[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

暗号資産の課題を逆手に新たなビジネスモデルを発信

Advance Ability株式会社
代表取締役
三桐睦夫
MITSUGIRI_MUTSUO

ブロックチェーンの技術を使って、インターネットを通じてやり取りできる「暗号通貨(仮想通貨)」。ビットコインなどのサービスがリリースされて久しいが、可能性が期待される一方で不正流出問題やボラティリティー(価値の変動)が激しいなどといった課題もある。そんな中、Advance Abilityの三桐睦夫代表取締役は、その課題を逆手に取ったサービスを開発、激動の時代に新たな発想のビジネスモデルを熊本・八代から発信しようとしている。

自衛官からの転身

三桐代表は、高校時代に吹奏楽に没頭し、音楽を続けるために海上自衛隊の音楽隊を受けたことをきっかけに入隊、護衛艦の戦闘指揮所(CIC)などで勤務した元自衛官というユニークな経歴を持つ。

「アイデアをパズルのように組み立てて新たな仕組みを考えるのが面白い」という三桐代表は2012年、当時話題になり始めていたビットコイン(暗号通貨)に興味を持った。「すぐに投機ニーズが高まり良くも悪くもニュースになり大きな話題になりました、暗号通貨はボラティリティーが激しく、リスクもあるんですが、それを逆手に取った仕組みを作れたら新しいサービスが実現するのではないかと考えたんです」と語る。

「金融庁のフィンテックサポートデスクに、思いついた仕組みについてビジネスにできそうか、意見交換しましたが、当時はまだ暗号通貨の法整備ができていなくて、仕組みの設計も未完成な気がしたので、勢いでビジネスを始めることはできなかった」という。三桐代表は以降、暗号資産の基礎となるブロックチェーンの技術に着目し、次々とアイデアを出してはビジネスモデルを模索していった。

コロナ禍で熊本・八代からの再出発

2016年に仲間たちと暗号通貨やブロックチェーン技術を活用したビジネスを行うため会社を設立した三桐代表は、当時コンサートなどのチケットの転売が社会問題になっていたため、ブロックチェーン技術と暗号通貨を活用したチケット販売サービス「リコチケ」を開発、クーリングオフ機能を備えたチケッティングサービスを提供した。しかし、2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大、感染予防のためにコンサートの中止が相次ぎ、クーリングオフを売りにしていたことも災いして、キャンセルの対応に追われ事業は頓挫した。

それでも三桐代表は「コロナ禍で再建は厳しい、でもまだやれることがあるはず」と奮起し、「地方からあのサービスに再度チャレンジしよう」と決意した。全国でプログラミングスクールとコワーキングを力強く展開する知人の会社代表に相談したところ、新たなオフィスを準備中の熊本県八代市の商店街の空き店舗に、イノベーティブな企業を誘致したいという動きがあると知らされた。

「代表のご厚意で市役所の方を紹介してもらい、市役所でビジネスアイデアのプレゼンテーションをしたら、『面白い発想。応援しますよ』と、すぐに地元企業や商工会関係者を紹介してもらいました」と手応えをつかんだ。

そして2020年、地元支援者からの協力を得て、AdvanceAbility株式会社を設立。温めていたビジネスモデル特許「仮想通貨時間差受渡システムとその運用方法(特願2020-120883)」を出願。今までにない発想の暗号通貨運用サービス、「RAISE(レイズ)」の開発に乗り出した。

「トレカのように」暗号資産を楽しめる

ビジネスモデルは、運営が購入した暗号通貨の購入時のレートや購入価格、購入量などをデジタルのカードにステータスを表示、ユーザーは月額のシステム利用料を支払い、アプリ内に並べられたカードから価値の上昇を期待するカードを選択し、自身のホルダーに持っているだけ、以降は日々変化するステータス、騰落率を見ながら、カードに記載された価値が上がった任意のタイミングで、運営から購入時の価格(元値)で記載の価値を買い取ることができ、ウォレットに送金された暗号通貨を自身で売却すれば上昇利益を得ることができる。カードの組み替えも自由だ。

「例えば古物商は、店主の目利きで仕入れた商品の価値がより高く評価されることにより、売れれば儲かるという仕組み。しかし、可能ならレンタルもすることで継続的に収益が得られる方がよりいいと思う。『RAISE』は運営する会社が買った暗号通貨を、サブスクリプションでユーザーに所有権をレンタルし、コレクションとして価格変動を楽しんでもらう。トレーディングカードをレンタルでコレクションして、価値が上がったら元値で買い取ることができて、それを売って利益が得られるみたいなもの。“後出しジャンケン”で利益が取れる」と解説する。

三桐代表は金融庁、財務局などとディスカッションを重ね、2022年にようやく法的な位置づけを受けた。サービスを一般公開するため、アプリをテスト運用し、データを収集、引き受け手となる証券会社などの第一種金融商品業者との連携を図っていくという。

「投資の環境はもっと自由度が高く、人生に身近であってほしい。このサービスを多くのユーザーに楽しんでもらい、ビジネスモデルの有用性を理解してもらいたい。暗号通貨以外にも、美術品や不動産、食品など価値が変動するありとあらゆるコンテンツにアレンジできる。国内だけでなく、海外での展開も視野に入れています」と力を込める。

「コロナ禍でさまざまなことが加速度的に変化しつづけていると感じる。今や一つのアイデアだけで結果を出すのは難しい、もっと洗練された、世界で求められるビジネスモデルを創造しなければ勝てない時代になってくると思う。今は社内で自分だけがアイデアを出しているが、将来は社員にも発明にチャレンジしてほしい。そして会社ではなく自身の財産としてビジネスモデル特許を取得してもらいたい。そうして生まれたモデルをビジネス展開できるような会社にしたい」と夢を膨らませる。

三桐睦夫

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Advance Ability株式会社
代表取締役三桐睦夫
1972年、島根県生まれ。1990年、湘南学園松江日本大学附属高等学校(現:立正大学湘南高等学校)卒業後、海上自衛隊に入隊。護衛艦のCIC(Combat Information Center)などの勤務を経験。その後、韓流エンタメ雑誌出版社勤務などを経て、チケッティングシステム開発のベンチャーを設立。2020年、熊本県八代市でAdvanceAbility株式会社を設立、ブロックチェーン、暗号通貨などイノベーティブなサービスや仕組みの特徴を組み合わせて新たなビジネスモデルを発案している。