高知県で創業されたファミリービジネスの3代目として、幼いころより祖母から「会社を継ぐんだよ」と暗に伝えられた事があるという株式会社オアシス・イラボレーションの川渕氏。両親は口に出さなかったが、物心ついた頃には既に事業承継へのイメージが自然と刷り込まれていたと振り返る。そして、いざ父の後を継いだとき、想像を超える困難が待ち構えていた。その苦難を乗り越えた後、次に見据えるビジョンは何か。川渕氏の挑戦のこれまでとこれからを探る。


苦難を乗り越え、経営を軌道に。安全・迅速・丁寧な解体工事を


●国内で限られた大型解体機を有する解体工事業者
オアシス・イラボレーションは高知県で創業し、現在では日本全国で展開している解体工事専門業者である。特に、大型ビルやプラント(発電プラント・製鉄プラント・清掃工場プラント)といった大型施設の解体工事を主力としているが、これまで支えてくれた地元に貢献すべく、高知県内では木造民家など小規模の解体工事も請け負っている。
川渕氏は、自社の強みについてこう語る。
「まずは『機械力』ですね。当社では国内に約10台しかない超大型建機を2台保有し、そのほかにも大型建機を多数保有しています。次に『計画力』です。解体工事の分野では、一般的には二次元図面をもとに計画を立てますが、これだと解体工事の知識がある方でも分かりづらいです。そこで当社では2009年にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を国内でいち早く取り入れ、図面を三次元で表現し、計画できるようになりました。また、構造計算のシミュレーションも行い、解体工事中に建物が不安定にならないよう計画を立てるようにしております」
川渕氏が事業を受け継いだのが2005年、23歳という若さであった。このとき父が経営する会社の負債返済も視野に入れ、経営の立て直しを進めた。
まず、後継者のいない建設会社を買収し、「オアシス・イラボレーション」と名付けた。この社名には「オアシス=うるおい(精神的に豊かである場)」を「イラボレーション=切磋琢磨して創り上げる」という企業理念が込められている。その後、同社は父の経営する会社を吸収合併し、父の事業を受け継いだ。
●苦境を乗り越え、会社を拡大
事業承継後、オアシス・イラボレーションには多くの苦難が待ち受けていた。特に大きな問題となっていたのが資金繰りである。日々営業にかけ回るとともに、資金調達にも苦心したという。「どんなに苦しくても頑張ることができたのは、父からの『どのような状況に陥っても、経営者は決して諦めてはいけない』という教えがあったこと、大変厳しい状況でも応援し続けてくれたお客さんや、共に頑張ってくれた社員の存在があったからですね」と語ってくれた。
創業者であった祖父、そして父より経営のノウハウを学び、その教えに支えられながらも、現状に満足せず、常に高みを目指し、新たなことに挑戦していくことの重要性を感じていた。
代表就任から約7年後、BIMや大型建機の導入を契機として同社の経営を安定させることに成功し、地元である高知県の有名企業として数えられるようにもなった。しかし、それに甘んじることはなく、全国展開に向けて歩を進めるべく、2017年に東京本社、2020年に大阪本社を設立した。さらに、自身の経営力を磨くため、早稲田大学大学院への入学を決意し、MBAを取得している。
「会社は社長の感性以上には大きくならないというのが持論です。持続的に会社を成長させるために、自分にはMBAの取得が必要だと考えていました。でも、人生は分からないものですよね。10代のころの私は勉強にはまったく興味がなかったんですよ」




●10年後の成長を目指して
現在、会社のミッション・ビジョン・バリュー・カルチャーを言語化し、「オアシス・スタイル」と称する社員共通の行動指針の策定と社内浸透にも取り組んでいる。川渕氏がグランドデザインを考え、若手チームが可視化する。トップダウンとボトムアップの両立で社内浸透を加速させている。
ミッションは「うるおい社会の実現」。社名に込めた想い同様に精神的に豊かである社会を創造することを目指している。ビジョンとして見据えるのはIPOとコングロマリットの形成。グループとして10年後に売上高1000億円を突破することだ。
「事業を通じて社会や業界に貢献しながら、企業価値のアップ、従業員が力を発揮しやすい環境の整備にも力を入れたいと思っています。そしてグループで、10年後の1000億円突破を目指しています。」
バリューとして掲げるのは「八方よし」だ。「近江商人の間で大事にされてきたという価値観『三方よし(売り手よし、買いてよし、世間よしと)』を現在のビジネス環境に対応させるため、当社に関わるステークホルダーと相互に利のある関係性を築いていきたいと思い、『八方よし』を掲げています。」
カルチャーは「高い志を持つ」「大家族主義」「現場第一主義」の三本柱で構成されている。「企業文化を大切にし人財にフォーカスする企業」を経営テーマに、企業ブランディングの刷新にも取り組んでいるという。
「新卒採用を始めて思ったのは、ベテランが若手に教えるだけではなく、これからは若手が会社を変えていくのだなと感じています。最近うれしかったことは、志が高い学生が当社に興味を持ってくれるようになったことです。もっと建設業を身近に感じてもらえるよう、できることをしていきたいです」と朗らかに語ってくれた。
国際認証マネジメントシステムのISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)、ISO22301(BCMS事業継続マネジメントシステム)、ISO9001(品質マネジメントシステム)、ISO14001(環境マネジメントシステム)も取得し、名実ともに信頼して安全な解体工事を依頼できる会社を作り上げてきたオアシス・イラボレーション。
「建設業は『きつい・汚い・危険』と、いわゆる『3K』と言われてきましたが、当社は『新3K』と呼ばれている『給与・休暇・希望』を掲げています。企業文化の浸透によって当社で働く社員たちには働きやすい社内環境で生き生きと活躍してもらいたいと思っています」と熱い思いを語る。オアシスグループとして目指すさらなる成長へ、挑戦は続いていく。