「あらゆる現場を可視化する」をミッションとして、屋内位置情報サービス「Beacapp Here」を展開しているビーキャップ。開発から5年で、フリーアドレス採用企業を中心に、約200社12万人以上に導入されるサービスに育てた岡村正太代表取締役に、ポストコロナ時代の「働きやすいオフィス」づくりの可能性を聞いた。


「働きやすいオフィス」づくりの切り札位置情報サービス「Beacapp Here」


●わずか5万円の開発費でスタート
システム開発会社の営業から、法人向けのアプリ開発ベンチャーに転職した岡村代表の転機となったのは、2010年のiPad発売だった。「当時、アメリカの方が日本よりも1〜2カ月発売が早かったので、ハワイで発売初日に購入して日本に持ってきたんです。プレゼンテーションに使えるといって、法人向けにセールスをしたら、特に製薬会社のMR(メディカル・レプリゼンタティブ=医療情報担当者)に当たったんです」と振り返る。
法人向けのアプリ開発の受託開発を続けてきたが、属人化した受託ビジネスの成長に限界を感じ、自社独自のサービスを展開したいと考えた岡村代表は、Appleが位置情報の測定などに利用できる「iBeacon」をリリースしたのを受け、位置情報とその業務系アプリケーションを使った業務効率化ができると考え、IoTの新規事業を社内で立ち上げた。当初わずか月5万円の開発費と半年間のプロジェクトとしてスタートし、「ビーコン」と「アプリ」を組み合わせて、「Beacapp Here」のプロトタイプが誕生した。
ところが、「iBeacon」はバックグラウンドで位置を検知するといっていたのに、検知ができない不具合が発覚する。「バッテリーを節約するために、動いていないとアプリが止まってしまう。休止状態でも検知し続けるのは難しかったのですが、パートナーの協力を得て、ハード面、ソフト面の問題を一つ一つ解決していきました」と明かす。こうして2022年、バックグラウンド状態でも検知率を下げることなくアプリが使える特許を取得した。
●“オフィスに行く意味”を提供
岡村代表は、特許取得について、「パートナーの協力のおかげで信頼感を得たのが大きい」と評価する。高額な初期投資が不要で、スマホさえあれば利用できると、大々的に訴えることができるようになった。コロナ禍で在宅勤務を導入する企業が増え、オフィスの利用方法も多様化、フリーアドレス化も進み、そうしたオフィス向けに、屋内位置情報サービス「Beacapp Here」は広がっていった。
「在宅勤務とオフィス、サテライトオフィスの“ハイブリッドワーク”が広がっていますが、オフィスに行くときに求めているのは、設備として自宅よりも働きやすい、そして自分が相談したいことがあるときに誰かがそこにいる。この2点です」
座席やスペースの予約ができ、事前に誰が出社するのかを確認することができるホテリング機能を無償オプションで提供している。「オフィスに戻ってきてほしいと思っている企業も多い。在宅勤務だと、孤独を感じて、どうしても一体感が生まれず、パフォーマンスも落ちているけど、強制的に戻すのは難しい。“オフィスに行く意味”を提供できるのが利用されている理由だと思います」と分析する。
さらに蓄積された利用者の動きのデータを分析して、より良いオフィス作りにも生かせるという。「会議室が実際何人で利用されているかは、従来の予約システムでは分からないが、データを分析すると会議室の定員数や配置、会議室より個人のブースを作った方がいいなど、働きやすいオフィスの設計やファシリティーの提案もできる」と岡村代表は自信を見せる。




●さまざまな現場を「可視化」
オフィスの利用にとどまらず、サービスの可能性は広がっている。日本消防設備安全センターとさいたま市消防局、千葉市消防局と、オフィスビルなど大規模施設での消防隊員の活動を効率化・迅速化する研究に取り組み、火災発生時にこのサービスを活用すると、逃げ遅れの位置を特定し、救助まで半分以下の時間で済んだという成果が出たという。
また、東京慈恵医大の働き方改革プロジェクトとして、医師の院内での位置を確認することで勤務管理に生かす取り組みに活用されたり、工場などでロボットを導入したときに、人間の作業量や業務時間がどのくらい減ったかなどの効果検証のツールにしたりと、さまざまな現場の「可視化」に活用されている。「ロボット導入をしたときの投資効果の判定は難しいので、それを検証するデータ取りなどの案件が増えてきていて、現場DXのサービスとして今後の成長が楽しみ」と期待を寄せる。
岡村代表は「確かに入れたら便利なのはわかっているけど、導入コストや手間を考えると、なかなか重い腰が上がらないのが現状です。実際に導入してもらうには、手軽で簡単に導入できて、しかも安いならうちの現場でも入れてみようかな、というようなインスピレーションを湧かせることがこのサービスとしては重要だと考えています」といい、月3万円から導入できるエントリーモデルのサービスもスタート。さらに「オフィスの標準サービスとして位置づけたい」といい、昨年オープンした「東京ミッドタウン八重洲」ではテナント向けサービスとしても使うことができるようになった。
岡村代表は「ポストコロナ時代の働き方改革を進める中で、『働きやすいオフィス』づくりに貢献できるよう、オフィスワーカー同士のコミュニケーションを可視化して広げるきっかけにしたい」と力を込める。「それを日本で広げて、その先に海外がある。世界の商業施設や仕事現場はすごく広いので、人の動きの検証がされていない。日本人目線でのビジネスチャンスはいくらでもある」と夢は広がっている。