欧米に比べ投資などへの知識である金融リテラシーが低いといわれる日本。高校で金融教育が始まるなどリテラシーの向上が叫ばれている。「あすなろ投資顧問」の大石恭嗣代表取締役はAIを使った個人投資家向けのサービスを展開しながら、動画での情報発信などに注力、金融リテラシーの向上に取り組んでいる。


個人投資家向けAIを展開投資教育にも注力


●事業承継で投資顧問の道へ
ノンバンクの営業で経験を積んだ大石代表は、「夢だった歌を歌いたい」と25歳の時に自らプロダクションを設立して、アーティストとして活動した。さらにウェブの制作やマーケティングなど、多角的に事業を展開する中で、投資顧問会社のウェブ制作をするなどして、投資に興味を持ち始めたという。
大石代表は「ニュースで米国では資産の半分が投資に回されているのに、日本ではほとんど貯蓄に回されているというのを聞いて、金融リテラシーがトップで低いっていう証明なんですが、残念と思うより、『伸びしろだ』と思った」と話す。
優秀な営業マンだった大石代表は「証券会社のように金融商品を販売して、手数料を稼ぐというものより、上場会社をリポートして、個人投資家に提案するアドバイザリーをしたい」と決意する。そんな中、事業承継先を探していたあすなろ投資顧問の創業者と出会う。ほかに大手証券でキャリアを積んだり、資本力があるなど優秀な候補者がいたが、熱意のあるプレゼンをした大石代表が承継先に選ばれた。「プレゼンは勢いだけでしたが、実はしっかりと専門知識のあるスタッフを集めていたので、『一緒にやろう』と言ってもらえた」と振り返る。
●コロナ禍でAIサービスを無償提供
事業を受け継いだ大石代表は、「金融業時代は、厳しい経営状態で借り入れをしようという企業の決算書をたくさん見てきたので、逆に伸びる会社の決算はよく分かる。当時の経験がすごく役に立っている」と自信を見せる。
大石代表は「個人投資家がAIを気軽に使って、個別株を選ぶ時代にしていきたい」と、すぐにAIの開発に着手。スタッフの一人が証券会社時代、機関投資家向けに開発したものをベースに、5年かけて個人投資家向けに検証を繰り返し、2020年4月に「KATANA3.0」をリリースした。
異例の無償提供(一部有料情報の特典含む)に踏み切った大石代表は「本来は有料サービスでローンチする予定でしたが、コロナ禍で市場が大暴落していたので、『とにかく使ってもらおう』とやむを得ず無料で開放しました。既存の顧客以外にも新たな客もたくさん呼び込んでくれた」と明かす。「KATANA3.0」は2カ月で10倍になる銘柄を出すなどし、初年度は約800銘柄を公開し、1銘柄当たりの騰落率はプラス20%を達成した。
大石代表は「株価の動き出しを捕らえる『初動ハンター』の異名を取り、お客様からも『AIの出す銘柄も悪くない』と一定の評価が得られた」と納得の出来だ。新たにアナリストの売買助言がつく新サービス「SHODO会員」もローンチし、さらなる充実を図っている。




●情報発信が安心感につながる
大石代表がもう一つ力を入れているのが、金融リテラシーの向上だ。大手金融メディア「みんかぶ」などと提携するなど積極的な情報発信を行っている。「業界では珍しいのですが、社長の私はもちろん、フロントマン全員が顔を出して、正々堂々と発信しています」と胸を張る。
業界でも異例の発信を行う背景に、大石代表以外はみな証券会社や銀行などを経験したスペシャリストぞろいだということがある。「みんな株が好きすぎて、放っておくとずっと株価のチャートを見ていたりするほど。そんな彼らがそのまま発信すると分かりづらくなってしまうので、経験のない私が顧客の目線で見て、分かりやすくなるように調整するなどのかじ取りをしています」という。
動画配信でも、AIのパフォーマンスを全て公開し、代表自らが銘柄の動きを詳細に説明。元々アーティストとして活動し、ウェブ制作も手がけていた大石代表だけに、動画の編集から音楽まで自身が行っている。「ほかの業界では情報発信は当たり前ですが、お客様のアンケートを見ると、『ここまでやっているから信頼できる』という声も多く、多分他社との差別化ができてるのかなと思います。おかげであすなろ投資顧問だけ使ってるというお客様が6割以上になっています」と胸を張る。
さらに高校生の長男も出演して、海外の企業についてリポートする動画も制作。「家族総出ですね」と笑顔を見せ、「金融リテラシーの向上と投資教育に取り組んでいきたい」と力を込める。大石代表は生まれたばかりの子供を亡くした経験があり、「子供の大切さが身にしみました」と、子供たちの教育支援などへの寄付活動にも尽力。「全ての子供たちが平等に学びの場を得て、グローバルで活躍できる社会になってほしい」と未来への投資を続けている。