2019年の金融庁の報告書が発端となった「老後2000万円問題」で資産運用に注目が集まったが、セミナーなどに参加するのは少し不安があるという人も多い。KEYNOTE COMPANYの藏本陽代表取締役は、百貨店出身の柔らかい人当たりで、「お金の知識」を分かりやすく解説、資産運用の相談に乗っている。「『お金の知識』を身に着けて、自分の人生に向き合って人生を豊かにしていく人を一人でも増やしたい」と語る藏本代表に聞いた。


百貨店出身の「お金の話」をリアルで語るセミナー講師


●“家庭崩壊”から始めた資産運用
老後2000万円問題とは、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の試算で、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯で毎月約5.5万円が不足し、「20~30年間の不足額が約1300~2000万円に上る」という報告から論議が巻き起こったもの。人生100年時代の超高齢化社会で、終身雇用制と年金という従来の老後対策だけでは不安が残り、若いうちから老後の資金形成を考える必要性が叫ばれた。
藏本代表は、大学を卒業して大手百貨店のグループ会社に入社し、バイヤーや店舗の責任者として活躍したが、10年がたったころ、責任が重くなり、休みも満足に取れないような過酷な労働環境の中で、働き方に疑問を感じていった。「子供も生まれたのに、かかわることもできず、妻には『あの頃は家庭が崩壊していた』と言われて、衝撃を受けました」と振り返る。
そんな時、元大手企業の役員で不動産投資などで悠々自適の生活を送っている知人から「働くだけがすべてではない」と資産運用の重要性を指摘されたことをきっかけに、投資の勉強を始めた。「投資は怖い物だと思っていましたが、投資の成功体験を初めて生で聞くことができて、興味を持つようになりました。最初は本から入って、実際にチャレンジしてみて、詐欺に遭ったり、投資でお金を溶かしたりもしました」と明かす。
だが、投資で一定の成果が上がるようになり、退職を決意。「しばらく家族と旅行をしたりして、心に余裕ができるようになって、人と接することや働く意欲にもつながり、好循環が生まれた自分の経験、体験をたくさんの方に伝えることで、その人を輝かせることができるのではないか」と考え、2018年に会社を設立し、セミナーを開くことになった。
●「投資を始めるきっかけづくり」のセミナー開催
セミナーの内容は「金融商品を紹介するものや、サービスに促すようなセミナーが多いのですが、うちのセミナーは投資の具体的な内容ではなく、世の中でのお金の流れや重要性を理解して、投資を学び始めるきっかけを得るという位置づけです」と説明する。最初は貸会議室で数人の受講者からスタート。経営者の会合に参加して、そのつながりで紹介されるなどして、徐々に受講者が増え、これまでに延べ約2000人が参加している。「小売業出身者のお金のセミナーって、あまり聞かなかったので、より身近に感じてもらえていると思います」と手応えを語る。
藏本代表は「資産運用の結果が出るのに長い時間がかかる。勇気を振り絞ってセミナーに参加してくれた受講者にお金のことを伝えていく立場の人間は、そこまで付き合いをしていく覚悟がないといけないと思う」と力を込める。実際、受講者からは親や妻など家族に聞かせたいという声も多く、経営者からは大事な従業員に学ばせたい、と社員研修に招かれることもある。
そんな中、コロナ禍を迎え、セミナーの開催が困難になった。「金融機関だけじゃなくて僕のような個人だったり、小規模でセミナー展開をしている人たちも、気軽だからとオンラインセミナーの回数が一気に増えた。中には詐欺まがいのものや、表面だけ整えたようなものも多い。古いのかもしれませんが、お金の話をするのに、対面で話せないと本当の意味での信用って多分できないと思う」と藏本代表はリアルのセミナーにこだわっている。




●「お金の話」をできるコミュニティーづくり
藏本代表のセミナーは午前9時からスタートして午後5時まで、30分休憩をはさんで8時間ビッシリ行う。単純な座学ではなく、その都度資産運用にかかわるトピックスを解説。グループワークなども行われる。「まず自分がこういうふうになりたい、というイメージを持ってもらうことが大事。そこに向かってどうしていけばいいか、一緒に考える。初めての人はもちろん、再受講の場合もその時どんな問題意識を持っているか、インプットだけでなく、アウトプットすることで整理され、理解が深まる」と語る。
さらにオンラインサロンなどを通じて、コミュニティーの運営にも力を入れ始めたという。「お金の話を本当にフィルターかけずにできる友達というのは限られるので、そういう話ができる場ができたら、アウトプットできるし、すごく楽しい。みんなお金について知りたいし、学びたいし、聞きたいんです」といい、物価の変動や為替相場など、日頃のニュースを抜粋して、それが生活にどんな影響があるのか、藏本代表なりの見解を加えて、語り合っているという。
「お金の運用ってすぐ結果は出ないので、10年、20年、30年とたって老後を迎えたときに初めて答えというか、結果が得られるものだと思う。それぞれの歩みをみんなで笑顔で語り合える関係性を築いていきたい」と笑顔で語る藏本代表。今後は地方でのセミナー開催に力を入れていきたいと、目を輝かせた。