「成功する経営者はどこが違うのか」。総合コンサルティング会社、ラティーナの代表取締役、菱川博行氏の原点の一つは、そんな疑問から始まっている。菱川代表は、世界的に有名なナポレオン・ヒル博士の著書『成功哲学』に出合い、その執筆を要請した鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが、将来成功する人物をヒルに示していたことに強い興味を持った。「日本で言えば、町の自動車修理工場時代の本田宗一郎を見て、彼は将来大きな成功を収めると見抜いていたようなものです。なぜ、カーネギーにそれができたのか」。


「未常識」を新たな基準に
目指すべき未来をデザインする


●ジョブズ、ゲイツからヒント
その後、時間とお金を費やしてその疑問を探求した菱川代表は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツから大きなヒントを得た。「彼らには、社会学者がこれから世の中はこうなると書いた論文に影響を受けたという共通点があったのです」。そこに必然的な成功の哲学を見て、突き詰めて導き出したのが「未常識」という概念だった。「今は常識ではないが将来常識になるもの。それが『未常識』です。携帯電話が登場した時も、多くの人がこんな高額なもの誰が使うのかと思いましたが、今では持っていない人を探すのが難しいほどです。『未常識』が常識になったのです」。
経営者も含め、今の日本人にはそうした将来常識になるものを見据えていく部分が不足していると話す菱川代表は、「これからの企業には、そうした視点や考え方、思想、ビジョンが絶対必要です。総合コンサルティング会社のベンチャーである自分たちは、その将来常識になっていく『未常識』の部分にフォーカスし、そこから逆算して今何をすべきかをご提案することで、着実に実績を積んでいます」と紹介する。
●スポーツクラブ運営で教育を実践
さらに、ラティーナのもう一つの柱がスポーツクラブの運営だ。「未来をつくっていくのは子どもたちで、そのために一番重要なのが教育です。しかし、学校の教育現場では、しかられた経験を持たない先生が多く、しかり方がわからないという問題が起きています」。それは保護者にも言えて、「怒る」と「しかる」の違いを見極められないのだと菱川代表は指摘する。「『怒る』というのは感情的な行動です。しかし、『しかる』という行動は愛情なのです。つまり、何が良くて何が悪いのかを、愛情を持って教える大人が、今教育現場に少なくなっているのです」。
菱川代表は、そんな現状を変えたいという思いを、サッカークラブの運営という形で実現しようとしている。スポーツは、感情や社会性を育む上で非常に優れたツールであり、自ら経験のあるサッカーを通じて子どもたちの将来に役立つ教育を実践しているのだ。「クラブでは、幼児から中学3年生まで約200人の子どもたちをお預かりしています。私はその保護者の方々に対し、プロの選手にすることは約束できませんと言っています。しかし、クラブから巣立つとき、家族ときちんと会話をしながら食事ができる子どもに育てることを約束しています。それは、感情や社会性を育み、コミュニケーション能力をしっかり身につけてもらって、親御さんにお返ししますということです」。そうした教育の場が地域で広がれば、自分で考え自分で行動できる子どもがどんどん生まれてくるはずだと、菱川代表は思いを込める。


●資産運用で一流コーチを招聘
スポーツクラブの運営では、菱川代表が考える「未常識」への取り組みも実践されている。それが、日本ではなかなか根付かない「お金を働かせる」という価値観だ。「学校教育でもようやく資産運用について教えることになってきましたが、海外では企業も個人も当たり前に行っている資産運用が、日本ではまだ常識といえるまでになっていません」。このため、将来のためにお金を働かせて膨らませることが日本でも常識になるよう、実践を通し、その必要性をメッセージとして社会に発信しているのだ。それが、スポーツクラブにおける資産運用だ。
菱川代表は、スポーツクラブの会費をもとに資産運用を行い、その成果で一流のコーチを招聘する指導体制をつくり上げているのである。現在、この取り組みをモデルケースとするクラブチームも出始めているという。そこには自身の経験があり、「長男がドイツにサッカー留学したとき帯同し、現地で毎週末に行われる練習試合を見に行きました。すると、そこでは集まった地域の人々が当たり前のように5ユーロずつ寄付をしているのです。実は、それを原資に運用しているため子どもたちからは会費を取っていないのです。地域のコミュニティが子どもたちにスポーツの機会を与え、同時に助け合いや互いをリスペクトする心を育んでいるのです」。
企業のコンサルティングにおいては、人材開発を徹底して支援しながら、未来を見据えて「未常識」に基準を合わせた経営戦略を提案しているラティーナ。一方、クラブチームの運営においては、子どもたちの心身を育み、その成長を地域で支えていくコミュニティのデザインを着実に実践している菱川代表。いずれも今の「未常識」が将来常識になるという共通点があり、その信念は決してぶれることがない。現在、自身の提言をまとめた著書『未常識の達人になろう』と『デジタル断食』を執筆中とのことで、こちらも上梓が待たれる。