[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

エンジニアの将来を見据え、笑顔になるための組織づくり

株式会社アスクープ
代表取締役
野萩
NOHAGI_SATOSHI

エンジニア出身の野萩氏が代表取締役を務めるシステム開発会社のアスクープ。最も力を入れているのがビジネスパーソンとしてのエンジニアの教育で、多重下請け構造になりがちなIT業界の中で、商流上げを少しずつ実現しながら業績を伸ばしてきた。そして、設立時に目標にしていた、自分たちが考え出したものを世の中に発信する試みとして、間もなく新規事業をスタート。エンジニアはプライドを持って働くことのできる会社を目指している。

社員の好きな気持ちを大切にしたい

25名ほどのエンジニアを抱え、システム開発、サーバーやネットワークの設計構築、運用保守などを主な事業としている株式会社アスクープ。2017年に横浜で設立された会社で、創業者である野萩聡氏はおよそ30年にわたってエンジニアとして活躍してきた。かつては個人事業主としてエンジニアを雇用することを経験し、派遣会社では管理職として若手の育成にも尽力した。この業界ではエンジニアが不本意な環境で働かざるを得ない場合もあり、「ゆくゆくは自分たちが考えたものを世の中に発信し、それを本業にできればいい」という思いでつくった会社がアスクープだ。

そのため社員の好きな気持ちを大切にし、社員の笑顔があふれる会社を目指している。その一方で、エンジニアを取り巻く環境は決して楽観視できない。そのひとつがIT業界特有の多重下請け構造である。「多いときには7~8社が入り、元請けの会社から1次、2次といった具合に商流が築かれる。だから個々でスキルアップを目指してもらわないといけないし、会社は商流上げをしていかないといけない」と、課題に向き合う。

技術の指導より人間をつくる方が大事

同社の強みは、コミュニケーションを苦手とする人が多いとされているエンジニアに対して、意識改革などの教育を積極的に行っていることだろう。「あるとき新人の面談で、自分のことを話してくださいと言ったら、思うように話せなかった。そこで鏡に向かって3分間で自己紹介する練習を課したところ、みるみるうちに話すのが上達していった。エンジニアとしてのスキルを教えるより、人間をつくるほうが先だと思った」と、当時を振り返った。

現在は面談の形を個別にしたり集団にしたり、さまざまな方法で教育に力を入れている。設立間もない頃は下流の商流でしか受けられなかった仕事も、今では1次受けや2次受けといった立場で受注できるようになった。発注元の多くは、ビジネスパーソンなら誰もが名前を知る企業で、中にはグローバル企業も含まれている。「商流が上がるとその分の責任は大きくなり、その責任に対して応えられる社員が増えてきた。ただ、僕らの世代でいう“うまくやれよ”ってことが、若い人にとっては“何を上手くやるのですか?”となることも多い。そこは根気よく時間をかけなければいけない」と、褌を締めてかかる。

自分たちで考えた新規事業で勝負する

人手不足といわれる業界ならではの問題点も横たわる。例えば使われているプログラミング言語は、技術の進歩によって変わっていき、今主流の言語だからといってこれからも使われるとは限らない。「コロナ禍で仕事が凍結したため、あるエンジニアの仕事がなくなり、スキルチェンジをしてもらった。2ヶ月間勉強させてうまくいったが、本来ならエンジニア自身が時代の変化を感じ取って危機感を持たないといけない。日頃から仕事に追われて、何も困っていないとこのような事態を招いてしまう」と、警鐘を鳴らす。

それでもさまざまな面で社員は成長を続けている。一昨年からは顧客先への1人配属をやめ、チームで取り組むスタイルへ移行し始めた。成長によって、チームを取り仕切ることのできる人間が現れてきたからである。30代半ばの社員に対しては、組織の中で自分がいる立ち位置を明確に提示。リーダーとしての心得を伝授し、社会人としてこれからの半生をどう成長していくのかについて考えてもらう。こうした地道な取り組みが功を奏し、2022年3月で設立から5年を迎えた今、アスクープは緩やかなピラミッド状の組織へと変貌を遂げた。そして、設立時の目標であった、自分たちが考え出したものを世の中に発信するチャンスがやってきた。

現在、新規事業として考えているのがECサイトの立ち上げだ。「コンセプトは“うちにしかないもの”を売る。世の中にはまだ知られていない作家によるミニチュア作品やジュエリー、絵画などの一点ものを販売し、作家との信頼関係を築きながらお互いが成長できるビジネス」を考えているという。そして、社員の好きな気持ちを大切にしてきた同社が温めてきたという、唐揚げ好きのエンジニアによる唐揚げ店のオープンも視野に入れている。

もちろん野萩氏はこれらのビジネスが簡単に成功するとは考えていない。「現在、仕事のほとんどはSES(準委任契約)のため、受託というワクからは出られない。そこから成長するためには一歩進んで、自分たちのコンテンツやプロダクトで勝負しないといけない」と、新規事業の目的を説明してくれた。そして、ビジネスとして上手くいけば、社内のエンジニアに与える影響も計り知れないものがある。

「好きなことをビジネスにしている人が社内にいれば、エンジニアは羨ましくなり、そのうち自分達もやりたいと思うはず。そうでなくても、1人配属でやってきたエンジニアは心のどこかで自社の社員と一緒に仕事をしたいと思っている。その土台ができたので、設立時に掲げた初心を思い出してほしい」と、社員のさらなる成長を期待する。来年度中には合計6つの新規事業をスタートさせることを目指し、社員全員で笑えるという組織づくりはいよいよ現実味を帯びてきた。

野萩聡

RECORD

株式会社アスクープ
代表取締役野萩聡
1966年東京生まれ。1991年に情報処理会社に入社。2年後に独立し、個人事業主として約10年間システム開発や情報処理業務に従事。その後ゲーム会社やエンジニアの派遣会社などで管理職として若手エンジニアの育成に携わった後、2017年にアスクープを横浜市に設立。システム開発、サーバーやネットワークの設計構築、運用保守などを行っている。