新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、うつ病やうつ状態の人の割合が倍以上に増えるなど、パンデミック(大流行)が人々のメンタルヘルス(心の健康)に大きな影響を与えている。「ヒプノセラピーMIRACLE」の谷秀輝代表は、現役マジシャンでありながら、コロナでメンタルに不調を訴える人の悩みに応えようと、催眠療法(ヒプノセラピー)を学び、事業所を開設した。


催眠療法で人々を笑顔にそしてMIRACLEを起こす


●コロナ禍で深刻化するメンタルヘルス
経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本では、うつ病やうつ状態の人の割合は、新型コロナが流行する前は7.9%(2013年調査)だったが、2020年には17.3%と2.2倍になっていた。他の先進国でも2~3倍に増えており、若い世代や失業者、経済的に不安定な人の間で深刻化しているという。
マジシャンとして活躍していた谷代表は、友人らから「話しやすい」といわれ、さまざまな相談に乗ってきたが、コロナの流行でメンタルの不調を訴える人が増えたことを実感した。「コロナが流行して、職を失った方ですとか、転職をされる方でうつの症状に悩んでいる方々が多くて、これは自分もちょっと専門的に学ばないといけないと思った」といい、通信制の大学で心理学を学び始め、さらに米国の催眠療法の資格を取得。2020年7月に「ヒプノセラピーMIRACLE」を開設し、催眠療法によるセラピーをスタートした。
「催眠療法」というと、テレビのバラエティー番組などで紹介される「催眠術」と混同されがちだが、代替医療の一つで、催眠状態で人間の潜在意識に働きかけることで、不安などの感情やトラウマの解消などにつなげていくものだとして、研究が進められている。米国では痛みの緩和にも活用されているという。
●周囲の不安に応えて催眠療法に
谷代表が催眠療法に関心を持ったのは、マジシャンとしての活動がきっかけだった。中学生のころ、おとなしくて友人もいなかったという谷代表がテレビでマジックを見て、「こんなことができたら友達ができるのでは」と思い、見よう見まねのマジックを学校で披露すると大好評で、中学3年生からマジシャンとしての活動を始めた。介護施設などでマジックショーを開く中で、「種を明かそうとするお客さんがいて、種を明かせないマジックをやりたいと思ったら、潜在意識にアプローチする方法があることに気づいた」という。
専門のテキストなどを入手して、レパートリーを増やしたと同時にその奥深さに気づいた。「潜在意識にアプローチする方法はかかりやすい、かかりにくいということがあったり、相手との信頼関係が必要だったりする。そこから人の心に興味を持つようになりました」と語る。コロナ禍でマジックショーの開催が困難となり、周囲から不安を訴える相談が増えたこともあり、催眠療法に取り組むようになった。


●十人十色のアプローチ
実際のセラピーでは、まず催眠療法について説明をして、その後カウンセリングを行って信頼関係を構築してから、催眠に入るという。催眠術ではないので、指をパチン鳴らすとかかる、かからないではなく、リラックスをしてもらい、催眠状態になってもらって、イメージを広げてもらう『イメージ療法』や、トラウマになる出来事があった時に戻ってもらう『年齢退行療法』を行います」という。「十人十色といいますが、例えば同じうつでも、その人の歩んできた人生やバックグラウンドが違うので、それぞれに親身になってアプローチすることを心がけています」と語る。
谷代表は「マジックでは、人の視線や意識をコントロールして、トリックに気づかせない『ミスディレクション』というものがあります。セラピーでもそうした技術が同じように役立ち、人の笑顔や幸せに繋がると、それが次の自分の活力になるんです」と笑顔を見せる。
「ヒプノセラピーMIRACLE」というクリニック名について、谷代表は「マジックで奇跡(ミラクル)を見せるということもあって、みなさんに奇跡を起こせたら、という気持ちで付けました」と語る。現在、診療内科との医療連携や催眠療法の育成などの準備を進めている。谷代表は「催眠療法はまだ知られていないので、YouTubeなどを通じて理解を広げていきたい」と力を込めた。