広島市安佐北区に本社を置く株式会社ミカワ(代表:三川謙二氏)のルーツは約70余年前にさかのぼる。1950年代から60年代の広島は数々の工場が立地され、また、大手企業の主要工場が開設する高度成長期の真っ只中。その頃、県内屈指の重量物輸送会社を営んでいたのが三川氏の祖父であった。世のために働くという気概に溢れ、共に働く仲間を大切にする祖父や両親の姿が、三川氏の【三方よし】の信条に宿っている。そんな三川氏に株式会社ミカワの今後の展望を聞いた。


重量物輸送はトラックの社会貢献70余年に継がれる「人の仕事」


●13年前、最も困難な道を選り抜いた
建設重機や舗装機械に杭打機械などの大型重機を専門に輸送する「重量物輸送」は、荷主である土木建築産業と密につながっている。土木建築産業の経済動向と一蓮托生の事業とも言え、三川氏の祖父が創業した会社は、1980年代以降の産業構造転換期から90年代のバブル崩壊に抗えず、1度畳むこととなった。それを2009年に再興したのが三川氏で、34歳の時であった。ほぼゼロからのスタートであり、加えて地方事業ならではのしがらみもあった。「人と違うことがしたければ都会へ出ていく。ここに残るなら地域慣習に同化しなければならない。そのどちらでもない道、つまりはこの地で根を張りながら当社のやり方を貫く決意をした」と当時を振り返る三川氏。最も困難な道を選り抜いた背景には、物流界の価値向上を願う想いがあった。「重機を運び届けるという仕事は困難の連続なのです。日々、道路状況も異なればルートも違う。同じ日などというものはありません。その日のミッションに挑み、無事に納めるためのあらゆる手を尽くし、知恵をしぼり出す。それがこの業界のプロドライバーたちなのです」と話し、彼らの仕事が適正に評されることが業界価値の向上につながるのだと力を込める。
●ドライバーが活気づくからこそ仕事の精度が担保される
三川氏は社長就任後、事業単価の見直しに着手する。株式会社ミカワの「適正価格」への見直し(主には引き上げ)は当然、周囲をざわつかせることとなる。「もちろん去っていくお客様はいました」と笑み話す三川氏。続けて「それでも当社に仕事を依頼したいというお客様もいました。そんなお客様たちと共に歩みたい、そう思いましたね」と。適正価格への見直しと並走するように変わったのが、プロドライバーたちの姿勢であった。意識が変わり、表情が変わり、その余波が運行管理者や整備士や事務社員にも伝わってゆく。三川氏は「矜持を懸ける自分たちの仕事に価値(価格)を置かれることは、何よりものモチベーションではないでしょうか」と話しながら、ドライバーが活気づく会社だからこそ、仕事の精度も担保されるのだと教えてくれた。
「ただ、これは当社内だけの課題ではない」と懸念する三川氏。価格の見直しは同社としても踏み込むに決意の要る領域であり、それはこの地の同業他社も同じこと。自らリスクを取って先陣を切ることで重量物輸送界にトリガーをかけ、業界価値を守りたいのだと真意を語る。




●特殊車両を多数保有、広島から全国ネットワークを展開
「ドライバー(社員)が活気づき、顧客に高クオリティな仕事を納め、競合他社も含めた社会全体がよくなっていく、そんな【三方よし】を目指しています」と話す三川氏。株式会社ミカワは11期目にして10億円を売上げ、2030年には30億円を目標としている。大きな目標を射程範囲内にしているのも三川氏の思い切った決断力で、2009年の社長就任後にトラックの一新や特殊車両の導入や本社内2カ所の設備工場開設など大規模な設備投資を成し遂げている。「トラックはドライバーにとって商売道具であり、職場そのもの。気持ちよく働いて欲しいですから」と話しながら「平ボディやユニック、セルフやトレーラーなどの特殊車両が事業拡大の要です」と続ける。2代目や3代目が継ぐ同業他社が次々と会社を畳む中、地場の重量物輸送界を牽引する気概に、地元銀行の融資にも期待が込められている。そんな期待に応えるかのごとく、2019年に大阪、2020年には東京にオフィスも開設して、広島を拠点としたネットワークは北海道から沖縄まで広がる勢いだ。三川氏は自身のことを本来は小心な質であると話す。「だからこそ自分を追い込むんです。リスクを取って自らに仕掛けていくんです」。
1度畳んだ祖父の会社には、何にも替えられない素晴らしい財産が遺されていたと話す三川氏。それが人財だ。常に新たな現場で新たな使命に挑むドライバーたちは、まさに「重量輸送のスペシャリスト集団」である。荷主相手に「危ない、できない」は強固な拒否を示すと同時に、「だから、こうする」の代案にも主張が強い。「その交渉ができるからこそ、他社が及び腰となるような案件も引き受けられる」と胸を張る。代表である三川氏はもちろん、荷主である土木建築会社からも厚く信頼を置かれるプロドライバーたちには、70余年に渡るミカワイズムが脈々と継承されている。臨機応変と絶対安全の二律背反を宿命とする重量輸送事業において、失ってはならない「人の仕事」と言えるだろう。全国各地の施設が老朽化に伴う建て直しを始め、都心では大開発も進められる昨今。株式会社ミカワへの相談件数は増加の一途だと話す三川氏。「重量物輸送とは、トラックを通じた社会貢献です」と微笑む。その脳裏には祖父や両親の姿が刻まれているはずだ。