[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

「免疫療法」を追求し
患者と共にがんと闘い続ける

東京CAクリニック
木村
KIMURA_OSAMU

進行がんで、標準治療では効果が期待できないと医師に宣告された人。副作用が辛く、これ以上抗がん剤治療はしたくないという人。そんな、心身ともに疲れ切った患者さんや家族が訪れたとき、東京CAクリニックの木村修院長はこう語りかける。「私に治せるという保証はありません。しかし、治療できる可能性があるかぎり、一緒に頑張ってみませんか。スタッフ全員、あなたの病気と闘います」と。

知見をすべて駆使

そして、「あと何年生きられるかではなく、気がついたら何年生きていたとなるよう、気持ちを切り替えませんか」と話す。そうした進行がんの患者さんの中には、木村院長が触診をすると、「今の病気になって、いろんな検査や治療を受けてきましたが、自分の体をちゃんと触って診察してくれたのは先生が初めてです」と、涙を流す患者さんも少なくないという。

小児外科医として長く実績を重ねてきた木村院長が、がんの治療に有効性を見出し、今、全身全霊を傾けているのが免疫療法だ。この治療では、がんを特異的に攻撃するTリンパ球という細胞をいかにがん細胞へ効率的に誘導し攻撃させられるかが重要で、「そのために、一人ひとり病状の異なる患者さんに合わせ、これまでの知見をすべて駆使して治療を行っています」と話す。

“辛さ”も伴う治療法の進化

がんの治療としては手術、放射線治療、抗がん剤治療がよく知られているが、「免疫療法はそれらのあとに来るものではなく、これまでの経験から、まず免疫療法を行うことをスタンダードにしたいと考えています」と話す。このため、東京CAクリニックでは免疫細胞治療を基本に、体への負担が少ない低用量の放射線治療や薬などを組み合わせて良好な成果につなげているという。 そうした免疫療法をする中では、治療初期に良好な効果があっても途中からその効果が減ることもある。「そんなときは、基礎免疫学の教科書を読み返したり、学術論文を読むことはもちろん、その患者さんの治療経過や、それまでに蓄積されたさまざまなデータなどを徹底的に見直し、その原因を追求していきます。そうすると、それまであまり大事な情報に見えなかったものが、急に光を放つかのごとく大変重要であることが浮き彫りになり、新たな治療につながっていくことがあります」という。

ただし、治療法が日々進化していくことは、その裏に辛さも伴っていると木村院長は話す。「新しい治療法を見出し良い成果につながったとき、そこには半年前の自分とは異なる自分がいるわけです。つまり、半年前に助けられなかった患者さんを、今の自分なら助けられるんじゃないかと。そうした思いがよぎったときは本当に辛いです」。しかし、その辛さを糧に目の前にいる患者さんと向き合うのが医療者であり、その姿勢を同クリニックでは看護師から事務職員まで徹底し、日々患者さんや家族に対応している。そのため、木村院長は朝礼と終礼の際、同院で診療している患者さんの状態や問題点などを説明し、全員が情報を共有しているということだ。

免疫療法では、よい成果が出ている患者さんには体質に共通点があることもわかってきたという。本格的な免疫細胞治療を始める前に、患者さんをそうした体質に近づける準備治療を行うと、それだけでも病状に良い変化が出ることが見えてきたと話す。そうした中には、アメリカ在住のある進行がんの女性の事例もある。連絡をくれた3日後には来日したというその女性は、診察してみると転移も多く確認され、免疫療法を行うためまず準備治療として免疫調整をしたという。すると、その時点から検査結果が良好になり、治療後の経過も良好で、「改めてがん治療は変わるという思いを強くしました」と木村院長は振り返る。

小児がん治療で基金を構想

同クリニックでは、免疫療法を希望して訪れる患者さんが増えていることから、今年10月に東京都渋谷区から港区に移転した。「治療室も4室から6室に増やし、診療の幅を広げるため、細胞培養施設を併設したほか、X線検査や内視鏡設備を導入しました」という。さらに、木村院長が小児外科に勤務していたころの後輩の医師も、自分も一緒に免疫療法の新しい治療法を開発したいと参加することになっている。
今後に向けて木村院長は、「現在、対応が難しい患者さんも若干いますので、さらなる治療成績の向上に向けて、それを解決すべく日々努力を継続することが第一です」と思いを込める。その上で、将来的には小児がんの治療にも効果が期待できることから、自由診療の費用面の問題を支援する基金の設立なども考えているという。「親御さんにとっても、費用面で治療ができないというのは辛いことですし、この治療は副作用が少ないことからも、ぜひ、多くの子どもたちが受けられるようにしたいと思っています」と熱く語る。
今この瞬間も、困難な病気と闘っている人は少なくない。「当院に来られる進行がんの患者さんは、医療機関などでこれ以上積極的な治療はできないと言われ、心が折れて希望を失っている方がほとんどです。しかし私は、その困難な状況を打破すべく諦めずに努力を続けることで、当院を頼ってくれた気持ちにお応えしたいと思っています」。そう話す木村院長の目は、免疫療法のさらなる進化を見据えている。

社会貢献

自由診療における治療費は個人差が大きく、非常に安く済む場合もあれば高額な治療費が必要な場合もある。経済的な理由で効果的な治療を受けられないことは医療機関としても辛く、東京CAクリニックでは、これまでは治療費のディスカウントなどで対応してきたが、まだまだ不十分と木村院長は言う。そこで、将来的には基金創設などを通じ、そうした方々の治療費を支援できる仕組みを作りたいと考えている。

木村修

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東京CAクリニック
院長木村修
1964年生まれ、京都府出身。90年京都府立医科大学医学部卒業後、同大学院修了。京都府立医科大学附属病院、宇治徳洲会病院、京都第一赤十字病院、ロンドン大学医学部UCL小児外科客員教授を経て、2018年山手CAクリニック開業。21年東京CAクリニックに改称。