自由診療クリニックのほか、保険診療クリニックを運営する木下順平氏。自由診療クリニックでは「予防医学や早期介入」を、保険クリニックでは皮膚疾患の治療を行っている。共に患者に安全性が高くサステナブルな生活習慣を習得してもらうことが目的だという。その生活習慣が次世代にも伝わることで、究極の早期介入として皮膚疾患の発症率を減らしたいと願っている。


治療だけでなく予防医学や早期介入の重要性を伝えたい


●自身を実験台にして辿り着いた治療プログラム
木下氏は生まれながらの重症アトピー性皮膚炎に悩まされ、13歳で重症者が併発するアトピー性白内障にも罹った。「妹も症状がひどく、両親は必死になって私たち兄妹をさまざまな良い皮膚科に通わせてくれたが、症状は芳しくなかった。」と、少年時代を振り返る。「皮膚科の先生方にはお世話になり、当時から感謝の気持ちしかありません。しかし自分自身で努力できることがないかと考え、弁護士志望であったが医師を志すようになりました」と話す。
新潟大学卒業後は大学病院で皮膚科学を研修した後、異なる視点で医療を勉強したいと考え、総合診療医への転身を決意。国立成育医療研究センター総合診療部でジョン高山医師に師事し、アメリカ式の総合診療を研修。その後、免疫学を追求するために膠原病・アレルギーの専門チームにてサイトカイン療法や免疫抑制の方法論を修得した。当時、治療薬であるアクテムラの治験担当医になり、この経験が大きな転機となった。「アレルギー・膠原病治療や皮膚科学、人間性心理学を融合させた総合診療プログラムを自分の体で実験を繰り返し、アトピー性皮膚炎に有効であると判断した」と独自の治療法を確立させたと木下氏は話す。
そして、小児期からの早期介入にはクリニックでの診察が適していると考え、保険診療クリニックを開院。真摯に取り組んだ結果、アトピー性皮膚炎やニキビなどの炎症性疾患を改善させるクリニックとして知られるようになった。
●子ども達のための究極の早期介入を目指す美容皮膚科
木下氏の保険診療クリニックには年間3万人程度の皮膚疾患で悩む患者がやってくる。しかし、多くの初診患者が慢性化、重症化し、ネガティブな気持ちで来院していることも気懸りだった。症状が軽微な段階で早期介入でき、患者がポジティブな気持ちで来院することも治療の一環と考え、待ち時間の短縮などの試行錯誤を重ねた。
しかし、それだけでは不十分だった。「まず将来親になる世代に楽しんでスキンケアをしてもらおう。患者になってからでなく、健康なときに正しい情報を教えたい」と、銀座、新宿、六本木に自由診療の美容皮膚科クリニックを開院。従って美容外科とは理念や目的が大きく異なる。「適切な医療機器や薬剤を使い、安全性に配慮し、サステナブルな素肌のメンテナンスを行う。外科手術ではなく素肌を健康にし、長期的な視野でキレイになることが目標。早急な結果が必要な場合は美容外科に相談した方がよいですね」と、クリニックのコンセプトを話す。
また「信憑性の低い情報による肌に負担をかける生活習慣を続けている人が少なくない。親が好ましくない生活習慣を実践していると、子どもにも伝承してしまう」と、次世代への悪影響を懸念した。「適切な生活習慣が継承され、皮膚疾患の発症率を減らすことが目標。特にアトピー性皮膚炎は早期介入が重要です。しかし、親が皮膚科に馴染みがないと、子どもを受診させることは少ない。美容室に来るような気持ちでクリニックに来て欲しい」。




●経営者として
木下氏は医療法人を16年間経営する中で、経営者としてウェルビーイング経営に注力している。「第一にスタッフが幸せでないと患者さんを幸せにできないと考え、弁護士、社労士の先生方のご指導の下、法令を遵守し、働きやすい労働環境の整備にも努めている。
また、患者の為に、より良い医師をそろえている。例えば、がん研有明病院や聖路加国際病院から形成外科の専門医師を雇用している。そして、基礎を大事にしつつ新たな治療方法を常に模索するのは勿論、良い看護師、コンシェルジュの確保にも尽力し、良い医療体制で対応する環境をつくっている。
今後は総合診療医として、皮膚だけでなく、全身のフィジカル ウェルビーイングに寄与したいと考えている。その一環としてフェムテックの啓蒙も始めている。早期介入し、細胞レベルから元気にし健康寿命を延ばすことで、医師としてSDGsに貢献していきたい。
木下氏は常に患者のためにより良い治療を模索してきた。良い治療とは、患者さんに効果(結果)を感じていただく治療。つまり目先ではなく、結果を出す為に、治療法の逆算と仕組み作りが重要だと考えている。
開業後の10年間は、休診日に虎の門病院皮膚科の大原國章医師のもとで研修を継続した。
「小児科・皮膚科時代の恩師には本当に感謝しかありません。最高の医師のもとで研修できたことは僕の財産であり、先生方は一生涯の目標です。しっかり自己管理し、少しでも先生方に近づけるよう日々精進し、私なりの社会貢献を目指したい」と、木下氏は語る。
恩師たちの共通点は、患者の悩みから問題点を抽出し、解決法を模索していたこと。「毎年3万人の悩みを拾い、常に留意しながら解決法を模索。医学の伝統を大事にしつつ、ときには“普通を疑う”ことも大事だと思っています。新たな問題解決法を発案し、自分を実験台にして新規の解決法をつくりたい。医学のゲームチェンジに関わりながら、治療から予防へシフトさせることを目指しています」。木下氏のあくなき挑戦は続く。