[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

世界初・日本発の器官再生医療の事業化を進めるパイオニア

株式会社オーガンテック
代表取締役(研究開発・技術担当)
小川美帆
OGAWA_MIHO

現代の再生医療といえば、角膜や皮膚を損傷した人の治療に使う細胞シートが最先端だが、株式会社オーガンテックではもう一歩先の技術を用いて、3次元の構造を持つ器官(臓器)を再生させることを目指している。iPS細胞からオルガノイド(3次元的なミニチュアの臓器)を作ることに挑戦している研究は多くあるものの、同社のように器官再生技術を事業化しようとしている企業は世界的にもまだ少ない。長年にわたって毛髪と歯(次世代インプラント)の再生医療の研究に携わり、2023年には同社の代表取締役にも就任した小川美帆氏に、現在取り組んでいる研究と事業化にかける想いを聞いた。

学生時代から歯や毛髪の再生を研究

学生時代は、東京理科大学で辻孝教授(現・理化学研究所 生命機能科学研究センター 器官誘導研究チーム チームリーダー/博士)の研究室に入り、「歯の再生」の研究をしていた小川氏。「毎日新しい発見があるわけではなく、1年に一度、あっと思う瞬間があれば良いくらいの研究です。地道で根気のいる取り組みですが、私は顕微鏡の下で歯や毛の組織を採取するのが好きなので、まったく苦になりませんでした」と楽しそうに語る。

卒業後も辻氏が設立した株式会社オーガンテクノロジーズで、歯・毛髪・唾液腺の再生に関する研究に没頭してきた。特に辻氏と共同開発を進めてきた毛髪再生の研究では、毛を作る「毛包」と呼ばれる器官の「毛包のタネ」をマウスの皮膚に植え、発毛させることに成功。それをヒトでできるように開発を進め、あとは臨床研究を残すのみ、というところまで発展させた。

しかし、コロナ禍などの社会的背景から資金調達ができず、2020年10月にオーガンテクノロジーズは事業を停止。小川氏は辻氏のいる神戸の理化学研究所へ入所し、そこでまた毛髪と歯の再生医療の基礎研究を深めてきた。

新体制で再生医療の事業化に向けてスタート

2023年1月にオーガンテクノロジーズは経営体制を一新し、社名もオーガンテックに変更。小川氏は、近藤嵩氏と共に代表取締役に就任した。事業計画や資金調達は近藤氏が担当し、小川氏は研究開発・技術担当を務める。「昨年、共同代表の近藤と知り合う機会があり、歯と毛髪の再生医療を多くの方にお届けしたいという想いを伝えたところ、一緒にやってくれることになりました」と経緯を話す。

出資してくれる企業も見つかり、現在は本格的に毛髪と歯の再生医療を事業として推進している。具体的には、どちらも実用化に向けて1~2年のうちに臨床研究を行う予定だ。毛髪の再生医療では、世界初の器官再生として男性型脱毛症をはじめとして、脱毛に悩む人々の治療へと幅を広げていく。歯の再生医療では、歯周組織まで再現した“次世代インプラント”で口腔内の健康を守っていく、というビジョンを掲げている。

毛髪や歯の治療というと「美容」のくくりで捉えられることが多いが、「毛髪や歯は誰でもなくなったら困るもの。その分野で新しい治療法を提供したいと考えています」と小川氏は言う。実現すれば、どちらもこの分野で世界初・日本発の器官再生事業となる。

「QOL医療」を日本の新しい産業にする

オーガンテックが目指すのは、特定の患者に行う治療ではなく、「みんなの再生医療」だ。毛髪や歯の治療は世界中に市場があることから、「世界の人々の健康と生活の質の向上に貢献する」という理念を掲げ、日々研究とその事業化を進めている。

「研究で良いものができても、事業化しないともったいないですよね。私は研究を“させてもらっている”と思っていますので、事業化して世の中に恩返ししていきたいのです」と小川氏。人々の健康と生活の質を向上させるための「QOL医療」を日本の新しい産業にする、というのが同社の考えだ。「細かい技術、丁寧な技術が必要なので日本人が得意だと思う」からこそ、産業としての発展に期待できるとも言う。

また、将来的には毛髪と歯以外の器官・臓器の分野でも、この器官再生技術を使えるようにしていくことを目指している。すでにマウスでは、唾液腺や涙腺の再生に成功しているという。いま取り組んでいる「毛髪と歯の再生医療の事業化」はその第一歩であり、小川氏たちの研究開発はまだまだ続く。

国内はもちろん世界中で、毛髪や歯の悩みを抱える人は多い。毛髪ならウィッグや植毛という選択肢しかないが、オーガンテックの器官再生技術が実用化されたなら、脱毛の治療に新たな選択肢が増えることになる。また、現在のインプラントは骨に直接埋め込むので歯周組織がない。そのため何を噛んでも同じ感覚しかないばかりか、「矯正治療ができない」「顎骨成長過程の若年者に適応できない」「細菌感染のリスク」などがある。しかし、これも同社の“次世代インプラント”なら、インプラントの周囲に歯周組織を再現しているため、自分自身の歯と同じような感覚と機能を取り戻すことができる。

小川氏が再生医療の道に進むきっかけとなったのは、中学3年生の時に理科の授業で見たクローン羊“ドリー”だった。「それまではクローンなんて漫画の世界だと思っていたので、こんなことが現実にできるんだ!と衝撃を受けました」と振り返る。その時に彼女が抱いた器官再生技術への興味が、「毛髪と歯の再生医療」につながった。そして、この世界初・日本発の器官再生医療経営は、近い将来、世界に衝撃を与え、多くの人のQOL向上に貢献することだろう。

小川美帆

RECORD

株式会社オーガンテック
代表取締役(研究開発・技術担当)小川美帆
2005年より東京理科大学の辻孝教授の研究室に所属し、歯再生の研究を行う。2008年に大塚化学ホールディングスに入社、子会社であるオーガンテクノロジーズに出向し、毛髪や唾液腺の再生に関する研究を行う。2013年にオーガンテクノロジーズが独立したため、入社し直し、毛髪再生の事業化実現に向けて研究開発を進める。2014年に博士号を取得。2020年10月に事業が一旦停止したため、辻氏の所属する理化学研究所に入所。2023年1月より事業体制を一新し、社名もオーガンテックと改め、代表取締役に就任した。