医学的見地から死因や認知症患者の意思能力の鑑定を行う「メディカルリサーチ」。圓井順子代表取締役は看護師の免許を持ちながら、病院の立ち上げなど医師と経営者の橋渡し役を務めてきた。認知症予防と未病ケアのためのサプリを展開する「Body Voice」も設立し、高齢化社会の課題に医療分野で貢献しようとしている。
高齢化社会の課題に医療で貢献
●医師と経営者の橋渡し役に
メディカルリサーチは、医療事故や交通事故の相談に応じて、画像鑑定を行っていたことから、医療過誤や事故などによる死因の鑑定と認知症患者の意思能力の有無などを調査することになった民間の法医学施設で、弁護士や保険会社の依頼を受けて、鑑定作業を行っている。
ものごころついた時から看護師になりたかったという圓井代表は、「看護師は3K(きつい、汚い、危険)だ」といわれて親に反対され、一般企業に就職。だが、看護師への思いが胸の中に残っていて、「来年も同じことを思うなら今勉強しよう」と決意し、看護師の資格を取得。「看護が複雑なものでなく、公衆衛生など身近な社会の中にこそあるものだと気づいた」といい、単に看護師としてだけではなく、その資格を活かして働きたい、と思うようになった。そこで全身のがんなどを調べるPET(陽電子放射断層撮影法)画像センター施設の立ち上げ準備に関わる形で病院に勤務した。
そこにコンサルタントとして来ていた佐藤俊彦医師と知り合い、遠隔画像診断のシステムを構築しているのを知り、志願して佐藤医師が経営する医療関係の会社に入社。看護師の知見を生かし、医師と経営者の橋渡しの役割を果たし、医療機関の立ち上げなどに関わった。そして、佐藤医師が株主だったメディカルリサーチも手伝うようになった。
●業界初の「意思能力鑑定サービス」を提供
圓井代表はそこで、高齢者に関する相談が急増していることに気づく。認知症の患者数は2020年には約630万人で、2060年には最大1100万人、65歳以上の3人に1人が認知症という予測も出されている。「医療側では、高齢者が増えて、認知症も増えているけれど、認知症の治療薬はまだない。高齢化社会が進む中で、認知症を原因とした社会課題に対する需要が高まることを確信していました」と語る。
こうして遺言書を作成した時点の本人の「意思能力」を医学的に鑑定する「意思能力鑑定サービス」を2013年、業界で初めてリリースした。「意思能力」は「あり」か「なし」で断定できるものではなく、鑑定時点でどの程度の意思能力があったかを、病院のカルテや介護保険の主治医意見書、介護記録、薬の処方内容などを専門家が精査して、医療的に鑑定するもので、遺言書に「意思能力」の鑑定を付けることで、遺言書の効力が高められるものだ。生前はもちろん、亡くなった後でも鑑定が可能なのも特徴だ。
圓井代表は「相続などで骨肉の争いになることが多いが、遺言書は自分の思いを託す最後の手紙なので、できるだけ争いがないように生前の『意思能力』を提供しているのです」と話す。
●認知症予防に“ステージ0”のケアを
さらに「高齢化社会で、治療薬がない認知症は、がんよりも恐ろしい病気。何かやらなければいけない」と危機感を抱いた圓井代表は認知症の予防や緩和に取り組んでいる。「がんには進行度合いによって1から4までのステージがあるが、認知症には明確なそれはない。治療薬がない認知症は、未病の段階つまり“ステージ0”のケアが重要」といい、サプリメントの販売を始め、「Body Voice」として2022年メディカルリサーチから分社化した。
圓井代表は「認知症だけでなく、体の“さび”を止める抗酸化の仕組みを体に取り入れることが重要。薬品は化学薬品で、現代医学は薬あってのものになっているが、昔は薬草などの植物で治していた。薬に頼らず、『ソウル(魂)』を呼び起こして未病をケアするという意味で直近で販売したCBDサプリは『ソウル』と付けた」と力を込める。
「老いは誰にでもやってくるものなので、単なる長生きではなく健康寿命をまっとうするために、医療の観点から正しい情報を発信し、健康で楽しい老後を送る世の中になるように啓蒙していきたい」といい、ニッチを極める「メディカルリサーチ」とサプリ販売の「Body Voice」の双方の認知向上に力を入れている。「2つの事業は、高齢化社会で認知症によるトラブルを可能な限り回避し、安心して暮らせる社会づくりに貢献するというところが共通点。より多くの人に知ってもらいたい」と語る。
社会への貢献を事業の目標にしている圓井代表は、「地球に過度な負担を与えず、社会に貢献できる会社になりたい」と2022年にSDGs(持続可能な開発目標)の事業認定を取得した。「女性が多い職場で、自身の体験をもとに、ライフステージが変わっても働ける環境づくりが必須だと考え、柔軟な働き方を取り入れています。女性活躍のためには、細かな気遣いと“笑顔”が重要です」と語り、笑顔で「100年企業」を目指している。