[●REC]

ヒトが繋ぐ、時代を紡ぐ

人材の流動化が日本の成長につながる

Conversation
セレンディップ・ホールディングス株式会社
代表取締役会長
髙村徳康
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長
福留拓人

バブル崩壊以降、30年以上にわたる経済低迷が続いている日本。世界時価総額ランキング(※1)を見れば、平成元年はトップ10のうち7社が日本企業であったのに対し、令和元年では43位にようやく1社現れるのみ。そのことからも、世界において日本の経済的な注目度が低下していることがわかるだろう。そんな日本が失われた30年を取り戻し、経済成長を遂げるためにはどうするべきなのか。中堅・中小製造業の事業承継を得意とする高村徳康氏と、中堅企業を中心に人材コンサルティングを行う福留拓人氏が語った。

※1:参考https://japan.cnet.com/article/35182623/

世界の潮流を読めなかったことが成長できていない原因

福留 「 日本の経済が低迷したというよりは、現状維持で止まり、その間に発展著しい途上国にも抜かされてしまったと感じています。産業革命以来の大きな経済構造の変化といわれているのがIT化だったわけです。世界時価総額ランキングの上位を見ても、爆発的な成長を遂げた情報産業の会社が名を連ねています。さまざまな要因があると思いますが、日本はIT化に乗り遅れ、大きな空白期間を生んでしまった。給与が上がっていないと指摘されているのも、この結果だと思います
髙村 「 IT化によって情報の伝達が以前よりも早くなったので、他国との距離が近くなりました。グローバル化には、IT化が大きく寄与していますよね。そこで現れたのが、Uberのような人とモノをつなぐサービスです。つまり、プラットフォームを作り、欲する人と求める人をつなげば、利用者がお金を落としてくれるという、いわゆるシェアリングエコノミーというビジネスモデルです。一方で、日本では土地も、建物も自社で所有して、モノを作ることで付加価値を提供することがビジネスの主流です。サービスの維持だけで経済成長ができるビジネスモデルと、たくさんのモノを所有するがゆえに維持に負担がかかってしまう日本のビジネスとでは、スピード感のある成長を遂げるのは、前者になるでしょう

中小企業は海外展開や人材活用がカギ

福留 「 特に中小企業は、一人当たりの生産性が低い傾向があります。内需が減少していくなかで海外と接点を持ち外貨収入を得られるようなビジネスが展開できていると成長性も担保できる訳ですがなかなか難しい訳です。一方で多くの大手企業は望むと望まざると、海外でビジネスをして利益の大半が海外でというケースも珍しくありませんね。日本国内の中小企業が現状維持ではなく確実に成長させるには真剣に待ったなしの状況に来ていると思います。成長を放棄すれば業務効率を上げるか、経費を下げるかという苦しい戦術での生き残り策から抜け出せなくなってしまいます
髙村 「 労働生産性でいえば、製造業を例に挙げると、一人当たりの労働生産性が大企業は970万円、中小企業は520万円(資料:中小企業庁「2022年版『中小企業白書』」)です。520万円しか付加価値がないのに、それ以上の給与を支払うのは難しいですよね。これも給与が上がらない理由の一つです。 中小企業は資金力がないところが多く、海外におけるビジネス展開やIT化などの生産性向上への取り組みがしたくても、通用する人材を採用できないことも大きいです。採用できたとして、その人を生かすノウハウがあるかというと、それもまたない。裏を返せば、人材をうまく活用できれば、中小企業は成長の活路を見いだせると思います

企業間や都市間での人材の流動が経済低迷脱却の糸口に

髙村 「 世界の潮流を見ると、大企業で訓練を積んだ方々が引っ張っていけば、日本の中小企業も伸びる可能性があります。大企業で長年ビジネス経験を積んだ方で、社長業を希望している人はたくさんいらっしゃいます。ただ、そういった方が他社に移り、いざ社長になって成果を出せるかというと、ノウハウが違うからうまくいかないことも多い。でも練習が足りないだけなんですよね。中小企業の特有の文化や価値観、営業スタイルなどを勉強して練習すればいいだけなのです
福留 「 高村会長がおっしゃるような、中小企業と経営者になる人の橋渡しをするサポートが必要なのですね。日本の中小企業の多くはオーナー企業で、斡旋するだけだと、そのオーナーと折り合いがつかず、うまくいかないことも多いのです。また、都市部に集中している労働人口を分散させることも必要でしょう。大企業の多くは都市部にあり、地方との経済成長と給与の格差を生んでいます。都市部の人材が地方の中小企業に流れることによって、事業承継や事業再編といった問題の解決につながる可能性がありますね

対談の結果、「人材の流動化」と、それによって実現する「革新的な経営」の両軸で考え、企業規模や地域による偏りがなくなるように施策を設けることが、日本の成長につながるだろうという答えに至った。企業の成長には人材改革が必要だろう。実際に、日本政府も「人材力の強化」に注力しており、それに基づく政策が増えている。中小企業庁が、中小企業を対象に「求める中核人材」について調査したところ、即戦力を求める傾向があることがわかった。このことからも、大企業から中小企業への人材流入に可能性を感じずにはいられない。

現在、日本には381万の中小企業があるが、2025年には245万社の社長が70歳以上になるといわれている。そのうちの127万社は後継者がおらず、経済成長どころか事業継続が困難な状況だ。このような事業承継問題を解決するためにも、即戦力となる経営者や経営サポート人材など、人材の流動化は必須だろう。また、若く生まれ変わったそれらの歴史ある地方の中小企業が、海外展開や革新的な活動をすることで生産性が上がり、結果的に給与にも反映できるという展望も描けるはずだ。

髙村徳康福留拓人

RECORD

セレンディップ・ホールディングス株式会社
代表取締役会長髙村徳康
1968年、名古屋市出身。名古屋大経済学部卒業。岡三証券に入社。公認会計士試験合格後、97年に監査法人トーマツに入社し、在籍中にベンチャー支援機関「東海ビジネスドットコム」の設立に参画。2006年にベンチャー企業へのコンサルティングと投資を手掛ける「セレンディップ・コンサルティング(現 セレンディップ・ホールディングス)」を設立し、代表取締役社長に就任。同社にて、16年から代表取締役会長。経営不振のベーカリーチェーンの再生を手掛けたことを契機に、中堅・中小企業の事業承継ビジネスに転換し、21年6月には東京証券取引所マザーズ(現 グロース)に株式を上場した。製造業に特化した事業承継プラットフォームを持つ国内唯一の企業として全国に事業を拡大。名大客員准教授や事業構想大学客員教授を務める。

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東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長福留拓人
東京エグゼクティブ・サーチ参画以前は米系コンサルティングファームにて米国・欧州進出企業のための進出支援プロジェクトに従事。日本へ帰国後はオリックス株式会社に勤務した後、教育系企業のCHO(最高人事責任者)を歴任。顧問企業での常駐型人事コンサルティング・プロジェクトにも従事。経営会議への定例出席、HR観点からの戦略的助言や経営レベルからの採用・教育・制度設計のコンサルティングもサーチと付随して手がける。一般社団法人日本人材紹介事業協会常任委員。その他、顧問企業、取材・番組出演・講演・寄稿など多数。2014年10月代表取締役社長就任。