主にアメリカと日本でのビジネス経験を持ち、文化の違いを深く理解しているエマージングジャパン合同会社の社長である、前島千秋氏。前職の外資系企業が扱うソフトウェアの日本総代理店となる同社では、製品の輸入販売、その利活用に関するコンサルティング、ソフトウェアの保守・サポートを手がけている。それぞれの国において価値提供の手法が異なることを熟知している彼は、販売するソフトウェアの有益性を認めつつ、それをいかに日本企業に適応させるかに尽力してきた。製品のどこに魅力があり、なぜそれを日本に広めたいのか。前島氏の見解と、今後のAIの活用について伺った。
業務自動化で足踏みする企業に前進するきっかけを提供
●対話型AIとインテリジェント自動化の需要の高まり
エマージングジャパンが提供するソフトウェアは、世界有数の対話型AIと生成AIを活用している。近年台頭する生成AIは、例えば入力された質問に対して人間に近い形で文章を生成し、返答を提示する機能を持つ。一方、対話型AIは、顧客からの連絡を受け、業務システムなどと連携して案件を処理し、企業のビジネスプロセスを自動で進行させるのだ。この両者の強みを融合させたパワフルなプラットフォームこそ、前島氏が普及に努めるソリューションだった。
また、エマージングジャパンが提供する「インテリジェントな自動化」は、これまでの自動化の枠を超えた新しいアプローチを採用している。従来の自動化は、業務全体の中でごく一部に過ぎない。例えば、システム障害時においては、スクリプトを使って部分的に対応する方法が一般的だ。しかし、真に求められているのは、アラートが鳴ってから障害解決に至るまでの処理を臨機応変に行う機能である。それを実現するのが、フロントオフィスからバックオフィスに至るまでのエンド・トゥ・エンドの自動化、つまり「インテリジェント(賢い)な自動化」なのだ。
「日本において、対話型AIや業務自動化による生産性向上の需要は非常に大きいと考えています。『人のサポートではなく、人に代わって仕事をする』このシステムは、まさに時代の先端を捉えたものだと言えるでしょう」
●「日本のために」ソフトウェアの定着を目指す
エマージングジャパンは、日本企業向けのこの種のソフトウェア導入を推進する先駆けとなった企業の一つである。同社は現在、新規顧客開拓に注力しており、その手法は既存顧客企業を足掛かりに、業界内での広範な展開を目指すもの。提供するサービスの活用方法は業界ごとに異なるため、各業界に適した導入効果の高いユースケース自動化を設計・実装し、成功事例を積み上げたうえで同業他社への展開を進めている。
このアプローチにより、同社は自社の利益を上げるだけでなく、日本の労働生産性の向上や働き方改革の深化、さらに日本企業の国際競争力の強化にも貢献することを目指している。また、今後、日本で深刻化していく少子高齢化や労働人口の減少に対する解決策にもつながると言う。前島氏は「難しいのは、企業にどのように納得していただくかです。製品自体には自信を持っていますが、日本では同業他社の導入事例を重要な判断材料の一つとすることが多く、その壁を突破する必要がある。大きく言えば日本のために、この製品を根付かせたいと考えています」と語る。
もちろん、この目標を自社単独で達成するのは困難であるため、前島氏は日本のITサービスプロバイダやSIer、エンジニアリング企業などとの協業を進めており、着実に前進していると言える。
●日本経済の底上げを目指し、中小企業にもアプローチ
加えて前島氏は、「日本でよく見られる、企業の横並び体質に変化を与えていきたい」とも語る。時間がかかることは十分に理解しているが、それに挑戦し、3〜4年後には複数の製品を組み合わせて対象市場や販売範囲を広げていく計画だ。
「現在は中堅から大企業の顧客が多いですが、今後は中小企業にもアプローチしていきたいと考えています。企業の規模に関係なく、顧客や社会にとって価値のあるものを提供していきたい。当然、企業ごとに状況や期待する成果は異なりますが、それを見極めたうえで最適な解決策を提供していくつもりです」と前島氏は話す。
新規契約を結ぶため、プレゼンやデモを頻繁に行なっている前島氏だが、その際によく「うちの会社ではどのように活用できるか?」と尋ねられるという。その回答はある程度用意しているが、興味を持ってもらえた場合、互いにより良い利活用法を出し合い、「ともに」企業として成長していくことを目指したい、と語った。
前島氏の抱く理想を実現するためには、エマージングジャパン自体が強いチームを作り上げることが不可欠だ。組織を構成する個々人がどんなに優れていても、一人で完遂できることはごく限られている。だからこそ、それぞれが自らの強みを伸ばし、弱みを補い、企業全体の力を高めることが重要になるのだ。
「ほとんどの仕事は、個人競技ではなくチームスポーツです。そのため、組織の存在意義や目的を共有し、そこにおける自らの役割を理解することが大切。全社員が組織の成果を上げることに注力してこそ、『勝てる』チーム、企業になれると思っています」
広くAIに関して言えば、企業側も大きな期待を寄せる一方で、どのように扱っていいのか迷っている部分があると前島氏は分析している。しかし、提供する対話型AIと生成AI、さらにはインテリジェントな自動化のソフトウェアが、そこに明確な回答と成果をもたらすと確信していた。
「新しい技術やイノベーションは、新規の技術開発によってのみ生まれるものではありません。むしろ、時代は既存の技術をうまく組み合わせてソリューション化する方向に進んでいると感じています」と語る前島氏。日本企業の特性を理解し、その特性に即した新しいソリューションを提供しようとする姿勢は、これからますます加速していくと予想される。