[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

化粧品製造の課題
安全の担保と研究者の質向上を

株式会社恵理化
代表取締役社長
岩田
IWATA_HIROSHI

化粧品の開発研究者や製造技術者として、また企業への化粧品製造の助言指導を行うコンサルタントとして、約半世紀に渡り業界発展に尽力し続けてきた岩田宏代表取締役。現在は化粧品サンプルや受託製造、コンサルタント業を行う「恵理化」の代表取締役を務める。そして、長年培った知見を元に、業界が抱える安全性の課題や、今後の業界進展に必要な研究者の姿勢について聞いた。

研究者魂に火がつき独立

岩田代表は大学卒業後、石鹸メーカーに就職し、研究者としてのキャリアをスタートさせた。その後、化粧品原料メーカーに転職し、研究職を2年、営業職を16年勤めた。営業とはいえ、自社製原料を売るために成分の性質や分子構造など化学の基礎知識に長けていなければならず、依然として研究職の色濃い役回りであったという。「学生時代に化学成分の構造が化学的物理的性質を表すことがわかり、化学構造を覚えることが役に立った」と振り返る。その知識を元に正確な成分説明ができ、どんな原料を使い、どういう商品を作りたいか、顧客の要望に応えることができるようになったからだという。

営業職を続ける中、顧客から特殊なヘアトリートメント作りを依頼された。通常、ヘアトリートメントは、保湿クリームなどに使われるセタノールというアルコールの一種を配合するためクリーム状になるが、液状にしてほしいという内容だった。経験上難しいと思ったが、「その性質についての知見を深めたい、困難なことを実現したい」と研究者魂に火がついたという。社内に持ち帰って新製品開発に向けた研究実施を希望したが、聞き入れてもらえなかった。どうしてもその思いが断ち切れず、悩みに悩んだ岩田代表は独立を決心したという。

利益第一主義への懸念

研究を開始して1年半、試行錯誤の末に商品化に成功した。「希望通りの実現は不可能でしたが、見た目と使用感を改良し、できる限り要望に近づけて、納得してもらえるものが作れました」と振り返る。飽くなき研究心を持ち続け、豊かな経験を積んだ岩田代表は、いまでは成分の化学構造を見るだけで、その性状や有効性、安全性、安定性などの性質をが分かるようになり、顧客の要望を聞いてその実現性を判断しながら、時に斬新な発想で難関を突破することができるようになったという。

ただ、岩田代表は「企業は商品を売って利益を出さねばならず、新製品を出すからといって闇雲に研究費を費やすわけにいかないのは分かるが、業界全体的に利益第一主義が色濃くなりすぎていて、とにかくコストをかけずに効率よく新製品を開発するだけでは良くない」と警鐘を鳴らす。また、最近の新製品の多くが従来品の改良版が多いことにも「改良品ばかりを製造するので、成分の性質を深く理解しなくても、製造マニュアルやノウハウだけで化粧品が作れてしまう。その結果、本来なら学ぶはずの基礎的な化学知識を持っていない若い研究者や技術者が業界に増えてきている」といい、新しい化粧品開発や斬新な発想転換が生まれにくくになり、業界の発展を押し留める可能性があると懸念する。

多業種参入に憂慮

さらに岩田代表は、他業種参入企業が増えていることについても憂慮している。「まずは化粧品製造販売許可を持つ責任者を社内に一人立てるだけで、簡単に化粧品が作れてしまうため、その責任者が問題や欠陥を見落としてしまえば、そのまま商品化され、市場に出回ってしまう恐れがある」という。

また「原料メーカーはきちんと安全を担保することができてさえいれば、原料の販売ができるが、海外には安全を証明するデータを提供しない原料メーカーが存在していて、一部ブラックボックス化している。もしその企業内で安全チェック項目に誤りがあったとして、気づかないまま製造されればそのまま販売できてしまう」といい、こうしたリスクのある原料を使用した化粧品が経験の浅い他業種参入企業から販売されがちだと指摘。「現に信頼度の高い日本企業の化粧品でも、過去に副作用による健康被害が起きている。エラーが重なった場合、いつ新たな被害が出てもおかしくない。消費者では正誤の判断がつかない専門的なことであるだけに、研究者や製造会社が本当に責任を持って作らなければいけない」と訴える。

岩田代表はさらにこうした問題を改善しようと、化粧品技術者向けに自らの知見をまとめた”指南書”を出版した。「通常、企業に所属していたら機密保持の契約で技術は公開できない。独立した意義や私なりの役目がそこにあると感じました」と語る。

岩田宏

RECORD

株式会社恵理化
代表取締役社長岩田宏

1951年 埼玉県生まれ。城西大学理学部化学科卒業後、石鹸メーカーに入社。化粧品を研究したのちに、営業職を歴任。2009年 株式会社恵理化を設立。その後、化粧品コンサルタントとして国内外20社以上の顧問を務める。著書に「化粧品技術者のための処方開発ガイドブック」(シーエムシー出版)など。