[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

DXで世界を一つの総合病院に。Pubcareで医療業界を改革

株式会社United Vision & Company
代表取締役
村岡聡一
MURAOKA_SOICHI

苦しむ患者をできるだけ多く、少しでも早く救いたい。その熱意から激務を続けがちな医師たち。しかし、その仕事にはまだまだ非効率が隠れていると指摘するのが、医療法人の経営者であり現職の医師である村岡聡一氏だ。開業医としてハードな仕事を経験したことで、「この働き方を長く続けるのは無理だ」と痛感した村岡氏は、アナログによる業務の非効率を変えるため、DXに意識を向ける。株式会社United Vision & Companyを設立し、現在は自社サービス「Pubcare」シリーズの本リリースに向けて猛進中だ。新たな挑戦をすることになった経緯、Pubcareに懸ける思いを聞いた。

休みなく働くには限界がある。実体験が新事業を生んだ

35歳で開業医となった村岡氏。外来診療だけでなく、当時はまだ数の少なかった訪問診療にも対応した。国が在宅医療を推進する流れに乗れたこともあり、クリニックは順調に成長。1日1~2時間の睡眠時間で365日訪問診療を1人で対応するというハードな日々を過ごしていたという。

「まだ年齢的にエネルギーがあったからこそできたこと」だと村岡氏は振り返る。「開業医として働ける平均年齢は60歳くらいだと言われています。歳を重ねてくると、体力で補うことが難しくなってくる。休みなく短い睡眠時間できちんとパフォーマンスを発揮し続けるのには無理が出てくると思っていました」

訪問診療には診療にかかる時間以外に、移動時間、事務作業に充てる時間が発生する。村岡氏は、せめてこれらの部分を効率化できないかと考えた。移動時間は減らせなくとも、運転手を雇えば移動時間に別のことをしたり休んだりできる。しかし、事務作業は事務員を雇って減らせる量にも限界があると村岡氏は語る。

「医療業界は未だにFAXや紙でのやり取りが多く、直接目を通さなければならないという非効率がある。情報を統合できれば少しは効率化できるのではないかと思いました」

複雑なヘルスケア領域を知る者だからこそ実現できるサービスを

医療の非効率を何とかして変えたい。しかし、自身は医師であり、DXツールを作る知識や技術を持ち合わせてはいない。その思いを東京でIT関連企業を経営する同級生に話したところ、開発ベンダーを紹介された。自分の作りたいものが明確になっていれば、ある程度までは想像より簡単に形にできることを知ったという。

「ただ作るだけなら一定の費用を掛ければ実現する。しかし、作ったものを維持していくにはマネタイズを考えなければならない。持続可能なものにするために商用化を考え始めました」

サービスは使われて初めて意味を成す。どうすればお金を出して使ってもらえるのかを考え、自身の医師としての経験だけに頼らず、勤務医や病院経営者、医療と連携してサービスを提供する介護業者などにも意見を聞いた。そうして誕生したのが、医療DXを推進するPubcareシリーズだ。

「医療ヘルスケア領域は、あのAmazonも狙っている大きな市場。しかし、ジェフ・ベゾスは『医療業界は複雑であり理解が難しい』と述べている。私には勤務医、医療法人経営者という経験がある。現場のペインや患者、医師のニーズを知っていることは大きな強みになるのではと思いました」

Pubcareで患者の医療体験と医療従事者の働き方に改革を

Pubcareが取り組んでいるのは、患者と医療介護機関が共有できるデジタルマイカルテ作りだ。患者はカルテの公開範囲を決められ、医療介護従事者に共有しスムーズな医療を受けられたり、救急時に開示することで早期治療につなげられたりする。カルテを事前に見られることで、医療機関の事務作業は大幅に短縮。2時間かかっていたものが30分まで圧縮できた事例もある。

今後の展開について、村岡氏は「よりスムーズな医療体験を患者に提供し、医療従事者の持続可能な働き方を実現したい」と語る。オンライン診療を受け、処方箋をネット上で送ることで薬が自宅に届く。外来診療の場合も、事務作業をデジタル化することで自動決済が可能となり、診療後は会計処理や薬の処方を待たずに帰ることができる。実現にはサービスを導入する医療機関が増えることが肝要だ。来年の本リリース後、1年目で100医療機関へ導入し、実際に使ってもらいながらサービスの改善を続け、販売体制を構築することが当面の目標だ。

「数年後には、Pubcareに集まるデータを使ったビジネスを始めることも検討しています。医療の負を解消できるよう、今後も取り組んでいきたいです」

医療法人の経営に加え、ヘルステック事業を手掛ける新法人の経営に挑戦する村岡氏は、実家も商売を手掛けているという背景を持つ。「事業は継続していかなければ意味がなく、そのために必要な収益を上げるには顧客がいなければなりません。顧客に支持し続けていただけるサービスにするには、ペインを解決し、ニーズを満たすことが肝要です。事業が上手く伸びないときには、必ず何か原因となるポイントがある。そこを常に意識しながら、諦めずに挑戦し続けていきたいと思っています」と語ってくれた。

ヘルステックはまだまだこれから発展する領域であるがために、理想の実現にはリスクを取らねばならないシーンも多い。「今の日本に足りないのはリスクを取る勇気です。リスクを回避していてはイノベーションは生まれません。新しいサービスを提供する会社は、成長するか死ぬかの二択でしょう。企業としての成長が途絶えれば、追従してくる会社に負けてしまう。喜んでもらえる価値提供を続けることが進化につながり、生き残りにもつながる」と力強く語った村岡氏。やることが決まれば、あとはやるのみ。医療の非効率をDXで変えるという強い意志を感じた取材だった。

村岡聡一

RECORD

株式会社United Vision & Company
代表取締役村岡聡一
2001年、福岡大学医学部卒 。2007年、福岡大学大学院医学研究科卒 。2016年には九州大学医学部臨床准教授、2020年、福岡大学医学部臨床准教授現職。医療法人のあさかぜ理事長に2015年~現職。福岡市中央区医師会理事現職。医学博士日本循環器学会認定循環器専門医日本内科学会認定内科医。2021年10月1日に株式会社United Vision & Company設立。