が多い現場。正社員の中国人やベトナム人をフィールドディレクターとして派遣するので、現場の仕事が滞りなく進行する」と、派遣スタッフと顧客との橋渡し役になっている点をアピールする。

月平均残業を18時間まで減少

24時間365日、スマートフォンのアプリ「スマジョブ」を通じて、いつでもどこでも登録できる点もエントリーの特徴である。さらに画期的だったのは、「スマジョブ」に社名以外のすべての求人情報を掲載し、登録スタッフに自由に仕事を選べるようにしたことだった。これまでは人材派遣会社が登録スタッフの希望を聞きながら一つずつ仕事を紹介し、互いの条件をマッチングさせていくのが一般的だった。

「これまでのやり方では派遣先が決まるまでに手間暇がかかり、それがうちの社員の長時間労働を招いていた。働き方改革の一環として、2015年にアプリを制作する際に取り入れた」と、その目的を話す。その結果、月平均70~80時間だった残業は同18時間まで減少。あわせて多いときは6割以上だったという新卒社員の離職率も2~3割まで減った。

離職率を減少させる取り組みとしては、寺本氏自らが全国各地に新入社員の実家を訪問する家庭訪問を2016年からスタートさせている(現在はコロナ禍のためオンラインで実施)。「もともとは離職を防ぐために、ご両親に会社の理解者になってもらうために始めたもの。ご両親から子供の頃のエピソードなど、いろいろな話を聞かせてもらうと社員のバックボーンが理解でき、会社と社員との関係性を深めるのにとても役立っている」と、今では欠かせない取り組みであるという。

世の中に先駆けた新しい働き方

そして、これからの時代において期待できるのが、2019年から始めた「シェアジョブ」である。「以前から、これからは新しい働き方がどんどん出てくるはずと思っていた。そのうちの一つが、ちょっと困ったときに仕事の依頼ができるというもの。しかし、コロナ禍で思うようには伸びていない」というが、その内容は興味深い。スマートフォンのアプリでシェアリングエコノミーを実現させたもので、家の掃除や家具の組み立てといった仕事を、個人間で気軽に発注・受注できるという仕組みだ。

もともとは高齢化社会を見据え、電球の交換や倉庫の掃除といった高齢者が負担に感じる作業なども想定していた。さらに「シェアジョブ」は人手不足が深刻化している農業をはじめ、地方創生においても役立つ力を秘めている。「農家によっては、通年ではなくその時々によって人手が必要な場合もある。1週間だけ田植えや収穫を手伝ってほしいとか。そんな場面で農家の人手不足を解消したい」とこれからの普及に力を入れる。すでに青森県をはじめとした自治体とタイアップしており、確かな手ごたえを感じているという。

当面の目標は、コロナ禍で中断していた海外進出である。シェアリングエコノミー事業をまずはベトナムで展開し、日本企業ならではのきめの細かいサービスで勝負する。その後、カンボジアやインドネシア、タイといった東南アジアへ広め、その先はインドやアフリカへの進出も計画している。「こうした国々は日本以上の格差社会。仲介業者が賃金の多くを搾取するケースも多く、労働者が働きに見合った対価を得られるようにしたい」と、社会貢献にも意欲を燃やす。

2025年頃にはロボット派遣にも進出する予定だが、寺本氏が大切にしてきたのは、働く側にとっての利便性の向上。ゆくゆくは障害者や引きこもりの人達、子育て中の女性など、外で働くことが難しい人達へ仕事を紹介することを目指している。「全国の自治体にはデータ入力など、家の中でもできる仕事はたくさんある。家から出られない人達と社会を繋げることにも挑戦したい」と、寺本氏のビジョンは大きく広がっていく。

寺本潤

RECORD

株式会社エントリー
代表取締役寺本潤
1971年大阪府生まれ。ディスプレイ会社、広告代理店を経て、派遣スタッフとして活躍した後に人材派遣会社に入社。エリアマネージャーや執行役員などを経て、2009年に代表取締役に就任するものの1年で退任。2014年に人材派遣会社の株を買い取り、2014年に株式会社エントリーを設立。利便性を高めたサービスを次々と打ち出し、業界をリードする。