[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

手を広げ、“人財”を育む――片田舎の企業が世界に羽ばたくまで

メモリー株式会社
代表取締役
中村憲広
NAKAMURA _NORIHIRO

近年の物価高やコロナ禍により、経営が立ち行かなくなる企業は多い。大抵の場合、商品やサービスの価格調整や、事業の選択と集中を行って切り抜けるだろう。しかし、あえて幅広い分野の事業展開と、社員の丁寧な育成により成長を実現しているのが、メモリー株式会社だ。同社取締役社長である中村憲広氏は、弱冠20歳で同社に参画。以降26年間、同社を切り盛りしている。モットーは「とんがったスタイル」。現在は、愛知県内に4箇所のオフィスと1箇所の研究機関、ヨーロッパにオフィスを1箇所構えるほか、2023年3月には初のM&Aを実施。デジタルサイネージのシステム開発やフィギュアスケートの大会支援を行う企業を獲得し、さらに事業領域を広げた。大会支援は世界で2社しかできない仕事。メモリーが一層、世界的企業になったと言っても過言ではないだろう。

地方から世界へ。町の小さな会社の挑戦

メモリーという企業を一言で表すなら「多事業」。同社は元々、日用品を販売する小さな企業であった。中村氏に代替わりして以来、企業のマーケティング活動支援から、ヘルスケア用品や無添加ドッグフードの企画・販売、人工知能やロボットの研究開発まで。各業界の後発メーカーながら、時代のニーズに注目してトライアンドエラーを繰り返し、確かな成果を挙げてきた。

現在は社員の6割以上が県外出身者で、平均年齢も27才と若い。創業約40年の歴史が育んだ事業ノウハウと、フレッシュで柔軟な視点を兼ね備える企業だ。

2023年3月には、同社初のM&Aを実施。とはいえ、それまでは順風満帆だったわけではない。同社の拠点は愛知県の小さな町。先代の頃から勤め、中村氏のグローバル志向に同調できない者も多かった。退職者が相次いだ時期もあるという。しかし、業績は右肩上がり。その理由は、中村氏の積極的な行動にある。

自ら行動し続け、社員を揺り動かす

多くの企業が物価高やコロナ禍のあおりを受ける昨今、国内で自社の商品やサービスの価格調整を行うのみでは太刀打ちできない。そう考えた中村氏は、自社の海外進出とそれができる人材の獲得に目を向けた。

ターニングポイントの1つとなったのは、2022年に出展した、アメリカ・ボストンで開かれた合同企業説明会「ボストンキャリアフォーラム」。日英バイリンガルを対象とし、海外で学ぶ学生がグローバル企業に就職する大きな後押しとなるイベントである。

同イベントでは、幅広い分野で若手が活躍する自社の事業スタイルや今後の展望を、社長自らが学生たちに語った。その結果、来場者3,000名に対し、300名の学生からエントリーがあり、実に20名に内定を出した。

加えて、次世代のリーダー育成にも着手した。長く先頭に立って進めてきた自身の業務を、若手に譲り始めたのだ。社内で過ごす時間も徐々に減らし、「成果を出すために必要なこと」を社員自らが考えて行動する環境を作り上げた。

すると次第に、彼のビジョンに共感する社員が増えてきた。既存社員も含め、一人一人が主体的に行動する姿も目立ち始める。結果的に社員1人あたりの生産性が向上し、それが業績向上につながったという。

学びと交流が、会社を強くする

中村氏が重視するものが、2つある。1つ目は「学び」、2つ目は社員との関係性構築だ。

「学び」は、いわゆる知識を付けるための学習ではない。社会的に価値のある商品・サービスを提供していくために必要な情報を各自で取捨選択し、使いこなすためのものである。この学びは経験からしか得られないとし、社内の研修制度を充実させている。

社員と積極的に接するのも、彼のこだわりだ。特に3月に獲得した会社の社員とは、1人ずつと2~3時間の面談を実施し、お昼には毎回個別でランチを共にした。時には手塩にかけて育てた社員が自社を去ることもあるが、固執も後悔もしないという。「どちらの企業の社員も本当に魅力的だし、全員が会社のかけがえのない宝物です。でも、“お友達”じゃない。志が違う社員を無理に残すほうが、お互いにとってよっぽど残酷ですから」

企業として続けていくために、成果を出し続けなければならない。そのために、社員の共感を得て、各自の能力を上げていく必要もある。時には、苦労や挫折もある。それでも常に前を向き、未来のために社長自ら行動する姿勢が、今のメモリーを築き上げているのだろう。

「自分が世の中に出てきた意義」は、有益なサービスをどれほど展開し、社会貢献できるかが尺度になる。そのためには若いうちからの学びが不可欠であり、時にはある程度自分に負荷をかけるべきシーンもある――これが、中村氏の考えだ。それは社員のみならず、中村氏自身にも言えること。「まだ見ぬ自分自身の働き方を開発し、自身も含めた一人一人の生産性をさらに高めていきたい」と、彼は話す。

メモリーはこれまで、既存の事業や技術を生かした「足し算」の事業展開を行ってきた。しかし今後意識するのは、「かけ算の事業展開」。一見、関連性のない事業同士のシナジーを創出することで、これまでにない価値を生み出すことを目指しているのだ。近い将来、別の企業のM&Aも視野に入れ、世界レベルの事業をまた新たに構築していきたいという。泥臭く地道に、かつ大胆にビジネスシーンを切り拓くメモリーの今後に、大いに期待したい。

中村憲広

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メモリー株式会社
代表取締役中村憲広
1976年生まれ。愛知県知多郡東浦町出身。大学3年次よりメモリー株式会社に参画。「とんがったスタイル」をモットーに、ブランディング・マーケティングで差別化を提案するコンサルティングを実施する。25歳で2代目代表取締役社長に就任。時流を捉え、多様性に満ちた先端的ブランドを創り上げている実績と優れた人財吸引力が、世界各国の幅広い学生から注目されている。