[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

常識を覆す挑戦を続け、運送業界の未来を切り拓く

株式会社誠輪物流
代表取締役社長
野坊戸
NOBOTO_KAORU

「パイロットや電車の運転手のように、トラックドライバーを憧れの職業にする」。株式会社誠輪物流の野坊戸薫代表はこの目標をずっと掲げてきた。家業だった運送業。子どものときに背を伸ばしてのぞき込んだトラックの運転席は、秘密のコックピットのようだった。大きな車体を自由自在に操って、どこにでも行くことができる職業は自分にとっては憧れの世界だったのだ。父の後を継いで社長となった今、自分が果たす役割はトラック運転手という職業の魅力を伝え、さらには業界自体を変えていくことだと信じている。

SNSで話題を集めるトラックの正体

埼玉県鶴ヶ島市に拠点を置く株式会社誠輪物流は、トラック運送による物流を担う企業だ。日本各地にトラックを送り出しているが、そのたびにSNSを中心に話題となり、「誠輪物流」という会社の知名度がアップする仕組みがある。

トラックのフロント部は、本来ならば個性が出るはずのない箇所なのだが、誠輪物流が所有するトラックにはホワイトタイガーやライオン、パンダ、トリケラトプスなどの動物の顔がそこに描かれている。ドット柄のトラックもあり、こちらは「見かけたら幸せになれる」というジンクスがあるトラックだ。この珍しい外観ゆえに、見かけた人が写真を撮ってSNSで拡散しやすく、さらにはトラックの写真を撮影しに会社まで訪れる人もいるという。

この取り組みの仕掛け人が、5年前に会社を引き継いだ野坊戸薫代表だ。

トラックドライバーの人手不足の問題を前に、野坊戸代表は「これだけ多くの車やドライバーが世の中に存在しているのに、なぜ皆トラックドライバーにならないんだろうと不思議に思っていました。理由の一つが、トラックドライバーの仕事が目につきにくく、記憶に残りにくいからかもしれないと考えました」と話す。

職業ドライバーという誇り

そして思いついたアイディアは、トラックの外装をポップに変えて、見た人に忘れられない印象を残すことだった。通常、会社のブランディングを図るには、統一したデザインを繰り返し見せることで記憶に残し、認知度もアップさせていくのが定石だとされている。しかし誠輪物流の場合は、アニマルやドットなど、デザインはあえて統一させず、トラックでは通常考えられないデザインにすることで、一目で忘れられない印象に残すことに成功した。

「こんな面白い事をする企業はどこだろう」と、日本各地からの目線は、誠輪物流に集約されていく。これまでは関東一円をエリアとしていたが、今では全国から依頼が殺到している。特に関西方面からの依頼が多いというのは、“タイガー”を愛する人が多い、というのも一因だろうか。ドライバーからもこの取り組みは好評を得ている。道行く人から笑顔を向けられ、子ども達から手を振られると、自然とドライバーの背筋は伸び、これまで以上に自覚を持って仕事に励むようになる。それが取引先からの高評価となって会社に良い影響をもたらしている。

誠輪物流で勤めるドライバーは皆、近隣から通勤している。トラックが注目を集めるようになってからは、会社を出発するときに近隣の人が目を止めて見送ってくれ、自分の子供に対しても、働く姿を見せやすい良い機会となっている。「トラックドライバーという仕事を身近に感じて欲しいですし、ポップなイメージをもってもらいたい。そして子供たちが憧れる職業になってほしいですね」と、野坊戸代表は笑顔を見せる。

トラックドライバーの魅力を伝える

以前は運送業とは無縁の仕事をしていた野坊戸代表。あるとき誠輪物流の初代社長である父親の要請に応じ、アルバイトを経て社員として同社に入社した。ドライバーは勿論の事、配車や倉庫作業、運送に関わる全ての仕事を必死で行い、気が付けば17年間、運送業界で働き続けてきた。父親が逝去した後、会社を継いで社員を守り、会社を存続させていく覚悟を決めた。

圧倒的に男性数が多い運送業界で、女性が会社のトップに立って経営を行うのは並大抵の事ではない。トラックの外観を変えるときも、組織改革を行うときも、「このままで良い」と考える社員からの反発があった。しかしトラックドライバーは物流に必要不可欠な仕事であるのに、世間からの認知度は低いままであり、それゆえの人手不足・高齢化や燃料費の高騰など、会社を取り巻く問題が山積みの中、変革の必要を誰よりも感じていた。反発する社員を何度も説得にあたり、頭を下げ続けた。そして会社を継いでから5年、業績は以前より格段にアップし、社員の笑顔も増えて会社の内外問わずに多くの仲間ができた。「継続だけが、自分の力になってくれると信じています」と、信念を曲げずに改革を主導してきた歩みを振り返る。

野坊戸代表は運送業界自体の改革にも熱心に取り組んでいる。「運送会社は全国に6万3千社あるといわれていますが、中小企業は倒産や後継者不足による身売りなどで、2、3年後には4万社まで減るとされています。やはり大手企業が強いのですが、我々中小企業が手を取り合えば、先代たちが作り上げてきた基盤はそのままに、大手企業と匹敵できる力になれると信じています」と、前を向く。トラック協会の部会長を務めている野坊戸代表。各社が協調し、5年10年の長期的なスパンでの変革を目指している。

将来を担う人材開拓も積極的だ。50代半ばで定年を迎える、まだまだ働き盛りが続く自衛官に対しても、再就職先としてリクルーティングを行っており、雇用の受け皿として機能している。「誠輪ブランドを築き上げ、社員が弊社で仕事をしている事がステータスとなるようにしていきたいですね」と話す。いずれは運送の専門学校を設立し、プロフェッショナルを育成していきたいという目標を掲げる。

2022年10月には、様々なトラックや車種が集結しトラックを身近に感じてもらえるトラックパークを開催する予定だ。キッチンカーやイベントなど、親子連れで楽しんでもらえる企画を水面下で進めている。

野坊戸代表は今日も自らハンドルを握り、日本各地へ向かう。社員と同じ目線で仕事をし続けるという意識があるのは勿論だが、トラックドライバーという仕事が心底好きで、ずっと続けていきたいからだと言う。野坊戸代表が先導する、運送業界の明るい未来への道行きにこれからも注目していきたい。

野坊戸薫

RECORD

株式会社誠輪物流
代表取締役社長野坊戸薫
専門学校卒業後、リラクゼーショントレーナーとして勤務。関東で一番の売り上げの店舗に育て、スポーツインストラクターとして某スポーツ店に勤務。その後、2001年に誠輪物流に入社。現場を一から経験し、2017年、代表取締役社長に就任。