茨城県つくば市を中心に、鍼灸接骨院2店舗と放課後等デイサービス・児童発達支援施設3店舗を経営する合同会社IWAMOTO代表、岩本玄次氏。学生時代はバスケットボールに熱中し、その後、鍼灸などの専門学校に進学。卒業後は現場で経験を積み、筑波大学男子バスケットボール部のトレーナーを務めたのちに男子バスケットボール日本代表チーム(U-24、U-18)のトレーナーも兼任した。一方、彼が関心を寄せているのは福祉の世界だ。親しんできたスポーツと結び付け、2歳から18歳までの支援が必要な子どもたちと向き合うことが、現在の日常の一部となっている。そんな岩本氏に、福祉業界における課題感と今後実現したいビジョンについて聞いた。
健康を基盤にした「活きる福祉」の実現を目指して
●痛みを伴う成長の重要性とIWAMOTOの理念
「“No pain, No gain.(痛みなくして得るものなし)”〜全ては自分次第〜」。これは、岩本氏が事業を展開するにあたって大切にしている考え方である。接骨院や支援施設において、プロフェッショナルが関わる以上、専門知識や技術が求められるのは当然だ。その上で、職員や患者、支援対象者とその家族に対して「人間」としてどう向き合い、互いに成長していくかが重要だと考えている。
「出会った全て人の人生を良いものにするきっかけを作り、その実現をお手伝いしたい」と語る岩本氏。彼は、自分一人の力には限界があるものの、同じ方向を向く仲間が集まれば、その可能性は遥かに広がると信じている。
IWAMOTOのスタイルは、志を持ち熱意ある人には力を存分に発揮できる環境を提供し、進むべき道が見えていない人には多様な経験を通じて自身の興味を探る「自分探し」の機会を与えるというものだ。このアプローチは職員だけでなく、サービス利用者にも同様に適用される。流れに身を任せるのではなく、時には痛みを伴いながらも前進していくことを期待しているのだ。
●障がいを理解する新たなアプローチ
岩本氏が近年力を入れているのは、支援施設の充実である。一般に「寄り添うことが大事」と言われる福祉の世界だが、彼の考えは少し異なる。
「もちろん寄り添いも重要ですが、それ以前に障がいがある子どもがなぜそのような行動をとるのか、医学、介護学、生理学的な視点から考える必要があります。福祉領域には『原始反射(※1)』と『感覚統合(※2)』という概念がありますが、これらを支援の現場に落とし込むのは実は難しい。多くの場合、個人の経験に基づいた曖昧な改善指導が行われています」
その理由は明確だ。障がいは同じ病名であっても状況は千差万別であり、一つの解決策で指導を進めるには例外が多すぎる。結局は、個人を観察し、臨機応変に対応することが求められ、その過程や成果を職員間で共有する地道な努力が必要になるのだ。
さらに、岩本氏は「子どもにはできるだけ多くの経験をさせてあげることが重要」と語る。
「例えば、長時間大人しくできない子どもは、映画やコンサートに連れて行けないことが多い。健常児と比べて圧倒的に経験が不足し、狭い世界でしか生きられません。私たちの手でその世界を広げ、子どもたち自身が自分の『できること』や『向いていること』を見つけてほしい」
夢や目標を掲げ、そこに向かって計画を立て努力を重ねる。岩本氏が目指すのは、そうした子どもたちを育てられる職員と組織をつくることだ。もちろん指導を行う職員にも、同様の姿勢が求められている。
※1:乳幼児期に見られる特定の刺激に反応する無意識の動き。成長とともに失われるが、これらが残ると発達障害が生じる可能性がある。
※2:さまざまな感覚器官から入ってくる情報を脳が整理し、適切な反応につなげる能力。統合がうまくいかないと、落ち着きや安心感などを得ることが難しくなる。
●IWAMOTOの事業目標達成には
自己成長が不可欠
IWAMOTOの具体的な展望は、まず2028年までにつくば市で支援施設を20カ所まで拡大することだ。そのためには、事業体としての強さと収益力の向上が求められる。岩本氏は、自社の知名度を上げ、信頼度を高め、事業に参加してくれる人を増やすことを念頭に置いていた。さらに、身体的に成長する子どもたちの今後を考慮し、医療・福祉の領域で成人や高齢者までトータルサポートを実践するための基盤を整えたいと考えている。
このような構想を持つ彼は、現在多忙な日々を送っている。しかし、最近では時間のコントロールが上手くなってきたとも語った。「以前は忙しいことが良いことだと考えていましたが、それだと『本当にやりたいこと』になかなか手をつけられません。今になって、ようやくその事実を実感し、工夫を凝らすようになりました」と振り返っている。
目標が具体化した今、岩本氏はIWAMOTOだけでなく、自身の成長の必要性も強く感じていた。それは、彼の自己実現の一端を担っているのかもしれない。
自社の発展に尽力する一方で、岩本氏には個人的にかなえたい夢がある。それは、海外でトレーナーとして活躍することだ。その舞台はアメリカなどの大国ではなく、東南アジアやアフリカ諸国などを想定している。
「将来的に事業が落ち着いたら、ぜひ経験してみたいです。トレーナーとして男子バスケットボール日本代表チームに加わることができ、一つの目標を達成しました。それをベースに、知人もいない新しい土地で1から活動をスタートし、個人として挑戦したいと思っています」
その夢がいつ実現するかは定かではないが、それとは別に、支援施設に通う子どもたちや職員に向けた海外研修を実施するという目標も持っている。異なる環境、文化、そして人々に触れることで、それぞれの世界観が大きく広がると考えているからだ。実現までにはさまざまな壁が予測されるが、岩本氏の「一歩ずつでも前に進む」というスタンスが、多くの人にとっての支えになるだろう。