[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

成熟した社会では女性の躍進こそ社会制度維持の鍵となる

税理士法人アイエスティーパートナーズ
税理士
髙野眞弓
TAKANO_MAYUMI

1975年の独立以来、およそ半世紀にわたって多くの経営者から悩みの相談を受けてきたアイエスティーパートナーズの高野眞弓氏。税務に留まらない「お金」のアドバイザーとして、経営や個々人の暮らしに寄与してきた。特に、「通常の税理士事務所では累計で十数件程度」という相続税に関しては、既に100件以上の依頼に応えてきたという。現在は代表社員という立場から、一歩退いて現場をみている高野氏に話を聞いた。

相談を受ける際は聞き役に徹する

クライアントとの相談で大切にしていることは、相手と同じ目線に立って聞き役に徹すること。「鏡に向かっているのと同じです。鏡は何も答えてくれません。自分で自分の顔を見て欠点を探すのです。自分で答えを探すのが、もっとも賢明な方法です」

話しているうちに、相手は頭の中が徐々に整理されていく。その代わり時間がかかる。一度の相談では解決せず、何度か顔を合わせていく。
「最初のうちは、“あの先生、大丈夫かな?”と不安に思う方もいると思います。若いうちは、自分の持っている知識で相手を説得しようとしてしまう。でも専門用語は門外漢には通じません。それに、“先生のアドバイスのとおりにやったけどうまくいきませんでした”と言われるのが何よりも辛い」

だから、クライアントが自ら答えを出すように話を受けていく。壁打ちの壁になるのは意外と体力を消耗するが、ひたすら相手に向かい続ける。
「50年続けているうちに覚えた術です。長くお付き合いしているうちに、相手から“ちょっと聞いていてください“と言ってもらえるようになるのです」

作家になるために選んだ税理士の道

十代の頃は作家に憧れていたという高野氏。新聞記者を志すも「その細い体じゃ、夜討ち朝駆けの記者稼業は無理だろう」と叔父にたしなめられた。高校の恩師に相談するも「お前の文章力なら食っていけるようにはなるだろうが、人間どこでどうなるか分からない」と諭され、「1年のうち11ヶ月遊んで暮らせる仕事がある。働きながら書いたらどうだ?」と言われて税理士を目指した、という変わり種である。

大学および院生時代は「卒業さえすれば税理士になれるのだから、今から実務経験を積みなさい」という教授のアドバイスに従い、学業そっちのけで税理士事務のアルバイトをした。
「25歳で資格をとって27歳で独立するはずが、31歳で資格取得。翌年独立という形になりました」

しかし、いくら稼いでも仕事に追われ自由な時間が作れない。結局私小説を2冊書くに至ったものの、仕事をしながら書くのは至難の業だった。心に余裕がないと書けるものも書けない。時間がとれるようになったのは、仕事人生の後半以降のことだった。しかし、組織人として生きるより、独立独歩で食べていける税理士という職業は自分に合っていると感じたという。

妥協を許さない女性の潔癖さこそ税務の世界に必要

高度経済成長を成し遂げた日本。国家は成熟期に入り、制度を作り上げる段階から完成したルールをきちっと守る方向に社会の要請が変化した。それは税理士の仕事も同じだという。

「守りに関しては男性より女性の方が得意です。男性は大雑把な傾向がありますが、女性は決められたことをピシッと実行します。忖度や手加減がありません。税理士や国税調査官は、現在の税務体系から考えると、女性の方が向いていると言えるでしょう」

国税調査官は、女性の方が厳しく取り締まる傾向が強い。税の世界のみならず、弁護士や裁判官など法曹界でも女性の方が活躍しやすい時代になっている、と高野氏は考える。
「女性はルールに厳しいでしょう。男性のように手心を加えて落としどころを探ったり、妥協して済ませたりする悪癖はないので、ルールを守るのに向いているのです」
近年取り沙汰されることの多い政界の汚職も、女性議員の割合が増えると沈静化していくのではないだろうか。

税理士というと「節税のアドバイザー」というイメージがあるかも知れない。しかし、それは直接税中心の時代の話だ。個人所得課税の軽減と間接税である消費税の充実に舵が切られた現在の税法の下では、節税は脱税に近いものになってしまう。蓄財に関しても「自分に合った仕事をして無駄遣いをしない」というシンプルな回答に落ち着く。

「副業(複業)ブームですが、本業と無関係な仕事は難しいのでは。もし上手くいっているとしたら、副業の方がその人の本業なのです」

10年間下積み時代を過ごした税理士事務所は、社長の自宅が事務所を兼ねた縦社会。そこで業界の因習に取り込まれないよう、冷めた目を保持したまま仕事を覚えていった。「波風が立たないうちに危険の芽を摘む」、「自らお茶を出し、トイレを掃除する」、「誰よりも早く出社し一番早く退社する」などは長年の経験から身に付けた行動である。

「昔は税理士という仕事自体に指針がなく、みんな手探りでやっていました。現在は法律が整って、それに則って指導するだけです。そうなると女性の方が向いています。男にとって“1年のうち11ヶ月何をするか”という部分が新しいフロンティアになるかも知れません」

髙野眞弓

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税理士法人アイエスティーパートナーズ
税理士髙野眞弓
1943年東京・浅草生まれ。國學院大學経済学部卒業。日本大学大学院で経済を、慶應義塾大学大学院で法科を修める。又野税務会計事務所で10年間勤務の後、1975年に独立。税理士髙野眞弓事務所を立ち上げ、半世紀にわたりさまざまな企業の顧問税理士を担当する。2016年6月に税理士法人アイエスティーパートナーズを設立。著書に『炎上する相続』(幻冬舎メディアコンサルティング 2018年)。