[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

米を通して日本を生き返らせるため行ってきた多様なアプローチ

株式会社BEGIN
代表取締役
岡田博志
OKADA_HIROSHI

完全無農薬水耕栽培システム、ジェット型風力発電機、室外機風力発電機といった「これからの社会」に必要とされる製品を、社会に向けて提供しているFLCグループ。その中心を担うのが株式会社BIGINだ。特に米の完全無農薬水耕栽培システムにおいては、そこから出る籾殻などの産業廃棄物も再活用し、化粧品、健康食品などへ変えていく試みにも挑戦している。日本人の食にとって意味ある「米」を中心としたその活動は、いまや広く地域創生にもつながっていこうとしている。確かなリーダーシップを持って事業を牽引している株式会社BEGINの岡田博志代表取締役は「誰にとっても豊かな未来」を作ることに尽力。そのエネルギーの源泉となるものについて、岡田代表に聞く。

大きな決断、そして協力者に恵まれて

大阪府庁勤務時代、リーダーを務めていたプロジェクトに関連して、岡田代表は多数の都道府県、市町村を自らの足で訪ね歩いた。その間、多くの地域で町が衰退していく姿を見聞きし、「このままでは日本はダメになる」と強く実感させられたという。頼りとなる各種補助金も一定の補助基準が定められており、地域ごとに事情が異なる地方では活用しにくい部分があった。

そこで「補助金がなくとも事業ができるスキームを、自身の手で生み出したい」と退職を決意。「大阪府庁時代は多くの部署と関連があり、食糧問題や生産人口減少の問題などに触れる機会が頻繁にありました。そこで最終的には、地方創生により日本全体の経済活動を活発化させるという目標を掲げるようになったのです」と語った。

そんなときに出会ったのが、すでに退職した一人の大学研究者。彼は穀物の水耕栽培を研究しており、実験室内ではすでに完成しているという。それを実用化につなげるため、岡田代表はさまざまなアイデアを出し、穀物の成長速度を上げる太陽光スペクトルLEDや無農薬を実現するためのFLCリキッド(消毒液)など、必要と思われる製品を次々に生み出していった。

米と生薬を並行して栽培し、これまで以上の「もうけ」を作る

「研究」であった穀物の水耕栽培を「事業」とするには、さまざまな困難が付きまとう。無菌状態に保たれている実験室とは異なり、農業の現場は多くの菌が存在し、また高齢化する農業従事者にとっても働きやすい場でなければならない。その点、FLCリキッドを使った完全無農薬水耕栽培システムは、開発したさまざまな設備を活用することで生産労力を減らし、なおかつ年6回の米の収穫を可能とした。「さらにトラクターなどの農機具がいらないので経費も削減できる。草刈りも必要ありません。ほぼ完全自動化で収穫を迎えられるのは、高齢者の多い現状をカバーする最適な手段と考えます」と訴える。

岡田代表は、さらに耕作放棄地に注目、そこで朝鮮人参など生薬の原料を栽培することを提案。彼は「手掛けている約5種類の生薬原料は、いずれも栽培に手がかからないものばかりです。米の完全無農薬水耕栽培システムで収入を安定させ、さらに生薬原料の生産でもうけを作る。これが実現化されれば都会に出て行ってしまった若者も戻ってくる可能性があるのではないか。加えて生産物をその地域内で売買すれば地産地消にもつながる。これらはすべて地方創生に向かっていくものでしょう」と今後の可能性に目を輝かせた。

地域とともに「これから」の農業を考えていく

さらなる地方活性化の手段として、岡田代表は全国にある廃校を活用し、日本人の主食である米の完全無農薬水耕栽培を行えないかと模索中だ。自グループのシステムを使い、エネルギーも人体に有害な低周波を発しない自社開発のジェット型風力発電機などでカバーする。

地域の人にとって親しみのある廃校を使うことで多くの人に足を運んでもらい、その実益を理解して事業そのものに興味を持ってもらうのが大きな狙いだ。特に高齢者には、理屈で説明するよりも「目で見てもらう」ほうが確実に響く。それにより、賛同者を増やして地域に事業を立ち上げていこうとしていた。

また、地元の農業高校と協力し、廃校での水耕栽培を実習として取り入れてもらい、今後を担う若者に新しい視点を与えることができないかとも考えている。「日本の『これから』を考えれば、やはり若い力は必要不可欠。私がちょっとしたヒントを与えれば、彼らはそれをどんどん発展させていってくれるでしょう」と大きな期待を寄せていた。

「2023年、この1年が私にとって勝負の年になるでしょう」と語る岡田代表。彼は年内に廃校での完全無農薬水耕栽培システムを稼働させたいと活動している。その一方で、米栽培から出る籾殻を利用した化粧品、健康食品の開発にも力を注ぎ、それらの発表は近く行われることとなっている。それに伴い、SNSでの情報発信もさらに活発化させていく予定だ。

大阪府庁時代から、常に「自分らしく」物事と取り組んできた岡田代表は、今も人とのつながりを大切にしながら自分の描く理想を形とし、それを後世につなげていきたいと望む。「何事にも誠意を持って向き合い、社会のためになる技術を提供していきたい」と訴える彼は、まだまだ精力的な活動を続けていくだろう。目標とするのは日本の再生。根本にある思いは、大阪府庁時代も今も変わることがない。
「こんなことをやっている人がいる、そのことをまずは知ってもらい、最終的には事業に賛同してくれると嬉しい。それは気持ちだけでも構わないわけで、例えば私たちの挑戦の情報を拡散してもらうだけでもいいのです。そんな人が日本のどこかに複数いる、そう実感できれば、私たちはさらに前に進んでいくことができるでしょう」

岡田博志

RECORD

株式会社BEGIN
代表取締役岡田博志
1966年 香川県生まれ。両親の転勤により大阪で育つ。1991年に大学を卒業、大阪府庁へ土木職として入庁する。西日本を経済圏とし、大阪を中心に据えた地方創生対策など、多くの施策を実践。2019年退職後、同年FLC株式会社設立。その後BIGINを含むグループ会社を次々に設立し、それらの代表として現在に至る。