[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

画期的な発想とDXで日本のものづくりを活性化

株式会社テクロック
代表取締役社長
原田健太郎
HARADA_KENTARO

精密測定機器、ゴム・プラスチック硬度計などの測定器の企画から開発、製造、そして販売を行う株式会社テクロック。創業は1950年の7月。時代とともに進化を続け、日本のものづくりに欠かせない測定器を世に送り出してきた。変化が急速な時代において、老舗メーカーである同社が立ち向かう挑戦とは。代表取締役社長の原田健太郎氏に話を伺った。

伝統と革新の融合、付加価値の創出へ

同社ではベースとなるアナログの測定機器にデジタル技術を組み合わせることに注力。長きにわたり精密測定機器を生み出してきたからこそ成せるDXを展開中だ。原田社長は「アナログの技術をベースにしながら、IT技術や最先端技術を組み合わせ、新たなシナジーを生み出していく。アナログの技術も当然重要ですが、デジタル化することで初めてできることもあります。そのような付加価値を創出していきたい」と語る。

原田社長が測定機器のDXに着手したきっかけは、2000年に一度同社を離れ、オリンパスに在籍していた経験に起因する。現在のクラウドのベースとなる配信事業の企画運営を担当することになったのだ。「ものをセンシングすることは全てのベースになります。ならば、センシングしたデータを集約し、クラウド上で処理すれば、いつどこからでも見られるのではないかという発想が生まれました。そして、2015年に当社に復帰した際、同じ発想をすればおもしろいものができるはずだと確信したのです」と振り返る。

そこで同社が提唱してきたのが測定DX®。例えば、同社提供サービスの「SmartMeasure® Cloud」では、クラウド上でリアルタイムにデータ監視と分析が可能。メリットは非常に多く、導入する企業は拡大中だ。「ものづくりの世界では全数検査という検査があります。名前の通り、製造したもの全てを一つずつ検査する工程です。当社の測定DX®では、従来人でしかできなかった全数検査が可能になるほか、人件費や時間、工数などのコストカットにつながります」と原田社長は説明。さらに、使用するのが他社の測定機器だとしても、デジタルデータでさえあれば、データを一元的に扱うことができる点も魅力的だ。コストカットや効率化に貢献しつつ、利便性にも優れる。これこそ同社が提唱してきた測定の新たな形だ。

AIの導入でものづくりの未来を支える

2025年に75周年を迎えた同社。その節目に原田社長が構想するのが、AI機能を追加した測定DX®のバージョンアップだ。原田社長は「AIが最も得意なのはビッグデータから傾向を学習し、分析すること。具体的に測定DX®でいえば、ビッグデータから類推したうえで今後の不良率をフィードバックすることもできるでしょう。つまり、異常検知をする前に知らせる機能を搭載できるはずです。従来、異常は発生してから初めて対処されることが多く、再製造などのロスになることも。事前にAIが分析した上で予防することができれば、大きなメリットになります」と話す。

加えて、さらなる測定機器×AIの可能性を原田社長は指摘する。「金属を具体例に出すと、組成が1%ずれたことで精度が数ミクロンずれるなど、非常に些細な違いが結果に影響するケースが考えられます。そういうケースを今までは人が試行錯誤し、適切な対処を探してきました。しかし、AIの精度が上がり、リアルタイムでフィードバックができれば、誰にでも対処が可能になります。さらに、原因を特定できるということは、データの蓄積により、最適な生産条件を分析・予測する未来すらも見えるでしょう」という。スマートファクトリーを実現し、ものづくりの最適条件をAIが打ち出す。原田社長はこれを「究極の目的」と形容する。

日本復興の鍵は発想×技術

過去、日本は電機、半導体、自動車などの分野で世界を席巻していた。原田社長はその時代からキャリアをスタートさせており、過去と比較すると、現状には非常に大きな危機感を抱えているという。「もう一度スイッチが入れば、日本は絶対復活できるだろうと思います。だからこそ、そのスイッチを押したいというのは私にとって最も大きな動機づけなのです。DXやAIを含め、最先端の技術を使うだけでなく、簡単には考えられないような発想をしていかなければ、勝てる見込みは薄い。全てでないにしろ、日本のものづくりはこのままいくとジリ貧になっていく可能性が高いです。発想と最先端技術を組み合わせること。それが結果的に、日本のものづくりを活性化させ、復活させる唯一の方法ではないかと考えています」と力を込める。

未来を見据え、時代に合わせたものづくりを。その点を原田社長は非常に重視している。「最初に発想すること。これが新しい事業や何かを構想する際の一番の醍醐味であり、面白い点だと感じます。世の中にないものを考えるだけでなく、つくり出したうえで貢献できるようなものづくりが非常に重要です」と語る。

事業の行く先によっては、海外の舞台へと踏み出す可能性もあると示唆する原田社長。「現状、海外への販売状況はそこまで大きな規模ではありません。日本を復活させていきたいとは思いつつも、市場は今やグローバル。実際、当社は海外にもパートナーがいますが、現在進めている事業の規模が拡大していけば、違う形態も考えていかなければなりません。事業を推進しながら、今後も当社のあり方を見つめ続けていきたいです」と前を向く。75周年を迎え、発想と技術で道を切り開き続けてきた同社。原田社長の発想力と強い意志は同社を前進させ、未来の日本のものづくりを支えていくだろう。

原田健太郎

RECORD

株式会社テクロック
代表取締役社長原田健太郎
1957年生まれ、長野県出身。大学では工学部に在籍し、卒業後は東芝に入社。映像機器の開発設計や営業マーケティングなど幅広い領域で活躍し、1995年、父が創業したテクロックに入社。2000年に一度退職し、東芝の関連会社を経てオリンパスに入社。2015年、15年ぶりにテクロックに復帰し、同年代表取締役社長に就任。