[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

創薬と予防の両輪で、未来の健康を守る

日本バイオテクノファーマ株式会社
代表取締役社長
篠原直樹
SHINOHARA_NAOKI

増え続ける社会保障費が日本の財政を圧迫しているのは周知の事実であり、削減が大きな課題となっている。医療費を取り上げれば、安価な後発医薬品(ジェネリック)の使用や予防・健康管理の重点化が削減案として挙げられるだろう。日本バイオテクノファーマ株式会社もまた、比較的安価な医薬品と予防のための取り組みで、医療費削減に貢献している一社だ。創業の理由、価格を抑えられる理由、描いているビジョンを代表取締役社長の篠原直樹氏に聞いた。

「あったらいいな」を実現するために創業

篠原氏は長年、海外の大手製薬会社においてマーケティング事業に従事していた。医薬品の製造には膨大な費用が掛かるため、利益に重点を置かざるを得ないことを理解しつつも、世界での供給には差があり、日本向けの製造すら二の次にされてしまうことに疑念を抱いていた。この方針は、同氏が役員になっても変えることができず、葛藤があったという。

また、日本ではバイオ医薬品の分野で世界に後れを取っており、関節リウマチやがんなどの治療に使われる抗体医薬品は、欧米の製薬会社に頼ることが多い。そのため、高額になりやすく、関節リウマチの場合は緩和ケアを選ばざるを得ないという実情がある。そして、日本で使用されている医薬品の上位20種類の多くを占めるのが抗体医薬品であり、価格の高騰が進んでいることから、日本の医療費を圧迫する原因にもなっている。「それならば、日本の製薬会社が抗体医薬品を作ればいい。そうすれば、患者さんはよりよい治療を受けられ、医療費の削減、ひいては次の世代の負担も減らすことができます。私が『あったらいいな』と思う医薬品を作るためには、私自身が起業する必要があると思いました」と振り返る。

感染症関連の医薬品で他社と差別化を図る

製薬会社を設立するにも膨大な費用が発生するため、篠原氏の行動を無謀だと指摘する声もあったという。しかし、ある学者の協力によって同氏は起業の決意を固めることができた。関節リウマチなど免疫系疾患やがんの治療に使われる数々のバイオ後続の製造は複雑なため、決して容易な製造ではなかったが、コストを抑えながら技術力を発揮できたことは、同氏にとって大きな自信に繋がった。

創立以来、最も手応えを感じたのが、世界最小のPCRキットだ。「J-Bio 迅速PCRキット SARS-CoV-2」は重さ約600g、検査をしたその場で患者さんが結果を受け取ることができるのが特徴。同製品を使用して、インフルエンザ、結核、妊婦へのクラミジアなどの検査に使用することも可能だ。同社における感染症関連の医薬品の製造は、他社との差別化につながっており、2023年7月末にも新薬を申請済みだ。「新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの国民が不安を感じたことでしょう。さまざまな感染症による混乱を未然に防ぐために、新薬の製造に着手しました。今後、感染症の医薬品のラインナップを充実させ、日本の医療に貢献したいですね」と意気込んだ。

アルツハイマー型認知症の予防につながる検査キットを開発

同社が大切にしているのが「5年後、10年後の未来を守る」というコンセプトだ。これを実行するため、予防につながる医薬品の開発も行っている。

根本的な治療法がない病気の1つにアルツハイマー型認知症がある。エーザイ株式会社が米国バイオジェン社と共同開発をした認知症新薬「レカネマブ」のニュースは記憶に新しい。そこで篠原氏が考えたのが、発症を未然に防ぐことだった。アルツハイマー型認知症は、アミロイドベータというたんぱく質の蓄積によって神経細胞が破壊され、脳が委縮することで発症するが、そのアミロイドベータの同定ができれば、発症の可能性を事前に察知することが可能だ。同社では、そのための検査キットを開発。治験を実施する前段階であり、目下準備中だ。もし発症を防ぐことができれば、患者だけでなく周囲の家族の負担を軽減でき、人手不足が叫ばれている介護職や、過剰労働を強いられている医師の負担、そして社会保障費を減らすことができる可能性もある。「介護が必要ない状態にすることで、みんなが幸せになれると思います。研究員にも社会に貢献しているという意識があり、モチベーションは非常に高いですね」と話す。

現在、篠原氏が創薬以外に掲げている目標は2つある。1つが新しいモデルの会社経営をすることだ。豊富な経験とノウハウを持ち、定年退職を迎えた研究者や技術者を契約社員として雇用することにより、組織の中のポジション争いとは無縁のプロフェッショナル集団を形成するという手法だ。これによって効率よく創薬できるだけでなく、従来の製薬会社が行うような採用と解雇を繰り返さずに済むという利点もある。もう1つが上場で、2025年をめどにしている。いくら効率よく創薬できる体制があっても、多大な開発費用が必要になることには変わりないからだ。

「次の創薬のためにも、利益を出すことはとても重要なことです。しかし、利益を追求すると、さまざまな弊害が出ます。ですから、まずは患者さんと、その家族の未来について考え、どのように社会に貢献するかということを大切にしています。そうすれば、利益は後からついてくるでしょう」と自信を見せる。そして、「当社だけで新しい取り組みを行っても、皆さんの未来を守ることは難しい。当社に追随する企業が生まれてほしいですね」と期待を寄せた。

篠原直樹

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日本バイオテクノファーマ株式会社
代表取締役社長篠原直樹
大学卒業後、米国モンサントカンパニー医薬品事業部(現ファイザー)に入社。2000年にアベンティスベーリング(現CSLベーリング)設立時に転職入社を経て、16年役員時に退職。その後独立し、バイオベンチャー製薬企業である日本バイオテクノファーマ株式会社と、医療コンサルティングファームであるネクストイノベーションパートナーズ株式会社の2社を同時に創業。