[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

ものづくりの町・八尾を代表する「小さな巨人」を目指して

クマガイ電工株式会社
代表取締役社長
熊谷康正
KUMAGAI_YASUMASA

日本のGDPの約20パーセントを占めている製造業。失われた30年で他国に押されつつあるが、品質においては未だトップクラスを誇っていると言っていいだろう。大阪府八尾市に本社を置くクマガイ電工株式会社も、そんな日本品質に寄与する一社だ。1965年に創業した同社は、まれに不良品が発生すると珍しがられるほど、品質にはこだわりを持っている。その品質維持の秘訣、社会貢献、課題、今後の展望について熊谷康正代表取締役社長に聞いた。

工場で父の仕事を見ながら過ごした幼少期

湯船の温度を保ち、お湯の浄化を行う「バス保温クリーナー 湯メイク」や、ヒーターを内蔵した衣料品「ぬくさに首ったけ」シリーズといった、暮らしを快適にするための製品の製造を強みにしているクマガイ電工株式会社。2008年に創業者でもあった父から事業を引き継いで社長に就任した熊谷氏は、「父は土日も出社して、工場で作業をしているような人でした。私は隣で作業を見たり、余す時間をプラモデルを作って遊んだりしていたので、工場の中で育ったようなものです」と懐かしそうに目を細める。

そんな幼少期を過ごしたためか、「自分が将来ここで働くのは間違いないだろう」という考えが漠然とあったそうだ。大学卒業後は修行も兼ねて民間企業に就職。希望していた製造部門ではなく、開発部に配属されたが、これが功を奏しているという。「当社で製造している商品の一部には、ICチップやマイコンを搭載しているものがあります。私はこのプログラムを読むことができるため、仕組みが理解できるし、不明な点があれば指摘をすることもできます」と話す通り、会社員時代に培った技術が今も生かされているという。

部品の個体差まで確認して微調整を行う

クマガイ電工の強みであり、誇りでもあるのが高い信頼を得ている技術力だ。大企業とは異なり、資金力に限界がある中小企業では、一つのミスで会社が傾きかねない。「電気はとても便利な反面、一つ取り扱いを間違えれば、簡単に悪い方向に転んでしまいます。万一、回路が壊れても安全に停止する仕組みを入れることで、大事故を防ぐことができる設計をしています」と表情は真剣だ。

しかし、原材料の高騰により仕入れ部品が値上りしたり、供給が安定しなかったりという厳しい状況が続く中、品質を維持するのは至難の業だ。熊谷氏は「お湯の温度の上がり下がりを感知し、コントロールする設計はアナログです。部品の規格が同じであってもメーカーが変われば、実際に使ったときに微妙な差異があることがわかります。ですから、その部品メーカーの部品の傾向を見て、微調整する必要があります」と話す。安くて安定供給がされる部品を使えばいいという問題でもないという。「メーカーさんには失礼かもしれませんが、同じ部品は一つとしてないと思うこと、不良品があることが前提で確認することを社員には念押ししています」と語った。

製品開発でよりよい社会に貢献

品質管理を徹底し、作り上げた大ヒット商品の一つに「バス保温クリーナー 湯メイク」がある。湯船に張られたお湯を温め直すことができる商品で、給湯機に備えられた追い炊き機能を使用するよりもはるかに省エネになる。使い方次第では年間110トン以上の節水が可能という点も目を引くポイントだ。昨今の環境問題への意識の高まりや、経済性が評価されたことで、同類機種発売から20年経った今でも、毎年売り上げが増え続けているという。

今の時代に合ったニーズにより注目を集めているもう一つの商品が「ぬくさに首ったけ」だ。特に大きな工場での採用が増え続けているが、うなずける理由があった。「温かい空気は上昇してしまうため、作業をする人がいる床付近は寒いまま。これでは光熱費が無駄ですよね。一方で、当社の商品は着た人の体を直接温められる上に、作業の邪魔にならない軽さと薄さと柔らかさがあるので、まさにうってつけですね」と、SDGsの観点から見ても有効だ。今後も、このような商品開発を通じて、社会貢献を行っていくという強い意気込みを口にした。

「品質も製品価値としてお客様に求められていますので、そこはぶれることなく、これからも真剣に取り組んでいきます」と前向きに言う熊谷氏だが、それ以外にも実現すべきことがあるという。「今は熱に関する製品、つまり寒い時期に求められる製品が中心ですが、決して特化しているわけではありません。別のシーズンや、一年を通して利用されるような製品を世に送り出したいですね」と、新商品の開発にも意欲的だ。

クマガイ電工らしい独創性も重要なポイントで、すでに世にあるような他社の製品の模倣品にはするつもりはないという。「評判のいい他社の既存品を真似して120%の価値のある製品を製造しても、当社の商品とは言えません。それよりも、他社が思い付かない発想と真似できない技術で、お客さんに本当に喜んでもらえるものを作りたいですね。ですから、開発部にも安易な考えでものづくりをしてはいけないと、いつも話しています」と語るように、企業の理念に「信頼と独創」をあげるように、独自性に対するこだわりも強い。品質維持も値上げも難しい世の中だが、それでもユーザーの満足度のためにまい進することを熊谷氏は誓った。

熊谷康正

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クマガイ電工株式会社
代表取締役社長熊谷康正
1966年生まれ、大阪府出身。大学卒業後、株式会社日立製作所に入社し、開発に従事。4年間の勤務を経て、クマガイ電工株式会社に入社。2008年に同社の代表取締役に就任。プロバスケットボールチーム「大阪エヴェッサ」のスポンサーとして、小・中学校にバスケットボールなどを寄贈するなど地域貢献にも力を入れている。