JR桶川駅から無料送迎車で約5分、市内最大規模のショッピングモール「ベニバナウォーク桶川」の真向かいに、地域の透析医療を担う「桶川おかもと腎クリニック」はある。
2019年9月に新築移転したその院内は、秋田杉やひのきがふんだんに用いられ、穏やかな自然光が降り注ぐ休憩室の木壁一面に、まちづくりのシンボルであるベニバナが描かれた。落ち着いた色調の透析室の天井には、躍動的な蝶の意匠が施されている。
「透析治療は、原則として週3回約4時間ずつ行うので、患者さんの負担が大きい。森林浴の気分を味わっていただき、少しでもここちよく過ごすことのできる環境を整えています」と岡本憲一理事長は説明する。
人工透析は、糖尿病など何らかの原因で機能が低下した腎臓の代わりに、人工的に余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする治療方法だ。日本透析学会によると、2019年末における透析患者総数は約35万人。その数は年々増加し続けている。
岡本理事長は、もともと消化器外科医師である。勤務医時代には、食道、胃、小腸から大腸に至る消化管全般の手術を数多く体験し、研鑽を積んできた。


「人間大事」を胸に刻んで、 透析医療の充実に邁進する


●患者のQOLを左右する透析
「外科手術に求められる技術力、忍耐力、集中力、体力などを考えると、人によって異なるでしょうが、私は外科医の旬を45歳までと考えていて、開業を視野に入れていました。ちょうどその頃、勤めていた病院で透析がスタートし、この治療方法が患者さんの命に関わり、QOL(生活の質)を左右する、非常に重要な、やりがいのあるものであることが分かりました」と理事長は述懐する。岡本理事長は一念発起し、3〜4年かけて透析の知識とスキルを磨きぬく。2007年、桶川市の隣、北本市に透析をメインとしたクリニックを開設した。
その後、北本から桶川に移転し、2015年には茨城県古河市に同クリニックのサテライト(分院)を開設、2019年、桶川のクリニックを新築移転したのは先述の通りだ。今年で開業からちょうど15年、一貫して変わることのない理事長の信条がある。
それは「人間大事」という哲学だ。
「患者さんやそのご家族を大切にするのはもちろん、スタッフも、地域の人たちも大切にする。私たちと関わるすべての人たちに満足していただけるよう、常に全力で取り組んでいます」と岡本理事長は強調する。
同クリニック内をあたたかく居心地の良い空間とすることや、最先端の透析機械・医療機器を導入することなど、患者が安心できる快適な治療環境を提供するのはその具体策の一つ。ほかにも同クリニックでは、「究極の清潔への挑戦」を標榜している。
「透析治療の要諦は清潔さ。当院の透析液中エンドトキシン濃度はゼロ、無菌状態を維持しています」(岡本理事長)
●患者・家族を全人的にケア
患者の病態に合わせた、適切かつ迅速な対応もまた、同クリニックの特色だ。「透析患者さんにとって、最も注意すべきは、心不全、脳卒中、感染症など重い合併症の発症です。これらをいち早く察知するため、24時間体制のホットライン対応を行い、患者さんやご家族からの訴えを丁寧に聞き取って、適宜、大学病院など専門医療機関に紹介する体制を整えています」。
重篤な合併症の不安を抱える患者・家族を全人的にケアするため、身体的なサポートだけでなく、その心理的な支援にも注力しているという。
「患者さんが心穏やかに治療に臨み、笑顔を見せてくれることが、ひいてはスタッフや、私自身のやりがいにもつながる。すべての人が満足できるよう、診療面、設備面、教育面での充実をはかり続けます」と岡本理事長は笑顔を見せる。


●新たな分院も
クリニックは、一度に40名の透析治療が可能な設備を持ち、約150名の透析患者が通院する。「より多くの患者を受け入れ、安全と安心を提供することが医師の使命」と言う理事長は、2023年度、新たな分院の開設を計画中だ。
加えて、「ここ10年ほど、(保健や医療に関する課題を経済学的に分析・解決する)医療経済学や、日本の高等教育(大学)の歴史や今後の展望に関する勉強にも力を入れており、セミナーや講演会も行っています。さまざまな学びを通して得られる多角的な視座を、患者さんやスタッフに還元していきたい」と、熱っぽく、そして楽しそうに語る。
透析医療のさらなるブラッシュアップを図りながら、自分と関わるすべての人を喜ばせたい、そんな岡本理事長の奮闘はこれからも続いていく。