

超高齢社会日本の医療のアップグレードを探る
Conversation株式会社メディカ・ライン
代表取締役社長
佐藤望
富士通株式会社
執行役員SEVP
Japanリージョン CEO
Japanリージョン CEO
堤浩幸


超高齢社会を迎え、人生100年時代といわれる日本。コロナ禍で医療従事者への大きな負担が問題となる中、遠隔診療など医療のDX化と診療報酬の見直しなど医療改革が叫ばれている。医療機器の販売を通じ、医療現場に精通し、患者視点の医療課題の解決に取り組んできたメディカ・ラインの佐藤望代表取締役社長と、富士通の堤浩幸執行役員SEVP Japanリージョン CEOに、日本の医療の課題を語り合ってもらった。
●医療のデジタル化が課題
佐藤
「
当社は大型医療機器を中心に販売しており、堤さんが世界的な医療機器メーカーの日本の代表だった時に出会いました。外資系の社長・CEOの方は、数字を達成することを第一とされる方が多い中、堤さんは、医療を通じて社会を良くするのが目的で、数字はあくまでも目標としていくという姿勢に感動しました。
」
堤
「
佐藤社長はフィリップスの大先輩でもあり、脳外科をはじめたくさんの医師との接点をお持ちで、販売のサポートやコンサルテーションなどいろいろな部分でお世話になりました。佐藤社長は筋の通った方であり、会社としてのディレクションも医療界全体を見ているので、日本の医療体系をどう変えていくのか、どうアップグレードしていくのか、そんな相談もさせていただきました。
」
佐藤
「
現場の医師に近いところで40年以上やってきましたが、医師は日々、目の前の患者の治療で多忙を極める。本来ME(メディカル・エンジニア)と一緒にAIやITシステムや機器を開発することが理想ですが現実的にそこまで手が回らない。なかなか普及しづらい現状を課題感として持たれています
」
堤
「
日本の医師の技量やパフォーマンス、それに医療保険制度などは世界に誇れると思います。一方で、医療体系そのものを患者にもっと寄り添ったものにしていく必要性も感じています。というのも現状、医療情報のデジタル化は医療施設個々の最適化で動いていて、分野や人の連携が取れた全体最適化は欧米に比べ進んでいません。
」
佐藤
「
電子カルテが普及してきましたが、病院の中では連携できるが、病院間でつなげないのが大きな課題ですね。同じ検査を何回もやらなければならず、患者の体や医療費の負担になっています。
」
堤
「
データ連携が全くできてないのは、メーカーが自分のテリトリーのみで事業領域を区切ってしまったことと、システム開発時に医師のリクエストで個々に機能を追加しカスタマイズをしてしまったことが原因です。データの連携により患者中心のパーソナルなヘルスケアの実現に向けて解決しなければいけません。米国の病院には多くのIT技術者がいて、院内でソリューションを開発しています。そこが日本との大きな違いですね。ヘルスケアのためのエンジニアとデータアナリストの育成が必要だと考えます。
」
●“メディカルモデル”の確立が必要
堤
「
日本では、病気になってから病院に行きますが、欧米では、日本でいう「予防医療」に注力して、健康な人をより健康に維持するためのソリューションを提供し、全体の医療費のコスト抑制につながっています。
」
佐藤
「
日本の医療制度が保険診療中心なので、その意識を変えないといけないですね。まずは病気にならないようにすること。たとえ病気になっても早期発見すればコストがかからないし、患者も苦しまなくていい。
」
堤
「
個人的には「病院」という名前を変えた方がいいとも思っています。そうですね、ヘルスケアセンターとか、もっと明るいネーミングで、予防や健康を維持向上するための施設になって欲しいです。また、医師に全ての健康を任せるのではなく、自分自身でモチベーション高く健康を維持していくために、個人の健康・医療・介護のデータであるパーソナルヘルスレコード(PHR)を活用することが非常に大事になってきます。
」
佐藤
「
ある大病院の院長は、「ITやAIを導入すれば、医師の仕事の7割がなくなると思う。残りの3割に医師の能力を集中すれば、もっと良い医療ができるのではないか。」と言われていました。実際にITやAIを活用すれば家庭である程度の管理ができる。医療行為ではない部分を家庭に戻し、貴重な医師の能力を必要な所により発揮していただくことが医療全体にとってプラスになると私も考えています。
」
堤
「
現在の地域医療ネットワークは、地域ごとで閉じてしまっていて、かつマネタイズができていません。自治体や国が初期投資をしても、オペレーションが続かない。PHRをシェアすることで患者も価値を見出して、きちんと対価を支払うようなビジネスモデルというか、“メディカルモデル”がスタンダードとなれば、日本中がつながる。今後の世界をきちんと見据えた体系の構築が必要だと思います。
」

●世界に展開できる医療イノベーションを
佐藤
「
米国の製薬業界が、日本の超高齢社会は非常に参考になると調査に来ています。それを逆手にとっていきたいと考えています。私は過疎の島に生まれ、まさに超高齢社会で医療の現実を目の当たりにしてきました。都市部と同じような医療を受けるためにはどうしたらいいか考えると、やはり予防医学とITとAIの活用だと思います。血圧を測るためだけに、島を出て病院に行って、薬をもらって帰るのはやめて、血圧や心拍などバイタルデータはウェアラブル端末で自己管理し、心筋梗塞などどうしても医師が必要になったら、ヘリコプターなり、高速艇で病院にいけばいい。
」
堤
「
人口減で医療従事者がそこまで増えない上に高齢化が進むと、当然ケアをする難易度が高まります。限られたリソースを有効活用するためには、さまざまなセンサーでチェックして、データを分析して、遠隔ICUや在宅医療に情報をタイムリーに提供するなど、新しいスタイルを確立するべきです。さらに医療の抜本的な改革とアップグレードをベースに、良いソリューションを海外に展開することは国策としても重要であり、実践していきたいですね。
」
佐藤
「
日本社会において最も重要な役割を担うのが医療であり、そして今後最もイノベーションが求められているのが医療。データを駆使して自分の体は自分で守っていくように国民の意識を変えていくことが重要です。そして堤さんのような素晴らしい経営者とともに医療機器メーカーの最先端の技術力と、現場で日々現場で奮闘する高い技術を持った医師の偉大な力を「繋ぐ」役割を私は全うし、国民にとってより良い社会創りに貢献していきたいと考えています」

佐藤望堤浩幸
RECORD
1951年広島県出身。大学卒業後、持田製薬入社。炭酸ガスレーザー機器の開発・販売を担当。その後、フィリップスで大型医療機器の営業を担当。2001年株式会社メディカ・ラインを設立。医療機器の販売、病院の開業支援や経営コンサルティングなどを行っている。
RECORD
1962年山梨県出身。大学卒業後、NEC入社。その後シスコシステムズ上席副社長、サムスン電子ジャパン代表取締役CEO、フィリップス・ジャパン代表取締役社長を歴任。2022年富士通 執行役員SEVP JapanリージョンCEOに就任。