[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

蓄積してきた情報・技術が100年生きる企業の強い生命線に

ジャパン・エンヂニアリング株式会社
代表取締役
南雲一郎
NAGUMO_ICHIRO

古くなった排水管の再生工事を独自の8つの工法「インパイプフェニックス」で行うジャパン・エンヂニアリング。創業から52年間、新たな技術(特許12個、商標登録14個、審査証明3個)を生み出して顧客のニーズに応えてきた。技術力向上、新技術開発を支えてきたのは、同社代表取締役の南雲氏が大切にしている「報連相ではなく、相連報」「相談優先のグループ知恵でみんなのアイディアを持ち寄る開発体制」だ。100年企業となるまで半分を折り返したばかりのジャパン・エンヂニアリング。新たな工法を生み出す会社の風土、今後の展望について話を聞いた。

排水管を不死鳥のようによみがえらせる独自工法を開発

ビルやマンションで古びていくのは外観や内装だけではない。鉄製の排水管も、劣化する設備の1つだ。50年も経てばさびてしまい、安心して使えない状態になってしまう。そんな排水管を低コストで新しくよみがえらせる工事を行っているのが、ジャパン・エンヂニアリングだ。工法の名は8つの工法「インパイプフェニックス」。その名の通り、不死鳥のように排水管をよみがえらせるという意味を持つ。

「インパイプフェニックスは、既存の排水管の中に塩化ビニール系又はエポキシの樹脂管を内貼りすることで、排水管を新しい状態に作り変える再生工事です。18年前に弊社が開発した工法で、これまでにいくつものビルやマンションの排水管をよみがえらせてきました」。

インパイプフェニックスが開発される以前、排水管の劣化に対する処置は、物理的に排水管を取り換えるほかなかったという。取り換えのためには、壁を大幅に壊さなければならない。ビルやマンションの所有者にとって、大きな負担のかかる工事だった。「大理石でできた壁の場合、本当にコスト負担が大きいですよね。そうした状況に直面したお客様から『どうしよう』と相談があったのが開発動機です」。

社員一人ひとりの知恵・技術を結集。「グループ知恵」を重視

南雲氏が大切にしてきたのは、自社の技術だ。協力業者をあまり使わず、社員から社員へ伝承していく方法を採用してきた。インパイプフェニックスのような新しい工法、技術が生み出されるのも、そうして継承してきた技術が土台にあるからだ。

「グループ知恵を大切にしています。三人寄れば文殊の知恵といいますが、弊社の場合は3人どころではなくもっと大勢の人間がいる。1つの曲を作詞家、作曲家、編曲家、歌手とさまざまな人で作り上げるように、弊社の技術もみんなの知恵を合わせて作り上げてきたものです。インパイプフェニックスは、お客様からのお困りの声を受け、私が『こう解決できないか』と道筋を立て、そこに対してみんなで『こうすればいいのでは』『私にはこんな技術がある』と意見やアイディアを出し合い、実験しながら2年ほどかけて完成にこぎつけました。これは、実験できる工場を持っているからこそできる開発でもありますね」

開発に携わることで、社員には「これは私が関わった技術だ」という自意識が芽生えるという。「ただ与えられた仕事とは違い、関わる過程で得た知識は予備知識になる。それがまた別の新しい仕事をする際の発見につながることもあるんです」。

相談すれば、知恵を得られる。そこから考えることで、新たな知恵が生まれる

社会人のマナーとしていわれる「報連相」だが、南雲氏は「相談が何よりも先」だという。「相談すれば、ベテランの知恵を借りられる。知恵はその人の人生です。その時間を相談によりいただき、そこから考えればいい。私もいろいろな人に相談しながらこの会社を作り、経営してきました。10人の50歳に相談すれば、500年分の経験のエッセンスをもらえる。こんなにいいことはないですよ」

相談を先に置くのは、トップにとっては大変なことだ。受ければいい報告とは違い、相談は受け手も考えて応えなければならない。しかし、南雲氏が相談を重視してきた結果、会社は相談をしやすい風土が根付き、育った社員が後輩の相談を受けられる循環ができあがった。顧客からの質問にも答えられる社員が増えたことで信頼を得、リピート客も増えてきたという。

「以前、インパイプフェニックスが国土交通省に2度も採択され、補助金を得て工事に臨めた事例がありました。お客様からの相談に本腰を入れて向き合い、試行錯誤をした成果です。難問であればあるほど燃えますね。『失敗しても、それは成功への回り道』。社員にもそう伝えて、挑戦しやすい環境を作っています」。

再生工事をした排水管は、その後30年50年と使い続けられるという。「おそらく、寿命がくるのは建物そのものが先」と語る南雲氏の頭にあるのは、排水管の未修繕のストックをこれ以上増やさず、再生工事を行い、修繕・維持することだ。古くなったら新しいものに変えるという考えは、環境負荷がかかる。少ない負担で使い続けられる形に変えることで、このストック社会に貢献していきたいという。

「新たに作られている排水管は長持ちするものですから、再生工事が必要とされるのはあと60年ぐらい、弊社が100年企業となったころです。そこが役目を全うしたといえるときでしょうね。ただ、それまでに別の課題が見つかり、みんなで知恵を持ち寄って新技術を作っているかもしれませんが」。


自身は「140歳まで生きたい」と豪快に語る南雲氏。近年では、工場のある千葉・勝浦で放棄地を活用した稲作事業にも取り組んでいる。自治体からの要請を受け、担当する田んぼは年々拡大中だ。技術を内製化し、社内に知識も技術も蓄えてきたからこそ、簡単には揺らがない強い企業として成長してきたジャパン・エンヂニアリング。100年企業となるときには、その情報はさらに膨大なものになっているだろう。

南雲一郎

RECORD

ジャパン・エンヂニアリング株式会社
代表取締役南雲一郎
1961年に都立北豊島工業高等学校機械科を卒業後、総合設備建設会社に就職。海外の技術を見てみたいと渡ったヨーロッパで、古くからの水道技術に感銘を受け、日本でもその技術を普及させたいと考え始める。1972年に退職した後、1973年ジャパン・エンヂニアリング株式会社を一人で起業。今に至る。