「人生100年時代」といわれ、世界でも例を見ない超高齢化が進む日本。健康で過ごせる「健康寿命」をいかに延ばすかが、大きな社会課題となっている。その中で、手術や薬ではなく、技術によって心と体の調子を整える柔道整復師や鍼灸師の役割が注目されている。全国で整骨院を展開しながら、独自の施術方法「小林式背骨矯正法(現在のスポーツ活法)」を確立し、後進の育成にも尽力している近畿医療専門学校の小林英健理事長は、医療との連携により、健康寿命を延ばす社会の実現を目指している。
「人生100年時代」見据え
柔道整復師・鍼灸師と医師との医療連携を
●人から感謝される、生きがいと思えるような仕事
小林理事長は、大学卒業後に銀行へ就職したが、営業先の整骨院で、患者を自らの手で治療する柔道整復師の姿を見て、転身を決意したという。「大学の時 に心理学で『幸福論』という講義を受け、『人は好きなことをしている時に幸せを感じる』という言葉が心に残っている。整骨院の先生との出会いで、『人から感謝される、生きがいと思えるような仕事』につきたいと思った」と振り返る。
2年後には国家資格を取得して整骨院を開業。「『八尾で一番の整骨院にしたい』、それがかなえば『大阪で一番』、そして『日本一』と、どんどん目標を上げていった」と、小林理事長は必死で事業を拡大し、全国で42店舗を展開した。さらに「小林式背骨矯正法(現在のスポーツ活法)」という独自の施術方法を打ち立て、全国で講演をするまでになった。
●“業界の根っこ”を変える教育改革
一方で小林理事長は、「周囲の柔道整復師は『開業することが目的で、そこで終わってしまう』と感じていた。マスコミも整骨院のことを『保険が利くマッサージ屋さん』などと言っていた。この素晴らしい仕事に誇りを持てるようにするには、業界の根っこの部分、つまり教育から変えないといけないと思った」と、大阪府で柔道整復師のための学校開設を決意した。
当時、大阪府では、専門学校が少子化のあおりで定員割れを起こしていたため、学校開設は難航したが、諦めずに業界の現状を熱く語る小林理事長に共感して、大阪府も開校を承認した。教員も確保して、開校の準備を進めていたが、厚生労働省の認可や施設の工事が必要などの課題が次々と出て、開校延期を迫られる事態となった。綱渡りのスケジュールの中、小林理事長は「もう生徒募集が始まっており、来年開校できないと大変なことになるんです」と大阪府に懇願したところ、担当者が「善処します」と真剣に対応してくれたという。「できるできないではなく、どうなりたいか、この気持ちが伝わった瞬間だった」と振り返る。
こうして2008年4月、近畿医療専門学校が開校。「今度は日本一の専門学校にしたい。国家試験合格率はもちろん、退学者ゼロ、学生の満足度も!」と上を目指し、14年かけて大阪府内の柔道整復師・鍼灸師の専門学校で最も生徒が集まる学校に育てた。だが、小林理事長はそれに満足せず、「学生に興味を持たせること、やる気にさせることが大切だ」と、ロサンゼルスオリンピックの水球日本代表監督で、教育者として半世紀以上の実績を持つ日本体育大学の清原伸彦・名誉教授を校長に招き、さらなる教育改革を進めている。
●医療連携で『健康寿命』を延ばす
少子高齢化が進み、現役世代が減少する一方で、65歳以上の高齢者の人口がピークを迎える2040年には、医療・介護給付費が現在の倍近くなり、社会保障費の負担が深刻になると予測されている。その対策として国は、「誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」を目指し、「健康寿命の延伸」を政策課題の一つとして挙げている。厚労省によると、「健康寿命」とは、「健康上の問題で日常生活が制限されずに生活できる期間」のことだ。小林理事長は、この「健康寿命」を延ばすという社会課題の解決のため、「柔道整復師・鍼灸師と医師との医療連携」に取り組んでいる。
ある時、腰に痛みを覚えて小林理事長の施術を受けた医師が「僕たちは切らずに治すという方法を知らなかったから、すぐ手術と言っていた」と語ったという。そこで、「医師が知らないのだから国民は切らないで治す世界を知らない。もっと医療連携して、『この人は手術、この人は手術をしなくていい』と選択ができる病院をつくりたい」と、小林理事長は3年後を目標に、医療連携を実現した総合病院の開設を目指している。
この医療連携が、まさに「健康寿命の延伸」につながる。「切らずに元気で動けると、寝たきりにならない。寝たきりになると、体が衰弱して復帰できない。介護を受けずに一生を送れるように、適切な治療ができれば、医療費の負担も減って、人助け、国助けになる」と力を込める。小林理事長の目は「人生100年時代」の日本を見据えている。