キャリアの前半は外資系ホテルの開業、ホテルコンシェルジュとして、そして人生の後半は老舗ファミリービジネスの営業、経営者、福祉サービス企業の社外取締役として、それぞれの企業の発展のために尽力してきた長田有司氏。現在は、主に中小企業の業績V字回復、新規事業の立ち上げをはかるコンサルティング業を行うチャレンジ・ユア・リミッツ株式会社の代表取締役を務める。「挑戦し続ける事で局面を打開する」をモットーにしている。


究極のサービス業と次世代サービスの提供者の育成を


●世界のおもてなしを学び、日本の現状を知る
長田氏は大学卒業後、ホテル業大手の藤田観光に入社し、ホテリエとしてのキャリアをスタートさせた。同社で勤務する中で、長田氏に転機が訪れる。それは、1992年1月にフォーシーズンズホテル椿山荘東京(現:ホテル椿山荘東京)がフォーシーズンズホテルのアジア進出第1号として開業したことだ。その開業準備で、長田氏は同じフォーシーズンズグループのシアトルにあるフォーシーズンズオリンピックホテルシアトル(現フェアモントオリンピックホテルシアトル)へチーフコンシェルジュのトレーニングに行くことになる。そこで目の当たりにしたエグゼクティブに向けたサービスとホテルマネジメントに衝撃を受けたと話す。
当時の日本には、ラグジュアリーなサービスやプレミアム感のあるサービスを提供するホテルが存在しなかった。そうした中で、ひときわ異彩を放ったのがフォーシーズンズだったという。プレミアムなサービスの違いは「マニュアルには書かれていない」プラスアルファのおもてなしだと長田氏は話す。「相手が求めていることは何か?」を常に考えてサービスを提供する。この力がフォーシーズンズは突出しており、ここで学んだサービスへの根本的な姿勢、そして、そのようなサービスを提供できるホテルマネジメントの存在が長田氏の原点となっている。フォーシーズンズオリンピックホテルシアトルでは、チェックイン、チェックアウトの忙しいとき、GMがロビーでお客様の荷物を持ち、ルームエスコートをしていた。総支配人室にとじこもるのではなく常に現場を支援していたと言う。
●おもてなしだけでは経営は成り立たない
その後、リッツカールトンホテルシカゴ、フォーシーズンズホテルシカゴにて研さんし、フォーシーズンズホテル椿山荘東京の開業にチーフコンシェルジュとして携わる。
長田氏は、日本のホテルもプレミアムなサービスを提供できると希望を抱いていた。なぜなら、海外諸国のラグジュアリーホテルは、日本の旅館で提供する「おもてなしのこころ」を参考にしていたからだ。こうして長田氏は更なる研さんを積むべく、ウェスティンホテル東京のチーフコンシェルジュを歴任し、ホテルの開業に携わった。いわゆる外資系ホテルの全ての実態を知り、経験をしたといっても過言ではない。長田氏も「ビジネスを極めた」と実感したそうだ。しかし慢心することなく、1997年に米国系のPWCのコンサルタントとしてキャリアチェンジをした。ところが、自身が全く通用しないことに愕然とする。
「私はホテル経験者だが、ホテルのロビーでお客様に接客だけをしていた。サービスは知っていても経営については知らなかったのです。そのことにキャリアチェンジをしてから初めて気づいた」と語る。そこからは、以前から、営業、経営に興味があったことも後押しし、営業、経営の勉強、そしてビジネスを極めていった。




●究極のサービスを提供するためにできることを
長田氏は、現在企業コンサルタントとして活動している。なぜこのような活動をするのか。それは日本企業の経営力の脆弱さに課題を感じているからだという。
「現場の経営者と話す中で、日本人は財務・会計面の知識が少なく、数字に対する意識が弱いと感じる。数字の構造を少し理解して意識すれば、劇的に財務状況が改善する」と長田氏は話す。せっかく良いサービスを提供していても、経営が健全でなければ持続することは不可能だ。健全な経営をするためには、業績面、財務面で精査や知識のアップデートを図っていくことが必要だ。こうした点に気づけない中小企業経営者を救っていきたいと強く感じているそうだ。
また「業績を好転させる本質として、社長が先頭に立ち、従業員と危機意識、課題意識を共有し、会議及び1on1ミーティング等で、会社一丸となって、危機を乗り越える、課題を達成する。私は現場に入ってその道筋をつくることからはじめる。一年、二年経つと自然にそういうことができるようになり、危機は解消していく」と言う。このような動きを自分たちでできない中小企業、経営者が多いそうだ。
キャリア人生も晩年に差し掛かってきたなか、長田氏は「自分が社会に対してできることは何か?やり残したことは何か?」と考えている。サービス、営業、経営を深く経験をしてきたからこそ、悩める企業をサポートしたいのだろう。
「サポートする企業にはまず現状の分析をしてもらい、その上で何が必要かを計画して実行してもらうことで、回復のルーティンを作り上げていく。これからも併走して企業をサポートしていきたい」と話す。
長田氏は自身の人脈や経験を生かし、若く未成熟な経営者や事業者に知見を提供するほか、新たな関係をつなぐために人材や事業のマッチング活動も行っている。それは、現在の日本の経済成長に対して憂慮しているからだ。
「日本人のプロ野球選手が海を越えてアメリカに渡るようになってから、日本のプロ野球は大きく変化しました。他国の選手から得たものをまた日本に持ち帰り、国内でアレンジする。こうして、刺激と経験を積み重ねることでその業界は発展していくのです。しかしビジネスの世界を見ると、他流試合ができているようには思わない」と日本のビジネスの課題点について話す。
次世代を担う若者には、社内にとどまらず外の世界に飛び出していくことを推奨したいそうだ。かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という時代があった。しかし、今日本は決してそんな時代ではない。とはいえ、「ホスピタリティ」という分野では日本人は本来活躍できるはずだと話す。長田氏はこれからも次世代の育成のために尽力していく。
今後も、老舗企業の困っている2代目、3代目を立派な経営者に育成したい、特にホテル業で困っている経営者を支援してみたいと言う。