[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

歯科DXによるデータ集積が今後の医科歯科連携のカギに

Conversation
国立大学法人
東京大学
教授
和人
ノイシュタットジャパン株式会社
代表取締役
鈴木計芳

医科と歯科が協働し、患者の健康を総合的にサポートすることを目的としている医科歯科連携。口腔環境が全身の健康と密接に結びついているという認識は、市民の間でも広まりつつあるが、臨床の現場において医科歯科連携が理想通りに実現できているとは言い難いのが現状だ。医科歯科連携をスムーズに進めるためには、何が必要なのか。歯科医師でもあるノイシュタットジャパン株式会社の鈴木計芳氏と、東京大学で口腔外科の臨床・研究を行っている星和人氏の会話には、その解決のヒントがあった。

少子高齢化社会において医科歯科連携はますます重要に

「 口は消化器官の入り口であり、直視できる唯一の器官です。口内環境に起因する病気はたくさんあり、特に歯周病菌は全身の健康に影響すると指摘されています。歯周病が進むと、菌の塊が血液の中で血栓を作り、脳梗塞や心筋梗塞といったような生活習慣病につながる恐れがあります。妊娠中の女性の歯周病が進むと、早産や子どもが低体重で生まれる可能性が高まり、本人だけではなくて、次世代の健康にも影響します。このように、歯の健康は非常にインパクトがあり、少子高齢社会においてますます重要になるでしょう
鈴木 「 しかし、日本では歯科と医科は学問として分断されています。ですから、歯科医師が患者さんから医科の医師を紹介してほしいと頼まれても、困ってしまうのですね。私のクリニックの患者さんには、初期の認知症の症状が見られる女性がいます。その方は、髪のセットやお化粧といったルーティーンはできても、歯科クリニックに行くというイレギュラーなことに対応できず、頻繁に予約を間違えます。私は医師との交流があることから、その患者さんの症状に気付き、診療を進めることもできます。しかし、歯科医師の全てがそういうわけではありません

双方向の連携を行うのが難しい現状

「 2012年に周術期口腔機能管理料が算定され、2020年には対象の手術等が拡大されました。これは、手術前後に口腔ケアを行うことで、誤嚥性肺炎や感染症の予防などを行うことを目的としています。これによって、患者、医科、歯科の三方よしが実現できます。実際に効果も確認されてはいますが、実施率は高くありません。そして、『どの歯科クリニックが受け入れを行っているのかわからない』『何を伝えればいいかわからない』などの課題も挙がっています。

私は、口内の健康が全身に与える影響に関するエビデンスが大切だと思います。実は、小さいスケールの論文は点在しますが、多くの人を納得させるほど十分ではありません。今後は明確なエビデンスを構築し、それを発信していかなければいけません
鈴木 「 私たちは、まさにそのエビデンスをつくるための細かいデータを持っています。ただし、どのデータが役立つかわからないので、全てを提供し、大学でスクリーニングをお願いすることになるでしょう。ところが現状では、歯科から医科へそういった情報を提供するツールがありません。私個人としては、医科の先生や薬剤師と定期的に交流会を行い、コネクションを積極的に作っています

医科、歯科の両方が問題意識を持つことが解決への道

「 医科も歯科も、取り組むべき共通課題があるという認識を互いに持って取り組んでいくことが、連携を深めるための近道ではないでしょうか。そして、この連携が超高齢化社会における解決策になると信じています。超高齢化という問題は医療業界だけでなく、日本全体での課題であり、手詰まり感があることは否定できません。おそらく十数年後には他国も同じ課題に直面するでしょう。我々がいち早くこの課題の解決策を持っていれば、日本は世界を先導する立場になれると思います
鈴木 「 歯科はやや閉鎖的な業界で、イノベーションが起こりづらい。私が1996年に国家試験を受けた時の用語が未だに通じるくらい、変化が少ない業界ですね。そして、医科がどのようなことをやっているのかをよくわかっていないし、薬を処方するにしてもせいぜい5種類程度で、約1,800種を把握している薬剤師の知識にも及びません。ですから、まずは自分たちの知識や技術のレベルを上げる。そうして業界内を活性化させ、意欲のある人がどんどんイノベーションを起こせるような風通しの良さがあれば、医科歯科連携もスムーズになると思います

対談の終わりに星氏は「エビデンスのためにはデータを集積することが重要」と語った。そしてそのためには、病院かクリニックか、医科か歯科か、あるいは地域、出身大学などにとらわれず、医療業界全体が協力し合うことの必要性を強調した。それに対し鈴木氏は、「歯科DXを進めることで集客を行い、有用なデータの集積ができる」と提案。例えば、舌の色、唾液から得られる情報はたくさんあり、それを歯科クリニックが協力して長期的にデータを集積。そして、患者が病気になったときにさかのぼってデータを確認すれば、その病気の予兆の発見につながると考える。また同氏は、患者を歯科クリニックに向かわせるためには、メリットが必要だとも言う。劣化しづらいナノダイヤモンドのコーティングによる虫歯の防止や、星氏と共同で研究を行っている傷みなく麻酔ができるマイクロニードルなどの存在がまさにそれであり、医科歯科連携の未来につながるはずだ。そして、両名が「自分の体に興味を持ってほしい」と訴えるように、患者になりえる市民もまた、歯と体の健康の関連についてもっと意識をするべきだろう。

星和人鈴木計芳

RECORD

国立大学法人
東京大学
教授星和人
1967年宮城県生まれ。1991年に東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部附属病院整形外科に入局。2002年東京大学医学部附属病院整形外科助手に就任。2014年に東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座口腔外科学(現:口腔顎顔面外科学)准教授に就任。2016年東京大学医学部附属病院口腔顎顔面外科・矯正歯科口唇口蓋裂センターセンター長に就任。2017年より東京大学医学部附属病院口腔顎顔面外科・矯正歯科 診療科長、東京大学医学部附属病院ティッシュ・エンジニアリング部部長、2018年より東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座口腔顎顔面外科学教授を兼任。

RECORD

ノイシュタットジャパン株式会社
代表取締役鈴木計芳
1954年静岡県生まれ。1978年3月京都大学法学部卒業。同年4月に三井銀行(現三井住友銀行)に入行。1989年に同行を退職。1990年に東京医科歯科大学歯学部に入学。1996年にノイシュタットジャパン株式会社の前身となる企業を設立。1997年に同大を卒業し、2000年に歯科クリニックを開業。その後、計17の分院を設立し、2001年に医療法人社団松伯会を発足。2018年に社名をノイシュタットジャパン株式会社に変更。