[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

名大発ベンチャーが、細胞事業発展への貢献を目指す

株式会社Quastella
代表取締役 CEO
竹本悠人
TAKEMOTO_YUTO

2019年12月に創業した株式会社Quastella(クオステラ)。名古屋大学大学院創薬科学研究科分子情報分野の准教授、加藤竜司氏が立ち上げた名大発のベンチャー企業である。20年を超える研究成果を元に、培養細胞を高度に品質管理するための技術やシステムを提供している。代表取締役CEOの竹本悠人氏は、同大学院在籍中に加藤准教授(当時CEO)に誘われ同社に参画。当時、製薬企業に内定していたが悩んだ末にそれを辞退し、同社への参画を決意した。葛藤を抱きながら、自身の内面を突き詰めて考えるなかで見えてきたのは、「研究成果をいち早く社会実装して世界を変えたい」という思いだった。

大手製薬企業の内定を辞退し、ベンチャーに挑戦

学部生時代は、古細菌に関する基礎研究を行っていた竹本氏。基礎研究は社会実装までの道のりが遠い分野であり、研究成果がどのように社会に役立つのかイメージができず悶々とした気持ちでいた。大学院では、実用性の高い分野である応用研究を行う加藤研究室に配属。同研究室では、細胞の画像情報を用いて細胞の品質を評価・予測するという、クオステラ社の技術基盤となる研究を行っていた。博士課程2年次に就職活動を開始すると、加藤准教授から「一緒に働かないか」と声が掛かったという。大手製薬企業の基礎研究分野の研究職に内定が決まるなか、竹本氏は自身の将来を決める大きな決断を迫られることになる。

ベンチャーは魅力的だが、先が見通せない不安がある。製薬企業は安定した生活が望めるだろうが、社会実装までの道のりは長そうだ…。葛藤のなか、自身の思いを深く見つめ直した竹本氏が出した結論は、ベンチャーへの挑戦だった。「好きな研究を通して世界を変えたいという、自分自身の根底にある願いを思い出し、クオステラ社への挑戦を決断しました」と、当時の心境を語る。

細胞培養の品質管理を担い、細胞事業の“産業革命”を目指す

近年、再生医療や創薬開発、培養肉などの分野において、生きた細胞を用いたものづくりが始まっている。これらは未来を担う産業に発展するとして注目されているが、それを支える細胞培養は技術者により手作業で行われているのが実情だ。かつて手作りされてきた自動車や電子機器、食品も、生産工程を高度な工学技術へ置き換えることで、革命的な発展を遂げた。

「細胞事業においても、このような“産業革命“が急務です。そこで、細胞画像解析技術を基軸とした工学技術を活用し、細胞培養の品質管理を行うことで細胞事業を下支えするのが当社です」と解説する。

主な事業内容は、細胞培養プロセスにおける画像解析と、安定的な画像解析を実施するためのコンサルテーションの提供。同社は、画像解析×AIを基盤とし、細胞画像からの様々な細胞状態を定量化して、細胞品質の予測システムや画像解析技術を駆使し、細胞品質管理システムを提供する。細胞の品質を効率よく見分けることは、これまで属人的だった細胞培養の現場において非常に有用である。将来的にはハードウェア技術と融合し、人間がしている操作を全てロボットに置き換えることができる細胞培養の完全自動化への貢献も目標の一つだそうだ。

細胞品質管理におけるグローバルスタンダードを作りたい

同社は、“Make it Alive”というミッションを掲げている。これには、細胞事業を支えることで、細胞を利用した科学や産業、医療を活性化させ、結果的にさまざまな社会問題を解決したいという思いが込められている。

「再生医療や培養肉等によって、衣食住のすべてが細胞に支えられる未来がくるかもしれません。細胞事業の産業革命が実現化すれば、想像できないような世界が見られるのではないかと期待しています」と、竹本氏は話す。

現在、細胞培養の品質管理方法におけるグローバルスタンダードは確立されておらず、これが世界の細胞事業のボトルネックとなっている。同社は2023年に、愛知県のディープテック推進事業“Aichi Deeptech Launchpad”に採択され、研究開発費の支援を受けられる体制となった。また、スタートアップを支援する著名な企業もコラボレーターとして参画することとなり、強力なサポートを得られる状況だ。「今は、アメリカやシンガポールが細胞事業の先陣を切っている状態ですが、これを機に我々も世界に挑戦したいです。そして、細胞品質管理におけるグローバルスタンダードを作りたいと考えています」と意気込みを見せる。

若くしてCEOに就任した竹本氏。「学生から直ぐに当社に参画したこともあり、組織作りや営業活動、契約書作成などの事務作業に至るまで、初めて経験する業務に日々苦戦しています。しかし、壁に直面しても、経営陣をはじめ経験豊富なメンバーが支えてくれるので心強く感じています」と謙虚に語る。

細胞品質管理のグローバルスタンダードを目指す同社だが、ライバルとなるような企業が日本にあるのかという問いにこう答えた。「日本ではまだ、同じような事業を軸とした企業はあまりありませんが、細胞培養を支えようとする企業は生まれ始めています。まずは、細胞事業が産業として成り立つことが第一歩ですので、共に協力し合いながら業界を盛り上げていきたいです」。細胞事業がどのような発展を遂げ、世界を変えてくれるのか、今後の動きに目が離せない。

竹本悠人

RECORD

株式会社Quastella
代表取締役 CEO竹本悠人
2018年岐阜大学化学生命工学科卒業後、名古屋大学大学院創薬科学研究科入学。2023年同大学院博士後期課程を修了。在学中の2022年2月、株式会社QuastellaにCTOとして参画し、2023年7月代表取締役CEOに就任。