東京・虎ノ門にオフィスを構えるひかり総合法律事務所。30名以上の弁護士がそれぞれの得意分野を持ち、企業法務や金融法務をはじめとした幅広い分野をカバーする。シニアパートナーの藤原宏高氏は、司法修習生時代から友人である弁護士の三木昌樹氏と共に、1995年にこの法律事務所を創設した。
司法修習生時代はパソコンのソフトウェアをレンタルする店に通っていた藤原氏。ある日、店主からコンピュータプログラムに著作権が認められて営業が出来なくなるので助けてほしいと請われ、就職が決まっていた法律事務所がこの著作権侵害事件を引き受けることになる。藤原氏はソフトウェアレンタル協会の顧問弁護士として奔走。「最終的には著作権が認められたが、3年間活動したことで一定のことは認められた。弁護士になる前から知財をやりたいと思っていたので、印象深い思い出がある」と、当時の記憶を手繰り寄せる。
ひかり総合法律事務所を立ち上げる前後には、「ニフティサーブ現代思想フォーラム事件」の原告代理人も担当。これはインターネット上のクローズドなフォーラムで、名誉を毀損する内容を投稿された女性が加害者だけでなく、プロバイダであるニフティらも共同責任があるとして名誉棄損を訴えた裁判である。「初めてプロバイダの法的責任や削除義務が認められ、この事件を契機にプロバイダ責任制限法が施行された」と、インターネット時代を先取りした歴史的な事件にも立ち会った。


練達の弁護士がボランティア活動を通じて辿り着いた境地


●初めて担当した裁判は著作権問題
●経営の分かる弁護士として活躍
2006年にミネベア株式会社(現ミネベアミツミ株式会社)の社外監査役に、2016年には株式会社三越伊勢丹ホールディングスの社外監査役に就任し、計12年間上場企業の役員も務めた。M&Aにも力を入れ、ウェブサイトの『M&A情報広場』では3年間にわたり、専門家として経営に関する多くの論考を執筆。IRから企業の財務状況を読み取り、経営の分かる弁護士として活躍した。社外監査役時代には「会社の中身が分かるだけに監査役会では反対したこともあった。ステークホルダーに対して誠実に向き合わなければいけないが、会社はその意向を無視することもある」と、独立役員として悩んだ時期もあったという。
藤原氏のキャリアの中で忘れられないのが、企業年金制度のひとつである厚生年金基金の年金消失問題である。リスクの高いデリバティブ商品を勧められ、それを安易に買った多くの厚生年金基金は運用に失敗。このときにいくつかの厚生年金基金の代理人を務め、1件だけ巨額の和解金をもたらした。「相手は未公開株を運用していたファンド。私はその仕組みを理解し、運用成績などの数字まで読むことができたから、出鱈目なファンドであることを証明できた」と、数字に強いことが大きな武器になった。




●大切なのは顧客目線で考えること
弁護士としてのポリシーは「感謝されない仕事はしない」であり、裏を返せば顧客目線で考え、顧客の満足度を最優先することを意味する。例えば若いアソシエイト弁護士は簡単に片づけたいために、顧客に裁判を早く終わらせるように促す傾向がある。「でも依頼者はそんなことは思っていないはず。また、安く受けると早く終わらせないと採算が合わなくなるから矛盾が生じる。だから安請け合いはせずに、その代わり依頼者にはとことん付き合う」と、顧客目線にこだわる。
そんな藤原氏は、32歳からライオンズクラブの一員として、地元の千葉県船橋市でボランティア活動を続けている。ライオンズクラブとは1917年にアメリカで誕生した社会奉仕団体で、世界200ヶ国以上に140万以上の会員を抱えている。2021年7月に、藤原氏は「ライオンズクラブ国際協会333-C地区」の最高業務執行役員である地区ガバナーに就任。333-C地区とは千葉県を示し、つまり333-C地区ガバナーとは千葉県全体のライオンズクラブのトップを意味する。
2021年12月には、千葉県内にある約100ヶ所の子ど も食堂に6800パックのクリスマスケーキを配布。この活動の発端となったのは、2020年4月にある人の紹介で千葉県松戸市にある「こがねはら子ども食堂」を訪れたことだった。「代表者の高橋亮さんから、今の日本は7人に1人の割合で子どもが貧困に陥っていると聞かされた。それが事実なら、ボランティア団体として放っておけない」と、思ったという。
「ライオンズクラブ内で貧困問題を提起しても、貧困は国に任せておけばいいという会員が多かった。でも、高橋さんが言っていたのは、貧困の原因は家庭の中にあり、子供を家庭から引っ張り出して孤立させないことが大事だと。だから国がお金を配っても問題は解決しない」と、民間のボランティア団体が活動する意義を訴える。藤原氏はすぐに子供の貧困問題を取り上げたショートムービーを制作し、会員に見せたところ賛同を得ることに成功した。
その後、ケーキを配るためにライオンズクラブ国際協会の財団から1万ドルを拠出するための承認を取得。次に「千葉県ライオンズクラブ 子ども食堂支援基金」をつくり、企業のCSR活動から寄付を受け入れられる体制を確立させた。「子ども食堂でのクリスマスケーキの配布は、NHKと千葉テレビのニュースにも取り上げられ、大きな反響があった」と、予想以上の手ごたえを感じた。
「地区ガバナーの職責は、会員を一定方向に動機づけし組織を動かすこと。ボランティア団体の組織内には力関係がないので、人をまとめるのは企業以上に難しい。そのためにはリーダーシップが必要で、人を育てることがいかに大事であるかを痛感した」と、これまでの活動を振り返った。藤原氏の地区ガバナーとしての任期は2022年6月で終わるが、「これまでライオンズクラブに育ててもらった分、これからも恩返しをしていきたい」という。より多くの人が後進を育てられる社会にするのが最終的な目標だ。