[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

関節トレーニングで目指す運動機能の向上と健康寿命の延伸

一般社団法人日本身体運動科学研究所
代表理事
笹川大瑛
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「人間の体は100歳からでも筋肉をつけるのが可能です。そんな、年齢を重ねてもしっかり体が動かせる喜びを、より多くの人に提供したいと考えています」。そう話す日本身体運動科学研究所代表理事の笹川大瑛氏は、独自の関節トレーニング(以下、関トレ)で日本の健康寿命を延ばすことも目指している。

科学でスポーツを強くする

子どものころから剣道に打ち込んだ笹川氏は、高校2年生のときにはインターハイも経験。しかし、その後は腰痛やスランプにより悔いの残る形で引退を迎え、大学は文理学部体育学科を選択して「科学でスポーツを強くする」研究に没頭した。卒業に際しては「もっと運動について極めたい」との思いから理学療法士の専門学校に進み、国家資格の取得後はリハビリテーション(以下、リハビリ)に力を入れている大阪の病院に就職して、多くの患者と向き合うことになった。

ところが、ここで直面したのは、自分が考えていたリハビリと現場とのギャップだった。「それは、関節痛などで非常に多くの人が苦しんでいる一方、科学に基づいたリハビリが思いのほか進展していない現実があったことでした」。このため、理学療法士として患者へリハビリを施すも、思うような成果を出せず落胆の日々が続いていた笹川氏だったが、「ここに答えがないのなら、自分で研究してみようと思い、論文をベースに一つ一つの施術の効果や、筋肉の機能・役割について検証することにしました」と振り返る。

科学に基づいたリハビリを

「効果のないリハビリをやめる」と覚悟をもつと必然的に効果的なリハビリを提供せざるを得なくなる。「さらに、きちんと改善効果が見られるリハビリを行い継続して観察することで、関節を守っている体の中で本当に大事な12個の筋肉を見いだすことができました。そして、若いアスリートも100歳の高齢者も筋肉に変わりはなく、関トレにより姿勢や筋力を改善していくことが可能なことを体験しました」という。
笹川氏はそれらの研究成果を、健康だけでなくスポーツや予防医学、介護予防にも活かせる体操やリハビリ技術に体系化。ウェブでの発信やトレーニング講座の開催を通じて普及に注力する中、書籍化の声がかかり、より多くの人が注目することになった。

人々の健康寿命を延ばしたい

こうして2018年に独立しそれまで培ったノウハウやメソッドをさらに広めたいと考え、2019年に一般社団法人 日本身体運動科学研究所を設立。リハビリ技術の講習会を開催し、アスリートから高齢者まで実践できる、普段サボりがちな筋肉(サボリ筋)を働かせるトレーニング法を指導している。これまで指導を受けたのは、リハビリ関連の職種や治療院関係者にとどまらず、医師や歯科医師、看護師などの体のプロフェッショナルたちで、その数は2000人以上に上る。「私一人で施術できる人数には限りがあります。しかし、受講者のリハビリ技術が上がれば、体の不調を訴えている全国の人々に対応してもらえ、健康な人が増えていくと思います。高齢になっても体が動く喜びを多くの方に実感してほしいです」と笹川氏は思いを込める。同研究所では、書籍の出版や大手出版社とコラボした健康セミナーも開催し、一般の人々の健康増進にも尽力している。

さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない自身が何を社会に貢献できるか考え、新たに介護関連の事業も展開。21年1月からリハビリを行うデイサービスをスタートさせ、11月からはリハビリを提供する訪問看護ステーションを始動。今年4月には、ケアマネジャーが利用者の相談や支援を行う居宅介護支援事業所をオープンしており、笹川氏は「介護が必要になった人や、その前の予防の段階の人にリハビリを行うことは非常に重要です。これからも、医療や介護・フィットネスなどの分野で、総合的に健康を維持できる啓発活動に取り組んでいきたいと考えています」と意欲的だ。

こうしたさまざまな取り組みを通じて笹川氏が目指しているのが、人々の健康寿命を延ばしたいという目標だ。「筋肉の重要性は近年特に注目されていて、例えば筋肉をトレーニングすることで疲れにくい体にしたり、呼吸も筋肉を使いますから、交感神経や副交感神経がコントロールされることで不眠の改善につながったりします。関トレでそうした大切な筋肉をきちんとケアできれば、もっと健康な人が増えると私は考えています」という。関トレは、覚えてもらえれば本人が意識しなくても体が動くようになるとのことで、気づかないうちに筋力がついて健康になることが期待できると笹川氏は話す。

今後に向けては、国内で適切なリハビリが受けられる施設や人材を増やすとともに、海外でもセミナーや講習会を行い、世界レベルでリハビリ技術を高めたいと熱く語る笹川氏。「現在行っているセミナーも、アメリカやオーストラリア、イギリス、イタリアなどからオンラインで受講されている方も多く、もっと海外の方々に関トレを知ってほしいです。そして、関トレが現在のラジオ体操にように普及して、皆さんの健康に貢献したいです」と笑みがこぼれる。
リハビリの探究から生まれた関トレを通じ、人々の健康を目指す笹川氏の挑戦は、すでに世界へ広がろうとしている。

笹川大瑛

RECORD

一般社団法人日本身体運動科学研究所
代表理事笹川大瑛
理学療法士、教育学修士、剣道六段。日本大学文理学部体育学科卒業。その後、リハビリの専門学校にて理学療法士の国家資格取得。多くの慢性的な関節痛や脳血管疾患患者、スポーツ障害、呼吸器疾患、がん患者のリハビリテーションを経験。独自の関節トレーニングでキックボクシングやレスリング、バレーボール、体操、サッカーなど、分野に関係なくアスリートをサポート。2018年に独立し、一般社団法人 日本身体運動科学研究所を設立。