日本企業の99%を占める中小企業の経営者の高齢化が進み、後継者難で廃業に追い込まれるケースが急増し、廃業件数が増加する中、約6割が黒字で廃業しているといわれる。マラトンキャピタルパートナーズの小野俊法代表取締役は、中小企業の事業承継を専門とするバイアウトファンドを運営しながら、一般社団法人日本プロ経営者協会の代表理事を務め、承継者の育成にも尽力、日本経済の未来を左右する課題に立ち向かっている。


M&Aの当事者からファンド設立へ


●M&Aの当事者からファンド設立へ
元々親族が不動産業をやっていたことなどで、ファンドに興味があったという小野代表は大学卒業後、不動産ファンドに入社し、投資の世界に入った。「面白かったのですが、不動産ってここにある物を買って、少しきれいにして売るぐらいのことしかできないし、日本では限界があると思った」と振り返る。
そこで「米国の最新ビジネスを日本で展開するような“タイムマシン経営”を、発展途上国でやればナンバーワンになれるんじゃないか」と考えた小野代表は、知人の勧めで、クレジットカードの製造販売(セキュリティープリンティング)の事業をバングラデシュで立ち上げる。「当時、そうした会社がなく、1億人以上の人口があるのでニーズが大きくなるだろう」と起業し、一定の成果を上げたが、家庭の事情などで帰国。会社を売却する。
小野代表は「M&Aの当事者になって、今後は日本で事業承継が活発になり、会社を売却するオーナーが爆発的に増える。異業種がコラボすることで生まれる相乗効果など無限の可能性があると感じた」と、M&Aのアドバイザーを経て、バイアウトファンドに入る。起業家的に考えられる人材がおらず、大きなニーズがあると確信して、自らファンドを作ろうと起業を決意した。小野代表は前職で、十数年かけて100億円以上の運用ができるファンドに成長させたが、小野は既に2年目で100億円以上のファンドを設立した。
●中小企業の事業承継に特化
小野代表は、他のバイアウトファンドが見過ごしている営業利益1〜5億円のスモールキャップや1億円未満のマイクロキャップといわれる中小企業の事業承継を進めることに特化したファンドを設立した。「売り上げ10億円ぐらいの後継者がいなくなってしまった地方の企業を受け継がせてもらっています。うちがやらなければ、廃業してもいいか、というオーナーもいましたが、一緒にやると、伸びるケースが多い」と語る。
投資先は「地域や業界における価値があるか。また、社長一人で営業しているようなワンマンではなく、引き継げる会社であること」を優先して考えるという。承継後に追加的に投資をして、他の企業とM&Aし、シナジー効果を図る「ロールアップ」など、個人のオーナーではできない戦略を取って、企業価値を向上させる。
小野代表は「中小企業のオーナーは、起業家が好きな人が多い。国内のほとんどのファンドは、コンサルティング会社か金融マン出身者が代表を務めていますが、私自身が起業家で、創業した企業の売却経験があるファンドマネージャーです。借金を抱えて頑張った自分の経験や、オーナーにとって何がいいのかという話ができる」と強みを語る。そして、もう一つの強みとして、「プロ経営者」の存在を挙げる。




●ハイスペックな「プロ経営者」が承継
「事業承継する企業は、経営者が高齢なだけで、うまくいっているケースが多い。承継しても大改革する必要はない。先代のいいところを学び、現状維持ができて、社員が安心できるプロの経営者が必要」と説く。
小野代表は、一般社団法人日本プロ経営者協会の代表理事も務め、優秀な人材にキャリアの早い段階で、経営にチャレンジする機会と筋道を示し、活躍するステップを提供。現在約1400人を後継者人材としてプールしている。「最近、経営者を志望する『サーチャー』が投資家の支援を得て、企業の買収をするサーチファンドが話題になっていますが、サーチャーは経営の素人、大企業の経験しか知らない人材が多く、オーナーも多数の候補者から選べないので、うまくまとまらない」と指摘する。
小野代表は「私たちは、プロ経営者協会から候補を出し、オーナーが満足する後継者を見つけてから、株式の譲渡を決めることができる仕組みを提供している」といい、「ある地方企業のオーナーが、ハイスペックな後継者は来てくれないだろうなと考えていたが、京都大学出身で、プロ経営者の経験がある人に入ってもらった。現場にも溶け込み、既に倍近い利益が出始めている。一番大事なのは人です」と胸を張る。
小野代表は、「この業界はアメリカで始まり、日本でそのやり方を、金融、コンサル出身者が真似をして作って来ているが、小規模中小企業のこの業界はまだまだ手探りな状況。この市場で起業家出身の自分が0から作った仕組を多数の同業他社に手本としてもらっている。これまでこのマーケットを引っ張って来た自分がリーダーとなり、この業界の発展、結果として数多くの中小企業の発展に寄与し、この国を発展させていきたい」と語る。