[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

根本は「感情」。ファシリテーション経営で今後も成長する企業に

株式会社アルクトゥルス
代表取締役
櫻田貴久
SAKURADA_TAKAHISA

画一的な組織であれば成果を出せた時代を超え、多様化がうたわれる現代社会。顧客のニーズも多様化しており、企業が今後も生き残っていくには、そうしたニーズに対応していく必要がある。そのために必要なのは、自社の社員の多様性を生かすことだと考えるのが、株式会社アルクトゥルスの櫻田貴久代表だ。櫻田氏が提唱するのは「ファシリテーション経営」。一体、それはどのような経営なのか。ファシリテーション経営に行き着くに至った経緯、今後への思いを聞いた。

社員の個性を引き出して経営に生かす

現在、経営改善のコンサルティングをメインに事業を手掛けている櫻田氏。顧客企業の大半は、資金面・人材面共に大手企業ほどのリソースを持たない中小企業だという。財務の仕事に関わってきた経験を生かし、まずは黒字転換を目指したアドバイスを実施している。

ただ、赤字状態を解消したところで終わりではない。「現状の赤字は応急処置だ」と語る櫻田氏。出血を止められたとしても、それ以上の改善は見込めない。そこで櫻田氏が提唱しているのが「ファシリテーション経営」だ。

「従来の経営は、経営者がトップにいるピラミッド型でした。大量生産・大量消費の時代はそれが一番効率的な経営手法でしたが、顧客のニーズが細分化している現代においては、万人受けするいい商品を作ることは困難です。ニーズの多様化に対応するには、組織にも多様性が必要。それが私のいうファシリテーション経営なのです」

ファシリテーションとは、会議やミーティングの場を円滑に進める技法を指す。異なる意見を持つ社員の意見を上手く聞き出し、企業としての方向性を定めていく。そうした経営が今の時代に適したものなのだ。

自身の経験から「感情」の大切さに気付いた

ファシリテーション経営を実現するため、櫻田氏が重視しているのが「感情」だ。その原点には、自身が2001年に飲食業で起業した際の経験があるという。ショッピングセンター内に構えた店舗において、オーナーである自身が出勤するときと店長に任せるときとで、売り上げに差が出ていることに気付いたというのだ。メニューも内装も変わらないのに、なぜ違いが出るのか。その答えは、店を牽引する役目を担う人の差だった。

「私がいない日の様子を見てみたところ、店長の覇気がなく、その雰囲気が店内全体にも影響を及ぼしているなと思ったのです。そこで店長に話をし、気持ちを変えてもらったところ、他のスタッフもその雰囲気に引きずられてモチベーションが向上。私のいない日の売り上げが伸びたのです」

この経営改善の話を聞き、他の飲食店から「うちの店を見てくれないか」と打診を受けるようになった櫻田氏。元々、財務を専門としていたこともあり、コンサルタントの仕事にも挑戦するようになっていった。

持続可能な企業であるためにも、今一度「感情」に向き合って

人の感情に鍵があると確信を持っていたものの、専門家ではなかった櫻田氏は、本やスクールで心理学について学び始める。そこで行き着いたのが、運動を科学的に研究するキネシオロジーだ。筋肉にアプローチをすることで、心にも影響を与えられることがわかったという。

会社の経営改善を根本から考えていくと、最終的にはそこで働く人たちの感情に行き着く。しかし、いきなり「ファシリテーション経営とは」「社員の感情が」と話しだしても、経営者には届かない。そこで、まずは目に見える財務から着手。窮地を脱す手助けをすることで信頼関係を築く。それと並行しながら経営者と密に話し、これまでの思いを知った上で、会社が生き残るための付加価値づくりに着手する。そのなかで、新商品やサービスに関わる社員にも目が向くようになっていくのだという。

「人材育成には社員のモチベーションも大切。最終的にはやはり『感情』に行き着くのです。ある会社では、営業社員1人のモチベーションが上がっただけで、過去最高の数字を達成したんですよ。持続可能な社会づくりをするには、やはり企業の力が不可欠。企業が持続可能な経営をできるよう、一緒に考えていきたいです」

櫻田氏は、自身が表現し始めた「ファシリテーション経営」について、オーケストラに例える。さまざまな個性を持った楽器が、指揮者の元で演奏することで一つの素晴らしい演奏になる。それと同じように、社員個々の個性を生かしながら、会社として決めた目的に向かえるようにするのが、ファシリテーション経営をする会社の経営者なのだ。個々の個性を引き出すことは難しいかもしれない。しかし、捉え方次第では楽しむこともできると櫻田氏は語る。そこにもまた、経営者の感情がある。「やらねば」「経営者としてこうあらねば」という義務感や固定概念から解き放たれ、まずは経営者自身が本当の自分の感情と向き合うことが肝要だ。

「現代の会社では、鬱などの病気になっている人も多く見られます。これは人間が経済を優先してきた今までのやり方に限界がきているといえるでしょう。健全な世の中をつくっていくのが、私の命題かなと思います」と締めくくってくれた。

櫻田貴久

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株式会社アルクトゥルス
代表取締役櫻田貴久
1965年東京生まれ。1989年 株式会社そごう入社。財務、海外法務、経営管理の仕事に従事。1996年 株式会社サザビーリーグ入社。経営企画室にて上場業務、新規事業の立ち上げ、社内コンサルティング、海外事業の業務に従事。2001年 資金繰り改善のコンサルタントとして独立開業。