[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

日本人の睡眠文化に改革を!患者に寄り添う医師の奮闘に迫る

医療法人回精会 仁愛診療所
理事長
野島
NOJIMA_SUGURU

世界と比べ、睡眠時間の短さが突出する日本。たかが睡眠不足と侮ってはいけない。さまざまな疾病のリスク要因となることが既にわかっている。医療法人回精会理事長の野島逸医師は、内科から精神科まで幅広い症例を診てきた知見から、睡眠医療の重要性を訴えている。また近年増加する成人の発達障害や新型コロナウイルス感染症の後遺症など、時代変化に対応した外来も開設。現代人が抱える病のリスクや、日本の医療の課題や展望を聞いた。

寝不足は万病のもと、睡眠時間を真っ先に確保すべし

不眠不休が美徳とされる日本。かつて「24時間戦えますか」という言葉が流行語となったことからもその影響の大きさが窺える。現在でも人々の忙しさは相変わらず、逆に社会が便利になっていくほど、いつでも即座にできることが増え、そのために睡眠時間を削ってしまっている人も多いことだろう。野島医師は、まず睡眠の大切さについてこう語ってくれた。「就寝中、体内では自律神経やホルモンバランスを整え、免疫力の増強や脳の老廃物除去など重要な回復作業が行われています。睡眠不足になると、翌日眠くて集中力がなくなってパフォーマンスが低下するだけでなく、肥満や糖尿病、うつ病、心筋梗塞や脳卒中などの発症に大きく関わります」。この重大な事実は残念ながら多くの日本人には浸透していない。野島医師は「本来なら睡眠時間と食事は、真っ先に確保されるべきものなのですが、逆に削られる対象となってしまっている」と憂慮する。「睡眠外来に来られる方は、長年の不規則な生活を根本に、その後さまざまな要因が重なって睡眠障害を発症している場合がほとんどです。生活リズムをきっちり整えていけば、症状を大幅に改善させることができます」。

薬剤のみならず、生活指導や東洋医学で多面的な治療が肝要

当然、薬剤処方も選択肢にある。野島医師は「寝るためにお酒を飲むくらいなら、睡眠薬を使うべき」と前置きしつつも「依存性や副作用の影響は考慮しないといけない。使わないで済むなら、やはり薬は避けた方が良い」と言う。しかし問題もある。「医師も患者も薬の方が手軽なんです。普段の生活改善は面倒ですし、医師の側も『生活指導が重要』とは教わりますが、具体的には全く教育されません。その上、忙しい外来では難しい。結局薬に頼ることになります」。だが、原因である不規則な生活を自覚しないまま、あるいは見直さないままだと、不要な薬をいつまでも継続する恐れも出てくる。「私は、問診で食事や睡眠、余暇など生活習慣や仕事のことなどを細かく聞きます。正確な診断に至るためでもありますが、治療の一環として、それを踏まえたきめ細かな生活指導も行います」。
そのうえ回精会では、漢方薬を積極的に使い、整体や鍼灸などを勧めることもある。その理由を「西洋医学も万能ではなく、特に睡眠障害や心身症では生活改善や体質改善が重要で、それには東洋医学の方が上手に対応できることも多いからです」と教えてくれた。

周囲を巻き込み、成人の発達障害の理解を広げる

このような野島医師の哲学の根本には、患者をどうにか助けたいという情熱がある。そしてその熱意は行動に現れている。「今の医学では専門が細分化され、心身症のような、心と体の両方に問題がまたがるような病気では、検査は『異常ない』と言われ、精神科では『心の病気ではない』『体のことは分らない』と言われ、行き場に困る人が多くいます」。回精会が積極的に受け入れているのは、そんな患者たちだ。仁愛診療所では、野島医師をはじめ守備範囲の広い医師たちが多く、「心と体の両方にまたがる問題を、西洋医学と東洋医学の両輪で対応します」。それと近年多い成人の発達障害についても言及する。「近年、発達障害に関して社会の認知度が急速に広がってきました。児童のみならず、成人でも社会の中で苦しんでいるケースが医療の舞台に乗るようになってきたのです。しかし、そもそも発達障害の学問的な枠組み自体が急速に変化してきていて、教育体制も不十分で、精神科医の中でも大人の発達障害に対する適切な対処法を知る者が極めて少ないのが現状なのです」。そんな中、仁愛診療所は大人の発達障害を得意とする稀有な存在として知られている。

大人の発達障害は耳にする機会は増えたが、まだまだその特徴を知る人は少ない。発達障害の人には独特の感じ方・考え方やそれに合わせた対応方法がある。本人もどうしてよいか分らず苦しんでいるのに、ただ厳しくするだけでは、余計本人を追い込んでしまう。こうして本人や周囲がお互い苦しんでいる事が少なくない。野島医師は対策として「本人だけでなく家族や企業人、医師や保健師など、社会全体にノウハウを浸透させていく必要があります」と話す。企業や地域に向けた講演会などによって認知を広げる道を模索しているところだとも言う。
そして最近では新型コロナウイルス感染症の後遺症外来を開始した。医学的なエビデンスにはまだ乏しいが、心身症に近い側面があり、東洋医学による治療法が役に立つ可能性が高いとみている。野島医師は「どんな時代が来ても、回精会は常に人知れず困っている方の受け皿として頼られる医療施設でありたい」とその思いを語ってくれた。

野島逸

RECORD

医療法人回精会 仁愛診療所
理事長野島逸
1970年生まれ。獨協医科大学卒業後、同神経内科へ入局。2001年、名古屋市立大 学精神神経科入局。翌年、同大学病院救急部に配属。その後、尾西病院、豊川市 民病院にて従事し、2007年に東京医科大学茨城医療センター神経内科の医局長を 勤める。2011年より医療法人回精会の理事長兼、北津島病院院長を務める。内科 、精神科を学び、仁愛診療所にて睡眠医療をも担当する。近年、成人の発達障害 や新型コロナウイルス感染症の後遺症外来を開設するなど、時代の変化に対応す る行動力が光る。